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天才怪盗の社会奉仕  作者: ハルサメ
アルテミスの弾丸
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第11話

 我が栄凌高校は全校生徒五千人を超える超マンモス校である。日本全国から集まった学生を、金に物をいわせた最新鋭の設備がお出迎えしている訳だ。そんなわけで栄凌学園はその敷地だけでもはや一つの町として機能が充実している。寮区画には購買部と言う名の巨大ショッピングモールがあり、校内を出ないでも一日中遊べる施設が整っている。


 当然それらを全て説明するには時間があまりにも足りず、そもそも俺すら全てを把握している訳では無い。よって今日のところは校舎の案内と校内地図を使った簡易的な説明だけを行い、他の施設については明日行うことで決着した。


「あれ、結崎君?」


 分室を出たところ、丁度見知った顔と遭遇した。


「あぁ周防妹か」


「間違ってはいないけど、一応私先輩なんだからね!」


 遭遇した小柄な女子生徒、周防成美は不機嫌そうに頬を膨らませた。周防雅紀の双子の妹である。新聞部に所属し、情報通である点から分室と深い関わりを持っている。


 そして先日のギルド崩壊の立役者でもある。


「これからどこかに行く感じ? それと後ろの外人さんは?」


「九月からの留学生らしい。今からその案内だ」


「あぁ聞いたよ聞いた。なんでもロシアから来たらしいよね。確かにうちってロシアの人受け入れてなかったから、それでロシア語が堪能な結崎君にお鉢が回ってきたのか」


「能力が高いのも考え物だな」


「それを自分で言っちゃうのが結崎君らしいというか何と言うのか。あ、ごめんなさい。私、周防成美って言います」


 成美さんは慌ててルナに対して手を差し伸べた。するとルナは先ほどまでのハイテンションが嘘のように、握り返して挨拶せずただジッと成美さんの顔を見つめていた。


「あれ、私なんか間違った?」


 いや、こいつはそうじゃない。


「周防……成美……」


 うわ言のように名前を復唱したルナは、しかし突然成美さんの手を握り返すどころか、そのまま手を引っ張ってハグをし始めた。


「私はルナ・アルティミーザです! 成美! とても小柄で可愛いです! 妹にしたいくらいです! 私を姉と呼んでください!」


「え!? あ、ちょ、ちょっと待ってどういうこと!?」


 成美さんは突然眼を輝かせたルナに面を食らってしまう。そりゃ突然姉妹宣言されればそうなるのも当然である。


「どうやらこいつは頭のネジが何本かぶっ飛んでるらしい」


「そうなの!?」


「いや、今そう思っただけだ」


 観光に来た外人特有の異様に高いテンションと言えばいいのか、それにしてもこのウキウキ具合は少々頭を疑いたくなってしまう。


「おいそろそろやめてやれ、あんたは初対面で妹を絞め殺す気か?」


 一四〇と少ししかない成美さんに対して、ルナは一七〇近い体格である。それはもはやハグと言うより覆いかぶさっているという表現がしっくり来る。


「おおごめんなさい、私としたことが。小柄な日本人はとてもキュートで皆可愛いですね」


 成美さんを解放したルナは生気が潤ったように満足気な表情を見せた。


「人が気にしているところを好かれるのは何か複雑な気分だよ」


「小柄なのも考え物だな」


 双子の兄の雅紀が一八〇センチ近い身長なのに比べれば、確かにコンプレックスを抱いてしまうのも無理は無いかもしれない。


「成美は流斗の仲間ですか?」


「まぁ敵では無いな」


「おお! じゃあ私の仲間です!」


 何だその理論は。


「なんだろう、この不思議オーラ全開の雰囲気。突込みが全然追いつかないよ」


 ハイテンションで言えば成美さんもそこそこ高い物を持っているが、成美さんがツッコミに偏っているのに対してルナはボケ方向に全部振りしている。相性がいいのかと思いきや、意外にも矛盾のような関係になってしまうのかもしれない。


「分室に何か用だったのか?」


「いや、やっぱりまた今度にするよ。ちょっと今日は疲れたかな」


「成美、また今度ね!」


 完全に生気を吸われたように肩を落としながら去っていく成美さんを、ルナは満面の笑みで手を振って見送った。




 順調に校舎内の案内が終了し、俺たちはショッピングモールの外れにあるカフェテリアで一息ついていた。夏休みの夕方ということもあり、カフェテリアを利用する生徒はまばらだった。


 俺たちは店内ではなくテラスの方に回り、端の席に腰掛けた。


「この学校は本当に大きいね。まるで一つの街みたいだ」


「俺も始めはそう思ったよ。なんでこんな馬鹿でかいように作ったんだってな」


「生徒たちも皆優しくていい人ばかりだ。やっぱり日本っていい国だね。平和の象徴だよ」


 第二次大戦以降、日本はあらゆる軍事行動を自粛してきた。日本国憲法第九条、戦争の永久放棄は日本が誇る平和への意思に他ならない。



「****************」



 ルナの話す言語が変わる。日本語でも、そしてロシア語でもない。


 こちらを試すようなそんな回りくどい愚痴に、俺は肩を竦めながら答える。


「なら腹いせに、学園の人間を皆殺しにでもすればいいだろ?」

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