なんで私を?
気まずいまま一緒に家に帰り、私は自室でのんびり過ごしている。
なんだか当たり前のように一緒に帰ることになんの疑問も抱かなくなった自分が少し怖い。
少し経ったら気まずさも解消されて普段通り色々話せると思っていた。
「なんだけど……」
てっきり私が自室へ戻る前にここに来て、「おかえりなさい」とでも言ってくれそうだと思っていたのに。
めいの姿はどこにもなく、この部屋にいる人間はどうやら私だけらしい。
「一緒にゲームでもしようかと思ってたんだけどなぁ……」
ゲームで機嫌でも取れないかと思っていたが、一人だとわかると急に睡魔が襲ってきた。
とりあえずベッドに横になろうと毛布を捲る。
するとそこに、私以外の人間の姿があった。
すぴすぴと寝息を立てて、気持ちよさそうに眠っているめいの姿が。
最初はどうしようかと思ったけど、しばらく考えて隣に入れてもらうことにした。
「ねむ……」
少し狭いが、仕方ない。
もう退かすのもめんどくさいし、一緒に寝ると暖かいからそれでいいと思っていた。
その時は本当に、どうかしていたんだと思う。
あまりの眠気に、めいが喰う側であることを忘れてしまっていたんだ。
「――つかまえました」
気づいた時にはもう遅かった。
めいの腕が私の身体に回っていたから。
がっつりホールドされ、私は身動きが取れなくなった。
「な、なにして……っていうか、起きてたの!?」
「当然です。お姉ちゃんを差し置いて先に寝たりしませんよ」
「う……確かに……すごく説得力がある……」
めいなら私の寝顔を眺めるために一晩中起きていそうな気がする。
そして私もそれが恥ずかしくて、眠れなさそうな気しかしない。
――というか、そんなことはどうでもいい。
「ところでめいさん? あの、そろそろ離してもらえると……」
「え? 離すつもりはないですよ?」
「――はい??」
「お姉ちゃんをどこにも行かせたりしませんから」
「え、え、どういうこと??」
めいはさらに私を強く抱きしめる。
なんでめいはそこまで私に懐いてくれるのだろう。
どうしてそこまで心を許してくれるのだろう。
疑問ばかりが脳を支配する。
私には、誰かに好かれる要素なんてないはずなのに。
「お姉ちゃんにはわたしだけを見ててもらいたいんです……」
私の胸に顔を埋めて、めいはそんなことを呟く。
どうして、私なのだろうか。
他にいい人なんていくらでもいたはずなのに。
自分が好かれているということが自惚れならそれでいい。私の勘違いってだけで済む話だ。
でも、もし。
もし私のことを本当に好いていてくれるのなら、話は複雑になってくる。
だって私は……
「お姉ちゃん? どうしたんですか?」
めいは心配そうに私の顔を覗き込んでくる。
――やめて。そんなことされたら……
「も、もしかして体調悪いんですか? お薬持ってきた方がいいですか??」
めいがあたふたとベッドの上で慌てふためく。
そうすると私の視界もグラグラ揺れ、現実と虚構の区別がつかなくかる。
もう、気づいた時には手遅れだった。
私はめいの手首を強く掴んでいた。
「お、お姉ちゃ……」
「私を離さないっていうなら、私もめいを離さなくていいんだよね?」
「ふぇ……?」
めいはすごく戸惑っているように見えるけど、私はもう抑えられなかった。
止めることなんてできない。
私はきっと、同じことを繰り返す。
「めいを離したくない。ずっと私だけを見ていてほしい。私だけのものにしたい。ずっと一緒にいたい。私のそばにずっといてほしい」
それが全ての答え。
きっと、気づかないうちに、すごく大好きになっていたんだ。
まだ知り合って何日も経っていないけど、めいが私に懐いてくれているように、私もいつの間にかめいに心を許していたのだろう。
私は、愛に貪欲だ。
めいに求められる度に、私はそのことに快感を覚えて〝愛されている〟ということを実感していた。
だからこそ、もう離したくなんてない。離す気はない。
「だから、私の――」
「もちろんです! わたし、そのためにお姉ちゃんのところに来たんですから……!」
「……え?」
「わたし――お姉ちゃんのお嫁さんになります!」
「……はい!?」
この子はいきなり何を言い出すんだ。
いや、まあ、私もそういう感じのことを言っていたんだけど。
具体的に言葉にされると、なんだか照れくさい。
私は言葉に詰まってしまった。
「嫌、ですか?」
「い、嫌じゃないけど……」
「えへへ……嬉しいです」
そんな心底嬉しそうな笑顔を向けられたら、もう何も言えなくなってしまう。
私はこの子に甘すぎるのかもしれない。
でもまあ、それもいいのかもしれない。
めいとならきっと楽しい毎日が送れると思うから。
「別に誰と仲良くしてようがいいんです」
「え?」
「お姉ちゃんはコミュ障で陰キャで口下手なのでお友達ができるならそれでいいんです」
「あれ、今私ディスられてる?」
「でも……わたしが一番でいたい」
めいは私の手をとって、自分の胸に押し当てた。
「わたしが一番お姉ちゃんのこと大好きですもん」
私より少し小さいその胸から、どくん、どくんと鼓動が伝わる。
まるで駆け足でもしているかのようだ。
それは緊張なのか、高揚なのか、あるいは両方か。
「お姉ちゃんは……どうですか?」
めいは上目遣いで私の目を覗き込んでくる。
そんなこと、聞かなくたってわかっているくせに。
まあ、もちろん答えは決まっているのだけど。
「好きじゃなかったらこんなことしないでしょ」
私はめいの手を振りほどき、その小さな身体を抱き寄せる。
そして今度は私がめいを逃がさないように捕まえた。
私の胸の中でめいは嬉しそうに微笑んでいた。
きっと私も同じような顔をしているのだろう。




