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天才怪盗の社会奉仕  作者: ハルサメ
分室推理合戦
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第5話

「というのが、学校側が行った事情聴取で明らかになったことだよ」


 該当生徒の停学が公表され、事態は終わりを迎えた。放課後に分室に集まった俺たちは解決したご褒美、とのことで室長からことの顛末を教えてもらった。


「誤魔化してまでタバコって吸いたいものなんすか?」


 筋トレマニアが言いそうな言葉である。


「タバコを吸いたいから、なんとか誤魔化そうと悪知恵を働いたのでしょう。ただ、嗜好品としての存在は否定しませんが、法律が整備されていて、健康に害ありと言われているものを好む理由が私には分かりませんが」


 成人年齢が引き下げられても酒とタバコは変わらない。国によってニュアンスは違えど、禁止されているものを行えば、そこには罰がセットになる。


「結崎君、一つ聞いてもいいですか?」


「聞いてもいいが、貸し一つな」


 返答にあーやは睨みつけるように俺を見るが、やがて観念したように深く息を吐いた。


「求める以上は、対価を払いましょう。なぜ室長が手を洗った際、匂いだと考えたのですか? あなたは妄想と言いましたが、何かしらの手がかりがあったのでは?」


 あの場で匂いを嗅げるほど室長に近づいたのはあーやだけだ。だからこそ、あーやはそこが気になる。自分は何を見落としていたのかと。


「匂いという情報がなければ、あーやの音楽室という読みは妥当性も十分だ。俺も考えなかったわけじゃない」


「でも君はそれを却下しました。そこを確信させたものはなんですか?」


「出題者の言葉を重んじるなら、そこは適切じゃないと踏んだ」


「室長の言葉? 音楽室を否定する何かがあったか?」


 思い出すように周防は首を傾げる。


「問題の前提として、室長は『一か所だけ寄った』と言った」


「それがどうした?」


「あ」


 なおも首を傾げる周防の横で、あーやが珍しく間抜けな声を漏らした。


「まさか、そういうことですか。確かにそう言われてみれば、そうですが」


「おいおい何のことだよ! 俺にはさっぱりだよ!」


 周防がトレードマークのツンツン頭を搔きむしる。


「一か所だけってそりゃ問題として当たり前だろ」


「それはそうなのですが、私の推理ではそここそが破綻ポイントなんですよ。私の推理では、音楽室から運び出した楽器の『搬入先』が存在しないといけないんです」


 室長の条件は『校舎外には出ていない』『特別棟の一か所だけ寄った』の二点である。つまりその場所で完結しなければいけない話になる。


「つまり私の推理では一か所だけ立ち寄ったという条件を満たしていない。だから結崎君は音楽室を却下したのですね」


「優先順位は下がったってところだな。あとは美術室はあーやの言った通りだ。理科室は水道があるが、薬品を扱う理科室で手を洗わないはおかしいし、他に有益な情報がないから却下。悩んだのは技術室だ。確かに何か作業をしていれば汗をかくし、手は汚れる。技術室には水道もないし、手を洗わないっていう条件も満たしている」


「ではなぜ技術室は外されたのですか?」


「手持ちの条件で技術室を推せる理由がなかった、が正直なところだ。家庭科室ならば粗削りでもつじつまが合う話が作れる。家庭科室関係で依頼が出ているんだから、何かしらの事件性が存在する。そして匂いについての依頼が複数個存在した。それこそ室長の言った推定だな」


 火のないところに煙は立たない、とはよく言った物だ。物事には何かしら理由がある。集団が動けばその痕跡が残る。それがまるでドミノ倒しのように関連していき、やがて一つの真実に繋がっていく。かもしれない。


 ただ一見して無関係のような出来事でも、何かが接着剤となって結びつくか分からない。バタフライ効果という話はあるが、事実は一つとしても、見方や捉え方、立場が違えば表現の仕方は十人十色だ。

 

 例えば人がぶつかった事実がある、片方は進路を邪魔されたと言い、もう片方は相手がぶつかってきたと言い張る。どちらがどう正しいかは監視カメラなどで立証しないといけない。ここで当人たちの主張を聞き続けても進展はないのだ。


「事実を多角的に見る。そういうことですか。勉強になります」


「いろんな意味で情報にとらわれないことは大切ってことだ。例えばこんな問題がある。『正面から見ても長方形、真上から見ても長方形に見える立体の名前は?』とか」


 問いに、真っ先に答えたのは周防だった。


「それってただの直方体じゃねえのか?」


 こいつ話聞いてたか?


「この話の流れ的にその答えは間違っているということですよね? 前から見ても、上から見ても長方形な立体。確かに直方体という答えにしか行き着きません」


 腕を組みあーやは思案している。その横の室長がやたらとにやにやしているのが気になる。多分というか、この人はもう知っている。


「結崎君、それって横から見たらまずいかい?」


 だからこそのこの質問である。当然まずいよ。


「横、横、横」


 そしてそれがヒントとなり、あーやにひらめきをもたらす。


「なるほど! 分かりました!」


 パチンッと手を鳴らし、あーやの顔が一瞬にして晴れ晴れとしたものになる。


「答えは『円柱』ですね」


「は? 円柱って底面が円の柱体だろ? 真上から見たら円じゃねえか」


「アルミ缶のように立ててしまうとそう見えます。底面で立たせるのではなく、側面で寝かせてみてください」


 腕を組み目を瞑った周防は、五秒ほど静かにしていると、


「マジだ! 長方形だ!」


「これで一つ利口になったな」


 見方によって、意図的に表し方を変える手口もあったりする。偶然にも勘違いされてしまうことだってザラにある。それに気づき、真実にたどり着けるか。


 俺たち凡人がそれを推定するためには、数多くの経験を積むしかないのだ。

短編として書かせて頂きました。数年前に書いたものを手直ししながら、何とか形にしようという思いで書きました。構想の中では進んでいるものの、なかなか文字におこすには至らず、作品としてお出しすることができていないことが申し訳ありません。また少しずつ、流斗たちの物語を進めていけたらと思います。お読みいただきありがとうございました。

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