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天才怪盗の社会奉仕  作者: ハルサメ
分室推理合戦
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第4話

「なるほどなるほど。周防君といい、君塚さんといい、それぞれ独自の情報からいろいろ考えてくれたね。それでは最後に結崎君、君の番だよ」


 三人の視線が俺に向く。周防の論理はあーやが潰した。だがあーやの論理も謎を残したままで完全ではない。


「君はこの問題に真実を見つけられるかな?」


 煽るような室長の言葉に嘆息しつつ、俺はホワイトボードを表にする。


「俺も想像の中で、可能性が高いものを書かせてもらった。俺の答えは『家庭科室』だ」


 俺の答えに、周防は唖然とし、あーやは睨み、室長はにやにやした。


「俺の推理の重点は、なぜ室長は手を洗ったのか、だ。だがあーやの考え通り、手の汚れを落とすなら別にここじゃなくて、作業が終わったときにその場で洗い流せばいい。わざわざこの部屋に来るまで手を大事に洗わない理由はない。つまり室長は手を洗わなければならない何かしらの理由があったが、その場では洗うことができない状況であった」


 ここまではあーやと同じだ。だからこそあーやの表情はまだ硬い。あーやの目は自分の思考の先を望んでいる目だ。その期待に応えられるかは分からないが、俺は俺の論理を信じるしかない。


「普通の汚れなら、すぐに洗えばいい。ここからは俺の妄想だったが、ここで先ほどのあーやの残した謎が生きる。謎の香り、それはおそらく香水だったんじゃないか?」


「香水だと?」


 呟いたのは周防。あーやは何やらはっとした表情で依頼リストを漁る。


「まさか家庭科の縣先生の香水?」


「依頼にもあったが、縣の香水は有名だ。気にならない生徒もいれば、不快感を示す生徒だっている。そんな香水をつけている人間の目の前で香水を洗い流すなんて、嫌な臭いですっていうようなもんだろ」


「なんで室長は香水をかけられたんだ?」


「どういう経緯かを探るには情報が少なすぎるが、可能性として挙げられるのは、別の依頼内容だ。『校内で変な匂いがする場所がある』。室長はこの匂いを探るために、香水に詳しい縣を訪ねたんじゃないか? どんな匂いかを検証している際に、手に匂いが付着した」


「じゃあ室長が冷たい飲み物を避けたのは? 入ってきたときに汗をかいていたのはどうしてだ?」


「すでにホットコーヒーでも飲んでたんじゃないか? 匂いを誤魔化す手段としてコーヒーは良い消臭効果がある。直前に熱い飲み物を飲んでいるなら避ける理由にもなるだろ。熱い飲み物を飲んだのなら、発汗していても不思議じゃない」


 質問への回答に対して、あーやは口に手を当て思案する顔をした。とはいえ、俺の考えもこじつけだ。持っている情報をそれっぽくつなげるために、あれこれ妄想しているに過ぎない。どんなに証拠が揃っても、確信するのは愚か者の仕業だ。


 ただあーやだけが持っていた情報が、俺の論理を強化するものだったことはでかい。あーやとしても自分が残した謎に明確な回答を提示されて、複雑な気持ちだろう。


「さて、三人分の推理は出揃った。室長、真実を話そうか」


 ここでやっと親が語る番が来た。謎の根源、出題者。真実はどこにあるのか。


「三者三様、色々な考えがあるね。でも答えは一つしかない。そうだね、答えを言うのなら、僕が先ほど立ち寄ったのは」


 そこで室長は俺、あーや、周防の順番で見た。


「『家庭科室』。結崎君、正解だよ」


 答えを聞いた瞬間、周防は机に突っ伏し、あーやは静かに目を閉じた。


「では家庭科室を訪れた理由も結崎君の推理通りですか?」


「そうだね。最近校内で確認されている謎の匂いについて、少し縣先生と話をしていた。そこで、匂いがコーヒーと何かを混ぜたものだってことに行き着いてね。コーヒーと香水の関係性を調べるときに匂いが移ってしまって、手を洗ったんだ。ついでにホットコーヒーももらったんだよ」


「校内でコーヒーの匂いってそんなに珍しいんすか?」


「単純にコーヒーを飲んでいるならまだしも、屋外でも匂うって話もある。そこで飲料ではなく、匂いとしてコーヒーがどんな効果を持っているか調べたんだ。さてここから特別ステージだ。この案件、君たちはどんな結末を予想する?」


 室長はにやにやとした顔で聞いてくる。特別ステージとはまたふざけたことを言い始めた。


「なんでコーヒーの匂いがしたってことですか? 単純に外で缶コーヒーでも飲んだ奴がいたとかじゃなくて?」


「だとしたら依頼にもコーヒーの匂いと書かれているはずでは? 室長が言うように何かを混ぜた匂いの何かを探らないと」


 コーヒーには消臭効果がある。匂いを混ぜてもそこまで悪臭というものにはならない。屋外で匂うほどだ。缶コーヒーを飲んでいました、という訳には行かないだろう。


 学校内でそこまでして、匂いを消したがる行為があるのだろうか。例えばそう、何かを「隠そうとしている」とか?


「タバコか?」


「流石だね」


 褒められているはずなのだが、手のひらで転がされている感があって、むしろ不快だ。


「タバコって、どういうことっすか? まさか誰か生徒が吸っているとでも?」


「そして喫煙した時に出る匂いを誤魔化すために、コーヒーの匂いを利用した?」


 周防とあーやがそれぞれ結論に至った。


「確か職員室のコーヒーがなくなったとかいう依頼があったような。じゃあ誰かが職員室からコーヒーを盗んだってのか? いったい誰が?」


「いえ、聞いてみる価値のある方々は見当がついています」


 周防の問いにあーやが静かに答える。その目線の先には、先ほどの依頼リストがあった。



 二日後、コーヒー研究会を発足したいという依頼を出していた生徒八名が、校内での喫煙および、職員室内の物品の盗難の疑いで二週間の停学処分となった。


 喫煙した際にコーヒーで消臭していたが、次第に費用がかさみ始めたため、研究会として支援を受けようと画策したようである。


 そうしたところ、グループの数名が職員室に目をつけ、犯行に及んだとのことだった。人の欲が度を過ぎた罰と言えるだろう。

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