女の子の嫉妬
「おはよ……きゃっ!? 急に抱きついてこないでくれる!?」
「えへへ~、だって早く会いたかったんだもん」
「昨日も会ったのに……」
私はめるを視界に入れた途端、我慢が出来ずに抱きしめてしまう。
「もぅ……仕方ないなぁ」
「えへへ~、める大好き~」
「はいはい」
めるは呆れながらも私の頭をポンポンと叩いてくれる。
そんなちょろくて可愛いところが私の心を刺激してくるのだ。
もっとめるのことが好きになってしまう。
「というか、ここ学校だからあんまりくっつかないでもらえると助かるのだけど?」
心底嫌そうな顔のめるに、抱きついていた腕を引き剥がされた。
なんて力だ。
可愛らしい見た目をしているのに、秘めているパワーは相当のようだ。
「え~? めるは私と一緒にいるのが嫌なの?」
「別にそういうわけじゃないけど……」
「じゃあ、いいでしょ?」
「……はぁ。わかったわよ」
めるが折れて再び私の腕の中に収まる。
やっぱりめるはちょろくて可愛い。
「はぁ、私の彼女が可愛すぎる」
「……バカなこと言わないの」
私が思わずつぶやいた独り言を聞いていためるが、照れながらもそんなことを言う。
そんな姿も可愛くて仕方がない。
もう私はめるなしじゃ生きられないかもしれない。
「……ちょっと、いい?」
そんな風に思っていた時、背後から声をかけられた。
誰だろうかと振り返ると、そこにはめるより前に付き合ってる別の彼女の姿があった。
「君、学校来れるようになったんだ。良かったよ」
「うん……ういちゃんが励ましてくれたから、ういちゃんがいてくれるならって……頑張ったの」
……そう。その子は元々不登校気味で、最初は私が励まそうとしてもあまりいい反応をしてくれなくて苦労した。
でも、私の好みだったから毎日毎日飽きもせずに声をかけ続けた。
その甲斐あってか、徐々に心を開いてくれて、最終的には私の告白を受け入れてくれたのだ。
「そっか、じゃあこれからは一緒に学校通えるね」
「うん、うん……そうしたいのは山々なんだけどね……その子、誰?」
その子はずっと暗い顔をしたままこちらを……私とめるを見ている。
彼女である私と一緒にいるめるが気になっているようだった。
しかもそのめるは私の腕にすっぽり収まっているから、下手な言い訳はできない。
冷や汗がダラダラと背中を伝っていく感覚がある。
手足が震えて言葉が出ない。
そんな時、私の頭の中に昨日のめいに言われた言葉が響いていた。
『女の子の嫉妬は怖いですから……お姉ちゃんがいつか彼女たちから刺されそうで怖いんです』
……うん、刺されるね。これは確実に。
「ねぇ? ういちゃん、この子誰?」
「……えっと、その」
「私がいながらどういうこと? 告白してくれたのはういちゃんだよね? 説明してよ」
「いや……それは……」
私はしどろもどろになって何も答えられない。
そんな時、めるが私の腕の中から抜け出して、彼女の手を取った。
何をするつもり!?
「……ねぇ、そんな怖い顔しないで? 可愛い顔が台無しよ?」
「っ、あなたに可愛いなんて言われる筋合いは――!」
「私とういさんは何もないわ」
めるがその子の言葉を遮って、はっきりとそう告げる。
……え? 何も……ない?
私はめるの言っている言葉が信じられず、思わず声をかけそうになる。
だけど、めるは私の方を振り返って「余計なことはしないで」と言うように鋭い目を向けてきた。
「う、嘘だ……だってういちゃんに抱きつかれてたし……」
「ただ一方的に絡まれてただけよ。いい迷惑だわ」
「……そ、そうなの?」
「えぇ。ういさんは誰にでもああいう人だから」
「そ、そうなんだ……」
めるはその子の手を離して、再び私の隣に戻ってくる。
私は何も言えず、ただ立ち尽くしていることしか出来なかった。
私と一緒にいてくれるって言ったのに。
私は、もうめるなしじゃ生きられないのに。
……でも、きっとめるは優しいから。
私と彼女が傷つかないために、嘘をついてくれたんだ。
「ご、ごめんね。私気が動転してて……なんでもないならいいの……」
「私たちこそ紛らわしいことしててごめんなさいね」
「ううん……それじゃあ、私もう行くね?」
その子はそう言うと、私たちに背を向けて歩きだした。
だけど、数歩歩いたところで振り返って私たちをもう一度見る。
「その、私はういちゃんのこと信じてるから……だからまた話そうね?」
それだけ言うと、今度こそ振り返らずに歩いていってしまった。
……そして私たちはその場に残されたまま立ち尽くす。
「……ごめんね、める」
「何がよ?」
「私のせいで迷惑かけちゃった」
「……別にいいわよ、これくらい」
「……うん」
そう言っためるは、どこか寂しそうな顔をしていた。
そんな顔をさせたかったわけじゃないのに。
だけど、めるは大きなため息をついて私を睨む。
「でも、ちゃんと説明はしてもらうわよ?」
「……は、はい」
刺殺されることからは逃れられたものの、めるの冷ややかな視線からは逃れられず、ただただ苦笑いを浮かべることしか出来なかったのだった。




