めいの選んだ答え
「わたしは……元々向こうの世界でお姉ちゃんと恋仲になりたくてこちらの世界のお姉ちゃんに近づきました」
「……うん」
「なので、わたしは向こうの世界に帰りたいと思います」
それが、めいの答えだった。
答えを求めたのは私たちだ。だからこそ、その答えに食い下がることはしたくない。
めいが選んだ答えなら、それが全てだ。
でも、少しだけ悔しくて……少しだけ寂しかった。
私がめいと初めて出会った日、彼女は私をお世話してくれると言って近づいてきたのを覚えている。
あの時はそっけない対応をしていたけど、本当はすごく嬉しかった。
でも、そんなこと言ったってもう遅い。
めいは元の世界に帰ることを選んだのだ。
「そっか……でも、寂しくなるね」
「そうですね……」
気まずい沈黙が流れる。
何か言わなきゃって思うのに、こんな時なんて言えばいいのか分からない。
めいも俯いていて表情は見えない。
「えと……その……」
「はぁ……君たち、初対面かなにか?」
「ち、違いますけど!」
私たちが言葉を探していると、ういさんが耐えきれなさそうに口を挟んできた。
「まあ気持ちはわかるけどね。私も振られてたら言葉や反応に困ってただろうし」
「……煽ってます?」
「え!? ……いや、そうなるか」
「そうとしか思えませんでしたけど」
「それはごめん」
ういさんは、申し訳なさそうな顔をして謝ってくれた。
だけどそれはそれ、と言った感じで神妙な面持は崩さない。
「……それで、どうするの?」
「はい?」
「このままでいくつもりなの? って聞いてるの」
ういさんは少し険しい顔でこちらに問いかけてくる。
でもそれは答えに困っていた私たちを思ってのことだった。
私はめいと向き合い、話をする。さっきと違ってもう逃げない。
「私は……めいがそうしたいならそれでいいと思う」
「え……?」
「だって、それがめいの決めたことなんでしょ。それを尊重するよ。けど……」
もしかしたら重荷になるかもしれない。
でも、私はめいに伝えたい。
めいが私の元からいなくなるなら、後悔がないようにしておきたい。
「絶対に幸せになってほしい。向こうで辛いことがあったら頼ってほしい。って、どう連絡すればいいかもわからないけどね」
それは、紛れもない本音だった。
めいに幸せになってもらいたい。それは偽りのない気持ちだ。
そんな私の思いをめいは汲み取ってくれたのか、ゆっくりと頷いてくれる。
「……わかりました」
「うん」
「ありがとうございます、お姉ちゃん」
そう言って微笑んだめいの顔は晴れやかだった。
もう迷いはない様子だった。
そんな彼女に私は一つだけお願いをすることにする。
「最後にひとつだけいいかな?」
「なんですか?」
「……抱きしめても、いい?」
「……はい」
めいは両手を広げて私を受け入れてくれる。
私はめいの身体をぎゅっと抱きしめて、めいの温もりを感じる。
「お姉ちゃん……」
「うん……」
「……ありがとう」
「……うん」
私たちはしばらくそのままでいた。
めいの体温が伝わってくる。この温もりを忘れないようにしよう。そう誓った。
そしてゆっくり名残惜しげに離れると、めいは笑っていた。
いつも通りのめいだ。
その顔を見て私は安心すると同時に少し寂しさを感じた。
そんな私の気持ちを察したのか、めいは私に優しく語りかける。
「お姉ちゃん」
「……なに?」
「……またね」
その言葉に私は思わず目を見開く。
また、ということはまた会ってもいいのだろうか。
そもそも別世界に住んでるのにまた会えるのだろうか。
でも、またどこかで会える気がする。
だから今は……笑顔で見送ろうと思う。
「うん、またね」
そのまま、めいはういさんの元にいたいとのことで、私とうみだけでういさんの家を後にした。
帰り道、私たちは一言も発さず歩き続けていた。
きっとうみは私に気を使っているのだろう。いや、もしかしたらかける言葉が見つからないだけかもしれない。
「ねえ、うみ」
「なに?」
「ちょっと寄り道してもいい?」
「……いいよ」
海……は近くにないので、二人で川の方へ行くことにした。
陽は落ちてきていて、昼間の暑さは少し和らいでいる。
少し遠くに見える夕日を二人並んで眺めていた。
少し感傷的な気分に浸っていると、ふとうみが口を開く。
「……めいさんのこと、よかったの?」
「うん。まあ、ちょっと寂しいけどね」
「そっか。ういがそれでいいならいいよ」
うみはそういいながらも、少し寂しそうだった。
うみもそれなりにめいと打ち解けていたから、やはり思うところはあるのだろう。
そんなうみを横目に見ながら、私もめいのことについて考える。
めいとの別れを受け入れはしたものの、やはり喪失感のようなものは拭えない。
そうしてため息をつくと、うみがこちらに歩み寄ってくるのが見える。
「どうしたの?」
「ちょっとね」
そう言って私の手を握る。そしてそのまま手を繋いだまま歩き始める。
私は突然のことに驚きつつも、その手を振り払おうという気にはならなかった。
しばらく無言で歩いていると、ふと思い出したようにうみが呟く。
「めいさん、幸せになれるかな」
「……うん、きっと大丈夫だよ」
根拠はないけれど、めいは向こうで幸せに暮らしていけるだろうと思う。
だって、大好きなお姉ちゃんが隣にいてくれるのだから。




