「君はいつも絵ばかり描いているね」からの展開は、想像以上に冷たいもので……!?
「ロッゼーリア、君はいつも絵ばかり描いているね」
「え……あ、はい。好きなんです、絵」
ある日のこと、婚約者である彼ウォリーオスから唐突に声をかけられて、戸惑いながらも言葉を返していたのだけれど。
「君との婚約、破棄とさせてもらうよ」
やがて告げられたのはそんな言葉で。
「絵ばかり描いているような女とはやっていける気がしない。女ならもっと、常に、自分の見た目の魅力を高めることを考えていないとな」
「何を……?」
「だから、君みたいな、見た目を高めること以外に興味を持っている女は無価値だと言っているんだ」
冷たい言葉を紡ぐ彼の表情もまた非常に冷たいもので。
「女ならこうすべき、ということをできない君は、完全なる出来損ないだ」
「それはさすがに酷くないですか……」
「ほら! そういうところも! 男に対して、しかも婚約者である男に対して、そうやって言い返すようなところも救いようがない!」
では、と、彼は続ける。
「無価値な女、さらばだ」
こうして私たち二人の関係は終わりを迎えた。
共に生きてゆくと思っていた。
けれどもそんなものは幻でしかなく。
終わる時には終わってしまう――それが現実だった。
◆
「ロゼ様の画集見た!?」
「見た見た! 今回もほんっと最高だった! 作風好きすぎる!」
「麗しいですわよね」
「どうしてあんなに綺麗な絵が描けるのでしょうね、本当に……本当に、もう、尊敬しかありません」
あれから数年、私は今、絵を描くことを仕事としている。
ウォリーオスから切り落とされたことは残念ではあったけれど、でも、それがあったから今の私がいるのだと考えるのであれば……婚約破棄される、というのも、悪いことではなかったのかもしれない。
彼が私を愛していたら、絵描きロッゼーリアは誕生しなかった。
それゆえ、彼と離れたことへの後悔は一切ない。
「今回のも本当にすごかったわよね! びっくりした! 意外性があるっていうかさ、特に六ページ目!」
「それ思った! ほんっと良かった!」
「ドラマチックでしたわよね」
「あれほどまでに迫力のある絵を見たことがありません、本当に……それと、これは個人的な好みかもしれませんけど、十ページ十一ページの絵もものすごく素敵だと思いました」
私の絵で皆が笑顔になってくれる。
そんな世界は何よりも愛おしい。
普通に生まれ普通に育ってきた私にでも誰かのためにできることはあるのだ、と、そう思える時の幸福感は信じられないくらい大きい。
ちなみにウォリーオスはというと、路上で絵を描いていた女性にいちゃもんをつけたうえ頬を数回張ったということで逮捕されたそうで、今は罪人として牢屋の中で寂しい生活をしているそうだ。
彼を愛する者はどこにもいない。
美味しい食事すら与えられず。
温かな寝具で眠ることもできず。
これから先、長い間、彼は犯罪者として寂しく生きていく。
彼は私を無価値な女と言ったけれど、それは間違いだった。
私が、私の絵が、多くの人たちから愛されているということがそれを証明している――そして皮肉にも、今や彼こそが無価値な人となってしまっている。
称賛に勘違いして偉そうなことを言う気はないけれど。
牢屋の中の罪人と多くの人から愛される絵描き、どちらの方が価値があるかなんて、誰にでも分かる簡単な問いでしかない。
そして、その答えは、彼が何を言おうとも変わりはしないだろう。
私は今日も絵を描く。
白い舞台に向き合って。
内なるものを解放し。
真っ直ぐな色を踊らせる。
ある時は悲しく、ある時は嬉しく、そんな心情をありのままの姿で描き出す――そうして生まれる世界が、誰かに少しでも愛されてくれたなら、それは最も理想的な結果だ。
ただ、この道を進む。
これからも、いつまでも、ずっと。
◆終わり◆




