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第6章:夜毎の逢瀬、深まる依存

 プロジェクトの成功を機に、圭の日常はかつてないほどの輝きに満ちていた。


 社内報にインタビュー記事が掲載され、経営陣からも名指しで評価を受ける。任される仕事の規模は日ごとに大きくなり、以前は圭の存在に目も留めなかった他部署の同僚たちまでが、廊下ですれ違うたびに親しげに声をかけてくるようになった。身に纏うスーツを新調し、整えられた身だしなみと自信に満ちた佇まいは、数ヶ月前の生気を失っていた男の面影を完全に払拭していた。


 だが、現世の栄光が増せば増すほど、圭の胸の奥は奇妙なほど静まり返っていた。


 昼間のオフィスで交わされる賞賛や、宴席での賑やかな笑い声のただ中に身を置きながらも、圭の意識の半分は常にあの深い森の奥へと彷徨っていた。

 彼らにとっての現実は、自分にとってはもはや薄氷のように脆く、色褪せた幻影に過ぎない。どれほど華やかな光を浴びようとも、それはすべて彼女という名の月光が落とした影にすぎず、自分が成し遂げた成果のすべては、夜の廃墟で彼女に手渡すための「土産話」以上の意味を持たなくなっていた。


 日が西に傾き、ビル群の輪郭が茜色の夕闇に溶け落ちる時刻になると、圭の身体の奥で甘い疼きが目を覚ます。

 デスクを片付け、夜の帳が下りた街を抜け出して車へと乗り込むその瞬間、圭の魂はやっと本当の呼吸を取り戻すのだった。


 旧道を滑るように走り抜け、深い静寂に包まれた『翠嶺閣』へと向かう。

 崩れかけた石段を踏みしめ、特別室の扉を開ければ、そこにはいつも彼女がいた。

 今夜の彼女は、壊れた硝子窓から差し込む銀色の光を浴びながら、静かに圭を待っていた。透き通るような薄絹の衣が夜風を孕んで微かに揺らめき、その儚い横顔は、夜の静寂そのものを具現化したかのように美しい。


「圭さん……今夜も、会いに来てくださったのですね」


 鈴を転がすような澄んだ声が、静かな部屋に満ちていく。

 圭は彼女の傍らに寄り添い、床に腰を下ろした。昼間に手に入れた成功の数々を、誇らしげに、そして何より愛おしそうに彼女へと語って聞かせる。


 彼女は圭の言葉の一つひとつに、慈愛に満ちた眼差しで耳を傾けていた。


「素晴らしいわ、圭さん……。あなたがその世界で多くの人に愛され、求められていることが、私には自分のことのように誇らしい」


「いいえ……これはすべて、あなたのおかげです。あなたが僕の孤独を受け止めてくれたから、僕は前を向くことができた」


 圭が伸ばした手を、彼女は拒むことなく受け入れた。

 重ね合わされた指先から、氷のような絶対的な冷気が肌を刺す。しかし、その冷たさはもはや恐怖などではなく、圭の血管を駆け巡る血液を甘美に研ぎ澄ます、至上の清涼感となっていた。

 彼女の指が圭の掌を優しく包み込み、冷えた頬を圭の肩へとそっと預ける。


「私は……この冷たい暗闇の中で、ずっと一人でした。誰にも知られず、消えることも叶わずに……。けれど、圭さんがこうしてここへ来てくださるだけで、私の永い闇は、あたたかな光で満たされるのです」


 彼女の吐息が首筋を撫でるたび、圭の胸の奥底で、言いようのない愛おしさが波打った。

 生者たちの暮らす明るい街には、自分の魂の半分も残っていない。自分を真に必要とし、その存在のすべてを肯定してくれるのは、この廃墟で孤独に佇む彼女だけなのだ。彼女のいない現世など、ただの空虚な砂漠に過ぎない。


 二人の間に流れる時間は、世界の理から完全に切り離された、甘やかで静謐な聖域だった。


 崩れ落ちた天井の隙間から降り注ぐ満天の星明かりは、朽ち果てた部屋の隅々を青白い光のヴェールで包み込んでいた。互いの輪郭を確かめ合うように寄り添う二人の姿は、永遠の静寂に沈む古代の海底で、決して解けることのない絆を結び合った二つの光のように、どこまでも深く、純粋な輝きを放ち続けていた。


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