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天才怪盗の社会奉仕  作者: ハルサメ
プロローグ~ミネルヴァの梟、捕まる
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1話

推理要素を取り入れた学園物として書いた作品です。1日更新で頑張っていきますのでよろしくお願いします。

 結崎志織は自分のことを理論派であると考えている。ただの職業病であるかもしれないが、感情を一切抜ききった理論で思考を働かせるタイプの人間であると自覚している。これは学生時代に確立された意識であり、それから二十年が過ぎた今でも、自分の最たる強みとして認識している。


「結崎警部」


 車内にいる志織に、外から部下が声をかけた。軽く手を上げて応え、志織は乗っていたパトカーから降りる。周囲には志織が乗っていたのと同じパトカーが何台も停車していた。それらのいくつかがサイレンを鳴らし、赤い光が薄暗い夜の空間を明るく照らしている。誰がどう見てもただ事ではないのは明白だ。


 その光景から視線を動かし、志織は直ぐ傍にそびえる巨大な建物に目を向けた。ギリシャのパルテノン神殿を模した建造物。日本最大の美術館、栄凌美術館である。国内外の多くの美術品を所有しており、その数は国立国際美術館をも越えるとされ、名実共に日本を代表する美術館である。その美術館に警視庁捜査三課の志織がいる。それはつまり美術品の盗難が行われた、ということだ。


 いや、正確には行われそうになったと言ったほうが正しい。実際に美術品は一品も盗難されてはいない。


 警視庁に予告状が送られてきたのは、今朝の出来事だった。


『今夜、天空に飛び立つ少女をいただきに参上する        ミネルヴァの梟』


 天空に飛び立つ少女とは、ルネッサンス全盛期の画家であるルドンの代表作だ。ルドンは生前にはパッとした活躍はないが、三十歳半ばで亡くなった時に死を哀れんだ画家の友人が彼の絵を広めたことで、死後に名声を獲得した画家である。


 天使たちに囲まれながら天へと飛び立つ少女の表情は不安にも悦楽にも見え、その解釈は専門家にも意見が割れており、その独特なタッチが高い評価を受けている。その名画を盗みだす事を予告する文面、警察に対する挑発なのは明らかだった。


 ましてや送り主はかの有名な大怪盗、ミネルヴァの梟、別名グラウクスだったのだ。グラウクスは古くから世界中に悪名を轟かせている国際犯罪組織『オリュンポス』の幹部であり、世界中の絵画や骨董品、宝石などを盗んでいる大怪盗である。その犯行はオリュンポスの中でも一際有名であり、犯行現場に梟の置物がそっと置かれていることは、街中の人間に聞いても八割が知っているほどだ。


 そんな大怪盗が予告状を送りつけてくると聞けば、どこぞの漫画やらアニメを連想させるが、グラウクスの予告状はもはや一種の礼儀とも言えるほど通例化されている。予告状が送りつけられ、その犯行を阻止しようと警察が躍起になるのだが、結局犯行を許してしまう。そんな、本当に物語のような展開を毎回行っているのだ。


 そのため今回の現場指揮を任され、長年グラウクスと合間見えてきた志織が今度こそはと気合いを入れていたところ、昼過ぎになって匿名の文書が届いた。


『梟は今日の終わる鐘と共に、空へと飛び去る』


 おそらく空へと飛び去るというのは逃走経路のことで、鐘の部分は美術館の隣にそびえる教会の鐘を指している、とは捜査本部の見解だ。


 だがこの情報に捜査本部は二手に分かれてしまう。この情報を元に捜査網を構築すべきという意見と、この情報はブラフであり捜査を混乱させる狙いがある、という意見だ。


 どちらの言い分も理解が出来る。だが今までこのような情報提供はなく、ただでさえ毎回苦汁を舐めている捜査本部では、前者を支持するものが圧倒的多数であった。


 だからというわけではないが、志織はその情報を元に捜査網を展開させた。そして志織は賭けに勝った。今から十分ほど前に、グラウクスを確保したとの連絡が入ったのだ。


 志織にはあの文書が本物であるという確信があった。しかし、これは理論的な何かがあったわけではない。志織は自身が理論派だと自負していながら、理論で選ぶに選べない選択を迫られた際、直感に従うことにしている。それは学生時代の教訓であり、そして志織の信条でもある。


 事実、志織はその直感に幾度となく救われてきた。


 二人の子を生み、四十目前の年齢にもかかわらず二十後半と言われても納得できるほどの美しい容姿の持ち主は、それに似合わず幾重もの修羅場を潜り抜けてきた経験があった。

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