めい:否定
「ずっと前から好きだったんだ! 僕と……付き合ってください!」
「は、はぁ……」
帰りの会が終わり、やっと帰れるとるんるんでランドセルに荷物を詰めていたところ、とある男子に呼び止められた。
そして一緒に校舎裏に来てほしいと言われ着いてきたら……という感じで今に至る。
この子の名前も顔も知らないし、もちろん話をしたことだってない。
……どうしよう。中にはとりあえず付き合ってみて考えるという人もいるけれど、どうにもその気になれなかった。
「ごめんなさい」
わたしはそう言い残してその場から立ち去ろうとしたのだが、その男の子に腕を掴まれた。
「待って! どうして!? 僕のこと嫌いなの?」
「そういうわけじゃなくて……」
わたしが困った顔をしていると、彼は耐えきれなかったのか泣き出してしまった。
なんとも居心地の悪い空気が流れてしまう。
しかし、ここで泣かれてしまっても……と思いながら、なんとか彼を宥めようとした時だ。
突然、後ろの方から声をかけられた。
「ねぇ君、その子嫌がっているじゃない。やめてあげなさいよ」
振り返って見ると、そこには少し年上くらいの女の子が立っていた。
泣いている男子を庇うようにしてこちらを見つめてくる。
鋭い視線が痛い。
なぜかわたしが悪者になっているが、実際なにもしていない。
したことと言えばせいぜい手短に振ったくらいだ。
あんまり知らない子だし、そもそも男の子と付き合う気もない。
確かに少し可哀想なことをしたかもしれないけど。
でも仕方ないと思う。本当に興味ないわけだし。
「えっと、わたし別に何もしてないんですけど……」
「じゃあどうしてこの子泣いてるの? 女の子だからって男の子泣かせるのはよくないんだよ?」
「それは……」
言葉に詰まってしまう。
正直わたしにはよくわからないのだ。
なぜこんなことになっているのか。
「僕っ、めいちゃんに付き合ってって告白したんだ……それなのに、めいちゃんは、君と話すことなんかないって……」
……唖然とした。
もちろん、そんなことは一言も言ってない。
それにわたしが口にしたのは『ごめん』だけだ。
つまりは、この子が勝手に解釈したということ。
だけど、そんなことわたしを悪者としてみてる女の子は事実として捉えるだろう。
「へぇー、そうなんだ。やっぱりあなた最低ね。人の気持ち踏みにじるようなことして恥ずかしくないの?」
「だ、だから誤解なんですって……!」
思った通り、どんどん状況が悪い方に転がっていく。
このままではまずいと直感的に察する。
しかし、そんな思いとは裏腹にさらに状況は悪化していくばかり。
正直、どうにかしなきゃというよりめんどくさいという気持ちの方が大きくなっていった。
「はぁ……わかりました。わたしの気持ち伝えます」
「ん? どうしたの? 謝る気になった?」
ここまできたら引き下がれないだろう。
わたしは覚悟を決めて口を開いた。
そしてそのまま勢いに任せて言ってしまったのだ。
――実は女の子が好きなんです。と。
すると、二人は目を大きく見開いて驚いたような表情を見せた。
さっきまで騒いでいたのが嘘のように静まり返る。
「……」
しばらく沈黙が続いた後、二人は急に笑い出した。
まるでわたしのことをバカにするかのようにお腹を抱えて笑っている。
「ふふっ、あっはははは! 何それ、面白すぎでしょ!? ていうかありえないんだけど」
心底おかしいというように笑う彼女を見て、わたしは怒りよりも先に呆れを感じた。
同性愛は理解されにくいものとはいえ、いくらなんでも失礼すぎる。
こっちは真剣に言っているのに。
それとも、冗談だとでも思っているのだろうか。
泣いている男の子を見てとっさに声をかける正義感は大したものだが、その後の行動はあまり褒められたものではないなと思った。
まあどちらにせよ、これ以上関わりたくないというのが本音だが。
しかし、彼女はそう簡単に見逃してくれそうにはないようだ。
どうやらわたしのことを諦めてくれるつもりはないらしい。
彼女はまだ笑い足りないようで目に涙を浮かべながらもこちらに向かって歩いてくる。
わたしは警戒しながらも一歩後退りをする。
「女の子が好きってことはクラスの子たちとかそういう目で見てるんだぁ。気持ち悪いね」
そう言いながら彼女はわたしの目の前までやってきた。
その顔に浮かぶのは悪意しかない。
わたしの顔を下から覗き込むようにして睨みつけてくる。
その瞳には軽蔑の色が浮かんでいた。
よく誤解されがちだが、なにも同性全員を恋愛対象として見ているわけではない。
それもそうだろう。異性が好きでも、その全員を恋愛対象としては見ないだろうし。
だいたいなんでこんなふうに言われないといけないのか。
わたしは……間違ったことをしたのだろうか?
「ねぇ、何か言いなよ。図星だったのかな?」
彼女は相変わらず嫌味ったらしく煽ってくる。
わたしは色々耐えられなくなって、その場から逃げ出した。




