めい:記憶
「お姉ちゃん……! どこですかお姉ちゃん……!」
わたしは必死にお姉ちゃんを探している。
服も髪もボロボロで、手足が傷だらけになりながらもなお探し続ける。
痛い。裸足で外に出たから、小さな石でも踏んだら相当なダメージになる。
それでも探すのはやめない。
だってここで諦めたら、きっと後悔するだろうから。
腕が木の枝にやられて無数の切り傷を作っている。
多分数日は傷跡が残るんだろうな。
「うわっ!」
足元を見ていなくて、根っこに引っかかって盛大に転けてしまった。
手と膝を擦りむいて血が流れ出る。
「ぐすっ……」
涙が出てくる。
なんでわたしばっかりこんな目に合うんだ。
どうしていつも不幸な目にあってばかりなんだろう。
そんなことを考えてると、頭上から声をかけられた。
「もー、めいはどんくさいね。立てる?」
見上げると、そこには探し求めていたお姉ちゃんがいた。
お姉ちゃんはわたしに手を差し伸べてくれる。
その手を掴んで立ち上がると、そのまま抱きしめてくれた。
「よしよーし」
頭を撫でられると、また涙が出てくる。
泣きながらお姉ちゃんの顔を見ると、優しく笑ってくれた。
「めいがなかなかお姉ちゃんを見つけてくれないから困ったよ。って、ずいぶん汚れちゃってるね……かくれんぼにそんな必死にならなくてもいいのに」
お姉ちゃんはそう言いながらポケットからハンカチを取り出して、顔を拭ってくれる。
そして最後に怪我をした部分に巻いてくれた。
そのあとお姉ちゃんはしゃがみこんで、背中を見せてくる。
おんぶしてくれるようだ。
わたしが乗ったことを確認するゆっくりと歩き出す。
お姉ちゃんの温もりを感じつつ、私は言った。
「ありがとう、お姉ちゃん……」
「おー、素直ですいい子だね。そんなにお姉ちゃんがいないのが怖かった?」
優しい声で訊かれる。
さっきまで泣いていたせいか、上手く喋れない。
だから代わりにギュッと腕に力を込めた。
するとお姉ちゃんはクスリと笑う。
「あははっ、甘えん坊さんだね」
「……」
何も言わないけど、否定はしない。
それからしばらく無言が続いた。
わたしが眠ってしまったと思ったのか、お姉ちゃんは口を開く。
「別に、人それぞれでいいと思うんだよね」
それは独り言のように小さいものだった。
だけど何故か耳に入ってくる。
きっとそれは、わたしに……お姉ちゃん自身に向けた言葉だと思ったから。
「私もめいも、ただ人を好きになっただけなのに。それが同性であろうと……それのなにがいけないんだろうね?」
淡々とした口調だったけど、どこか悲しさを感じる。
その証拠に少し震えているように思えた。
わたしは何も言えない。
ただ黙って聞いているだけだ。
それでも、お姉ちゃんはそのまま続ける。
「でも私は、たとえ世界中を敵に回しても……自分の想いを貫きたい」
その気持ちだけは絶対に変わらない。
強い意志を感じた。
この人は本気だ。声でわかる。それくらいの覚悟が込められている。
「どんな障害があっても、どんなに批難されようと、私は自分が間違ってるとは思わないよ。だからめいも、初恋を諦めなくてもいいからね?」
「でも……」
思わず反論しようとすると、それを遮るように言う。
「確かに世間的には許されない恋かもしれない。でも、それがなに? 愛することは自由でしょ?」
迷いのない真っ直ぐな返しだった。
わたしはその言葉になにも言えず、また黙ってしまう。
それでもお姉ちゃんは話し続けた。
「それに、世の中にはもっと凄い人たちがいるじゃん。男同士だろうと女同士だろうと、なんなら動物が恋愛的に好きって人もいるって聞くし」
そう言って軽く笑っているようだった。
多分わたしを元気付けてくれてるんだろう。
お姉ちゃんの優しさに感謝しつつ、私は思ったことを口にする。
「お姉ちゃん、わたし……頑張ります」
「うんうん、その意気だ! 応援してるからね!」
そうこうしているうちに家に着いたみたいだ。
玄関前で下ろしてもらうと、お姉ちゃんは笑顔で言う。
そしてわたしの手を握ってきた。
大きくて柔らかい手に包まれる。
その手はとても暖かくて、まるで太陽のような安心感があった。
「めい、約束するよ。私はずっとあなたの味方だから。いつでも相談に乗るからね?」
「お姉ちゃん……ありがとう!」
わたしも握り返すと、お姉ちゃんは満足げに微笑んだ。
そして小さく呟く。
「ふふ、やっぱりめいは前向きな方が可愛いよ」
「え?」
よく聞こえなかったので聞き返したら、なんでもないと誤魔化された。
首を傾げるわたしを尻目に、お姉ちゃんは先にドアを開けて家の中に入っていく。
その後ろ姿を見ながら、わたしは思う。
いつか必ずこの気持ちが報われる日が来ると。
その時には、多分別の人を好きになっているだろうという確信も抱いて。




