昔見てた童話
「今日は一段と疲れた……」
めるに全部を説明し終えて、疲れた体と心を癒すためにお風呂に入ろうとしているところだった。
女の子が何よりも好きなこと。好きだからこそ色んな人に手を出してしまうこと。それの歯止めが利かないこと。
言い終わった時ゴミを見るような目で見られたけど、別れようとは言われなかったことが唯一の救いだった。
「ふー……ん? うーん、やっぱりちょっと太ってきたような気がするな……」
服を脱ぎ、自分の身体を鏡越しにまじまじと見ると嫌なところに目がいった。
ほどよく育った……育ちすぎたお腹がどんどん主張している。
服を着てしまえばあまり目立たないが、悲しいことに自分の状態は自分がよくわかっている。
「むむむ……めるは痩せてる子の方が好きだったりするのかな?」
気になるところはやっぱりそこだった。
というか、そのこと以外気にならなかった。
私にとって、めるにどう思われるかがすべてなのだ。
私の中心はめるただ一人。
そんなめるの好みの一つも知らないなんて、私はめるの恋人失格だ。
だからといって引く気はないけど。
ない……けど、あんなにめるのことを見てきて、色々なことを知っていると思っていたのに、なんにも知らないんだということに気づいてショックが隠しきれない。
所詮私は、めるの表面だけしか見えていなかったのだ。
「はぁ……とりあえずお風呂に入るか……」
私は自分のお腹を無意識に揉みながら湯船に浸かった。
そういえば、いつから女の子を好きだと自覚するようになったのだろう。
少なくとも小学生の時は男の人と恋愛するものだと思っていたけれど。
まあ、その時も少し違和感はあったんだよね。
それでも、周りの子とかが「どの子が一番イケメンだと思うー?」などと言っていた影響からか、男女間でしか恋愛は成立しないものだと思っていた。
あ、少し思い出してきたかも……
小学生の頃はよく童話を読んでいた。
教室の中にそれ用の棚みたいなのがあって――おそらく教師たちが置いていたのだろうが――興味を持って読み出したんだっけ。
そこで一番読みふけったやつは……確か『たたかうお姫様』というタイトルだった気がする。
お姫様が戦う!? どういうこと!? ってなって、内容も面白くてつい本屋にダッシュしてすばやく買った記憶がある。
……そうだ。そこに出てくるお姫様に惹かれたんだ。
強くてかっこよくて、女騎士という役職の方が合っているようなお姫様に。
こんな人が実際にいたらいいのにと、その頃から思い始めていた。
そうして女の人ばかりに目がいくうちに、自分は少数派なのだと気づいた。
「確かあの本……まだ持っていたような……」
重要なことに気づいた私は、さっさと洗ってさっさと拭いてさっさと出た。
真っ白なパンツをはいてグレーの寝巻きを着て、髪も乾かさず自室へと急ぐ。
百合漫画の宝庫となりつつある本棚をはしからはしまで見る勢いで探す。
すると、一番下の方に明らかにサイズが違う本があるのを見つけた。
少しくたびれているが、きちんと保管していたおかげでページが破れていたり表紙や中身が汚れているということはないようだった。
「よかった……えっと、どんなお話だったっけ?」
そうして、私はまた本を読み込むべくゆっくりとページを開いた。
敵が攻めてきてドレスを脱ぎ捨て鎧を着るお姫様。
敵の方が優勢で、お姫様は不利だと思われていた。
だけど戦う前に喋る剣と相棒になり、敵をバタバタと倒していく。
そんなかっこいいお姫様に、私は憧れていた。
「そうか……そういう話だった気がするなぁ……」
『たたかうお姫様』を読んでいると懐かしい気持ちの方がまさって、純粋に物語にのめり込めなくなっている。
それでも、言葉にできないポジティブなものを感じられた。
なにかを得られたような達成感があり、それを認識した途端に睡魔が襲ってきた。
「う……安心したら気が抜けた、みたいな感じなのかも……」
思っていることをすぐに口に出してしまうほどには意識が混濁している。
お風呂上がりという状態と本を読んだという行動によって、睡魔が活性化したのかもしれない。
はよ寝ろと言われたらはよ寝るしかない。
「髪乾かしてないや……もういいか、寝りゅう……」
呂律が回らなくなって、いよいよ意識がはるか彼方へ飛んでいった。
その翌朝。
髪を乾かさなかったことによって案の定髪がボサボサになってしまったのを必死で直していたから、疲労感がハンパない。
「お姉ちゃん……どうしたんですか。髪の毛逆立ってますよ?」
「あー、昨日乾かさずに寝ちゃったからね」
「どうしてそんなことに……仕方ないですね、わたしが髪の毛をとかしてあげます」
「ありがとう。助かるよ」
いつもは自分でやっていることを、妹にやってもらうのは少しくすぐったい。
だけどこうしてお世話してもらうことに悪い気分はしないし、むしろどこかしっくり来た。
「あー……めいに色んな世話してもらいたいなー」
「いいですよ。お姉ちゃんが望むならたくさんお世話しますね」
私が冗談を言うと、めいは笑いながらそう言ってきた。
……え、いいの? 本当にめいにお世話してもらえるの? それはちょっと嬉しいかも。
でも、さすがの私も妹を召使いみたいに扱うなんてできない。
いや、めいがそれを望んでいるのなら話は別だけど。
「本当にいいの?」
「もちろんです! むしろそうさせてください!」
「……ならそうしよっかな。よろしくね」
「はい! おまかせください、お姉ちゃん!」
……妹にお世話してもらう姉ってどうなんだって思うけど、こんなにはしゃいでいるめいを見たのは久しぶりだ。
喜んでくれてるならいいか。




