流れ星の降る夜
大学で書いているものをUPしました。
流れ星が降った夜、それが彼女と初めて出会った日だった。
唯一の趣味が天体観測という事を除いては、至ってどこにでもいる普通の中学生。いや、他人との交流が下手で未だに親しい人物がいないのは普通ではないか。それとも今どきこれぐらいは普通なのか。それを判断できるほど人を知っているわけではない。
昔から人を避けていた。
これといって特に理由があったわけではない。人と交わるよりも、空を、星を眺めているのが好きだっただけである。
両親は何も言わない。彼等の関心は、三つ上の兄にしかない。
天体望遠鏡を買ってほしいと頼んだ時、彼等は買ってくれた。決して安い物ではないはずなのに。
だけど、理由を知れば簡単な事だった。買い与えておけば、構う必要がなくなると考えたのだ。
だが、僕はその事を知っても悲しむ事はなかった。
望遠鏡を買ってもらってからは、毎日近くの山で星を眺めた。近くには街はあるが、その丘は人工の光が全く来ないところだった。周りの聞こえてくるのは、小さな小さな虫の声。それを伴奏に聞きながら時間があれば何時までも星を眺めていた。
その日は珍しい事が起こった。いつも通り、星を眺めていた。
すると流れ星が流れた。流れ星自体はそれほど珍しい物ではない。珍しいのは、人が声をかけてきた事だった。
「何か願い事はしたの?」
その一言に、僕は後ろを振り向いた。
そこに立っていたのは、一人の女の子だった。
「願いごとって?」
「良く言うでしょ。流れ星が流れるまでに三回願い事を言うと、その願いは叶うっていうの」
彼女は、そう言うと僕の隣に座った。
「やっぱりここは、よく星が見えるわね」
「星を見るのが好きなの?」
「えぇ、好きよ。そう言う君もでしょ」
「うん」
それから、星のこと、宇宙のこと、色々なことを話し合った。長い間話し合っていたのか、気がつけば空が緋色に染まり始めていた。
学校があるので慌てて山を降りた。
―ちゃんとした会話をしたのは、一体何時ぶりだっただろう―
そんなことを考えながら気がついた。まだ彼女の名前を聞いていなかった。
だが、焦ることはなかった。不思議と彼女とまた会える気がしたからだ。
次の日も丘で星を眺めていた。
ガサガサと後ろの草むらから擦れる音がする。
――なんだろう――
恐る恐る音がする方に顔を向けた。
すると、草むらから人が出てきた。
「こんばんわ。今日も来ていたんだね」
現れたのは彼女だった。
それから、また二人で星を眺めた。
そんな日々が続いた。
彼女に名前を聞こうかなと思ったが、何となく聞かなかった。
人と関わりあいを持つのが億劫だったからだ。
それでも困る事はなかった。
初日こそ色々な事を話したが、あまり話をしなかったからだ。
なので、互いの呼び名を知らなくても会話ができた。
こんな奇妙な関係だが、夜を楽しみにしている自分がいた。
人と関わりを持つ事も良いかと感じ始めた。
ある日、彼女は来なくなった。
その日は、偶々だと、何か理由があったのだと思った。
だが、次に日も、その次の日も彼女は来なかった。
――きっと、旅行にでも行っているんだよ――
そんな淡い希望を持ちつつ、普段通り星を眺めた。
しかし、そんな淡い希望も一カ月という長さがその可能性を打ち砕いた。
「今日も来なかったなぁ。いいさ、元の日々に戻るだけさ」
そう、彼女が来なくなっただけで、他に何も変わらない。ただ、静かな日常に戻っただけなのだから。
「人と関わりを持ったって、つらいだけじゃないか」
誰もいない星空の下で、ポツリと呟いた。
この一カ月、彼女が来なかった日々でも、毎日星を眺めていた。
彼女がいなくなり、元に戻っただけなのにあんなに楽しかった時間が色褪せてしまった。
「こんなことなら、人と関わりなんて……」
人と、彼女と関わりを持たなければ、こんな思いをすることなんかなかったのに。
人と関わりなんて、彼女と出会わなければ……。
――でも、彼女と出会ったから――
彼女と出会わなければ、あの日々はなかった。
今までつまらないと思っていたこの世界が、あんなにも楽しく輝いていたなんて知らずに生きていた。
彼女と、人と関わったから知れた世界。
人との関わりは、時に辛く悲しい事がある。でも、それだけじゃない。楽しく、嬉しい事もたくさんある。
――世界はこんなにも大きかった――
今まで自分の殻に籠り、小さな世界に生きてきたのが急にバカバカしくなった。
そんな風に感じている自分を自然と受け入れられた。
星を、世界を眺めると色褪せた世界に色が戻っていた。
ガサガサと後ろの草むらから擦れる音がする。
自然と音がする方に顔を向けた。
すると、草むらから人が出てきた。
その姿を見て、笑みを浮かべながら一言言った。
「久しぶり」
完
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