表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天才怪盗の社会奉仕  作者: ハルサメ
ミネルヴァの梟、探る
10/115

10話

 すると君塚先輩は俺の正面まで歩み寄ってくる。真っ直ぐにその瞳で見つめられると、心臓を鷲掴みにされたような気分に晒され、どうしても悪態をつきたくなってしまう。反抗期真っ只中のガキか俺は。


「改めて。学芸特殊分室所属二年、君塚絢音です」


「結崎流斗だ。敬語の方がいいか?」


「室長に使わず、私に使うのは道理に合わないでしょう。楽にしてください」


「……因みになんて呼べば良い?」


「お好きにどうぞ。私の方は結崎君とお呼びします」


「じゃあ……あやや?」


 ものすっごい睨まれた!


「……因みに聞きますが、何故それを採用しようとしたのですか?」


 平常心を保とうとしているが、澄ました表情の裏で不服に感じているのが分かる。


「単なるコミュニケーションだ。せっかく自由にして良い権利をもらったんだからな」


 正直言うと、呼び方だけでも軽くしないと、息が詰まりそうなんだよ。


「確かにお好きにとは言いましたが、初対面としての礼儀はないのですか?」


「ならお好きになんて身勝手な言い方はしない方がいい。俺に必要最低限の礼儀を期待するな。しなくていいなら俺は全力でしない。そういったことには手を抜かない」


「全力のかけ方が見当違いの方向に飛んでるけどね」


「純粋なんだよ。それでどうする? どうしても嫌ならば、妥協案を出すが?」


「……因みに聞きますが妥協案とはどうなるのですか?」


 あやや(暫定)は難しい顔をしながら尋ねてくる。


「意外だな。君塚先輩と呼ばせればそれで済むはずだろう」


 ここまで話に乗ってくるとは意外だった。正直俺の態度はふざけている以外の何物でもない。それに律儀に付き合うとはよほどの暇人か、よほどの馬鹿のどちらかだ。


「いえ、お好きにと言ったのは私です。今さらそれを撤回するつもりはありません」


 なるほど、確かに馬鹿(真面目)だ。ここまで直線的だと逆に笑えてくる。そういったところも似てはいるが、こちらはかなり不器用なようだ。


「それで、妥協案はどうなっているんですか?」


「んじゃ、あーやとか?」


 食いついてくると思っていなかったため、本当に適当なあだ名だった。俺としてもここまで来てしまった手前、君塚先輩と呼ぶ気にはなれなかった。


「……分かりました。あーや、いいでしょう」


 渋々、といった風情であーや(公認)は答える。納得したくはないけれど、自分の中の意地と天秤にかけた結果、甘んじてそのあだ名を受け入れたようだ。


「なんならそっちも俺にあだ名つけてもいいぞ?」


「いえ、遠慮させていただきます、結崎君」


 語尾を強調してきっぱりと言われた。受け入れはしたが、根には持っているらしい。


「うん、それじゃあ親睦も深めたところで、早速今日の研修に入ろうか」


 室長を先頭に俺たちは事務室へと戻ってくる。


 今まで静かに観戦していた室長は手を叩き、楽しそうに笑みを浮かべる。何だかんだ乗せられてしまったが、もはや気にしても仕方が無いだろう。『世の中、なっちまったもんは仕方が無い。うじうじ悩むな、不遇を嘆いている暇があんなら少しでも状況改善に努めろ』との言葉は、親父から耳にたこができるほど聞かされた。


「何かめぼしい案件が届いているのですか?」


「そうだね、仕事なら何件かあるけれど……ん、ちょっと待ってね」


 机に広げた書類を眺めていた室長は、目線をパソコンのモニターに移した。


「応援ですか?」


「いや、通報だね。どうやら体育館側の部室棟の方で問題が起こったらしい」


「分かりました、直ちに向かいます」


 言葉とともにあーやは席を立つ。


「頼んだよ。結崎君、最初から突発的な問題だけど、まぁそれこそがここの存在意義だ。期待しているよ」


「期待されると裏切りたくなる性質なんだが?」


「期待しているよ」


「……そうかい、分かったよ」


 何を言っても聞き入れてもらえないらしい。なら、もうやることは決まっている。


 俺は先に部屋を出て行ったあーやに続いて、分室を出た。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ