めい:愛の告白
「わたし、あなたのことが……好きなんです!」
「え? うん、知ってる」
「……へ?」
わたしは一大決心をして、好きな人を校舎裏に呼び出した。
相当な覚悟を決めて言ったのに、さも当然かのようにあっけらかんと言い放った。
「いや、なんでですか!?」
「だって、そうじゃなきゃ一緒にいないでしょ?」
そう言って、彼女は悪戯っぽく笑う。
その笑顔に見惚れそうになったが、そんな場合ではない。
この子はなにか勘違いしている気がする。
「え? どういうことですか?」
「え? 友達として好きってことじゃないの?」
どうやらお互いの解釈に齟齬があったらしい。
まあ、考えてみればそれもそうだ。
わたしとこの子が友達になってから二~三年だけど、その間に友達以上の関係になった覚えはない。
そもそもわたしたちは女の子同士だし、みんなから認められるかわからない。
だからこそ、告白したのだけれど……
「違いますよ! わたしはあなたのことを恋愛対象として見てるんです!」
「…………」
わたしの言葉を聞いて、その子は黙り込んだ。
そして少し考えるような素振りを見せたあと、口を開いた。
「ごめん。ちょっと考えさせてくれないかな」
いつもの笑みを浮かべて、そう言う。
だけどそれはどこかぎこちなくて、無理して作っているように感じられた。
でもここで引き下がるわけにはいかない。
ここで引けば、二度とチャンスが来ないかもしれないと思ったからだ。
「わかりました、いつでも返事待ってますから。ただ、その間もアピールとかはしますからね!」
ビシッと指さし、そのことを強調する。
だけどこの空気に耐えられなくなり、悔しいけど去るしかないと思ったその時。
「ちょっと待て」
ぐいっと腕を引っ張られて、思わずよろめいてしまう。
そしてそのまま、唇に柔らかい感触を感じた。
それがキスだと気づいた時にはもう遅かった。
目の前には目を閉じた彼女の顔があって、顔が熱くなるのを感じる。
数秒後、ゆっくりと顔を離すと、彼女はまたあの悪戯っぽい笑みを浮かべていた。
「これでいい?」
「えっ……」
「返事だよ。これじゃ不満?」
首を傾げる彼女を見て、さらに顔の温度が上がるのを感じた。
不満だなんて言えるはずがない。
ずっと待ち望んでいたことなんだから。
嬉しくて舞い上がりそうになる気持ちを抑えながら、なんとか言葉を絞り出す。
すると彼女はそれを察してくれたようで、言葉を続ける。
その表情は心なしか赤くなっていた。
「まぁ、これからよろしくね」
「え、い、いいんですか……? わたし、女ですよ?」
「それあんたにそっくりそのまま返すよ」
呆れ気味に笑って、その子はふぅと一拍置いて告げる。
「あんただからいいんだよ。めいもそうじゃないの?」
「……はい、もちろん! だから告白したんです! でも、やっぱり信じられなくて……」
「大丈夫だって。私もめいに告白してもらえたのが信じられなくて夢見てる気分だし」
そう言って微笑む彼女の姿は、今まで見たどんなものよりも綺麗で輝いていた。
そして改めて実感する。
わたしはこの子のことが本当に好きだということに。
「よし、じゃあ付き合うってことで決定ね!」
「はい!」
こうしてわたしたちは晴れて恋人となった。
それからというもの、毎日が幸せだった。
登下校を共にしたり、昼飯を食べたり、休日に出かけたりと。
最初は照れてばかりだったけど、慣れてくると自然体で過ごすことができた。
そして、ある日のこと。
「ねぇ、手繋いでもいい?」
突然そう言われてドキッとしたけど、断る理由なんかあるはずもなく二つ返事で了承した。
そして手を繋いだ瞬間、彼女の手が小さく震えていることに気付いた。
緊張しているのか、不安なのかはわからないけど、わたしだって余裕があるわけではない。
でもこんなところで恥ずかしがっていては女が廃るというものだ。
それにわたしはこの子に釣り合っているとは思えない。
頼りないし、特別可愛いわけでもない。
だからこそ少しでも安心させたかった。
「大丈夫ですよ」
優しく囁くと、彼女は小さくこくっとうなずいた。
そしてギュッと握った手に力を込める。
その行動に愛おしさを感じながら、わたしもそれに応えるように握り返した。
そして、そのまま駅の方向へと向かって歩き出した。
だけど途中でふと立ち止まる。
「どうしたの?」と心配そうに覗き込んでくる彼女に、わたしは少しの悪戯心を込めて囁いた。
「幸せすぎて死にそうです」
すると彼女は一瞬驚いたような顔をしたあと、ぐるりと勢いよく顔を背けた。
どうやら照れているようだ。
そんな姿も可愛くて思わず笑みがこぼれてしまう。
笑い声に気づいてこちらを見ながらムッとした表情になる彼女だったが、やがて諦めたようにため息を吐いた。
そして一言だけ呟くように言うのだった。
「私もだよ」
それからしばらく無言の時間が続いた。
だけどそれは決して気まずいものではなく、むしろ心地の良いものだった。
彼女と触れ合っている部分から感じる温もりが心地よくて、いつまでもこうしていたいと思うほどだった。
そんなことを考えていると、不意に彼女が口を開いた。
「あのさ……」
「はい?」
聞き返すと彼女は恥ずかしそうに目を逸らしたが、意を決したように真っ直ぐに見つめてきた。
そして真剣な眼差しで言うのだった。
「好きだよ」
その言葉を聞いた瞬間、心臓が大きく跳ねるのを感じた。
ああ……やっぱりこの子のこと好きだなぁなんて思いながら、さっき彼女がしたように顔を逸らして頬を赤らめることしか出来なかった。




