子供っぽくなるのは
「ただいまー」
「おー、おかえりー。あたしの分もなんか買ってきてくれた?」
「え? うみの分なんか買うわけないけど」
「ひっど!」
うみと軽口を言い合って、家の中に入っていく。
めいと真剣な話をしなくちゃいけないから、自分の家なのに心が休まらない。
そういえば、肝心のめいはどこにいるんだろう。
まだ部屋で寝ているのだろうか。
「うあー、美味しそうな匂いっ!」
「うぎゃあっ!?」
いつの間にか背後から忍び寄っていためいに抱きつかれ、奇声をあげてしまった。
ほんとにどうやって私の背後を取ったんだろう。
「なに変な声出してるんですか」
「後ろからいきなり来られたらびっくりするよ! てか、離れてよ!」
「やです」
めいは私から離れるどころか、さらに強く抱きついてきた。
彼女の体温と柔らかさを背中に感じる。
これ以上は本能に任せてしまいたくなりそうで、私はめいを振り払おうともがくが、彼女は全く離れようとしない。むしろより強く抱きしめてくる。
「ちょっ、ほんと離れてよっ」
「やーでーすー」
「うあっ! もう、どこ触って……んん!」
めいが私のお腹の下あたりを撫でまわしてきた。
ただ撫でられているだけなのに、私の体は敏感に反応してしまう。
だめだ、今お腹を触られたら……!
――ぐぅぅぅぅ。
お腹が大きな音を立てた。
朝から何も食べていないのだから当然と言えば当然なのだが、他人に音を聞かれてるとさすがに恥ずかしい。
めいもその音にびっくりしたのか、手の動きが止まっている。
「ふふっ、お姉ちゃんったら可愛いですね」
めいがからかうような口調で言ってきた。
「うるさい……」
「ごめんなさい、でもお姉ちゃんが隙だらけなのが悪いんですよ?」
「なにその理論……まあいいや。めいもお腹すいてるよね。焼きそば買ってきたよ」
めいの拘束から抜け出し、焼きそばが入ったバッグを渡す。
彼女はそれを嬉しそうに受け取ると、リビングへ駆けていった。
やっぱりめいの分も買っておいてよかった。
めいの後を追ってリビングに入ると、すでに彼女は焼きそばを食べていた。
そんなにお腹すいてたの?
「お姉ちゃんも早く食べましょー」
「う、うん」
めいに急かされ、私も席について焼きそばを食べ始める。
「美味しいですね!」
「そうだね」
確かに美味しい。でも私は、めいが作ってくれた料理のほうが好きだ。
毎日作るのは負担かもしれないが、それでもめいの料理が食べたい。
コンビニやスーパーの市販品では物足りなくなってしまった。
「ごちそうさまでした」
「ごちそうさま」
焼きそばを完食して一息つくと、めいが急にこんなことを言ってきた。
「そういえば、お姉ちゃんに話があるんですよ」
「な、なに?」
なんだろう。もしかして大事な話だろうか。
ういさんのこともあって、どうしても身構えてしまう。
でも、その心配は杞憂に終わった。
めいが口にしたのは、私の予想とは全く違うことだった。
彼女は少し恥ずかしそうにしながら、こう言ったのだ。
「お姉ちゃん、わたしに黙って急にいなくなられるとびっくりするし寂しいので出かけるときはちゃんと声かけてくださいね?」
「え? それだけ?」
「それだけってなんですか。大事なことですよ!」
めいは頰を膨らませながら抗議してくるが、私にとっては拍子抜けする内容だ。
いやまあ確かに、急にいなくなられると寂しいし悲しいのも分かるけど……
「確かにそうだけどさ、そんなに声を荒らげるほど大事なことなの?」
「当たり前じゃないですか!」
めいが凄い勢いで迫ってくる。
近い近い! そんなに近いと心臓が持たないって!
「わ、わかったから離れてよ……」
「あっ、すみません」
めいは素直に元の位置に戻ってくれたが、まだ納得のいかない顔をしている。
「お姉ちゃんが私のことをどこまで想ってくれてるかわからないですけど、わたしはお姉ちゃんのことすっごく好きなんですよ?」
「そ、それもわかってるよ……」
いまだにストレートに好きと言われ照れくさくなり、思わず目をそらしてしまう。
そんな私の様子を気にも留めず、めいは話を続けた。
「だから、急にいなくなられると寂しいですし悲しくなるんです。そこらへんをちゃんと自覚してもらわないと」
「わかったよ、これからは気をつけるから」
「約束ですからね?」
めいは小指を差し出してきた。
こうしていると本当に子供みたいだ。
でも、めいが子供っぽくなるのは大抵その奥に何か隠しているときだ。
ういさんのことが影響しているのだろうか。
めいは知らないはずだけど、妙に聡いから察されている可能性もある。
心配にはなるけど、今はめいを安心させてあげることが先決だ。
私はめいの小指に自分の小指を絡ませた。
「はい、指切りげんまん。嘘ついたら針千本のーますっ」
めいは満足そうに頷くと、この話はもうおしまいとばかりに立ち上がった。
そしてそのままリビングを出ていこうとしたので慌てて止める。
「あれ? もうどこか行くの?」
「いえ、ちょっと部屋に戻ろうと思って」
「え、そうなの? じゃあ私もついてくよ」
またゲームでもするのかな、なんて思っていたら予想だにしない答えが返ってきた。
「……お姉ちゃんはここで待っててください」
「え? なんで?」
「……なんでもです」
めいはそれだけ言って、部屋に引っ込んでしまった。
私はリビングで一人、呆然と立ち尽くしている。
「え、なにこの状況……」




