一件落着?
「……さ、無事に一件落着ということで、えっちなことしましょうお姉ちゃん!」
「一件落着してないけど!?」
泣き止んだあと、めいはいつもの調子でぶっ飛んだことを言う。
確かに戻る時まで一緒にいようとは思ったけど、そんなことをしたいとは……
それに、いつ戻るかわからないのなら、他にやりたいことがいっぱいある。
「むぅぅ……いつ戻るかわからないからこそ、お姉ちゃんを食べ尽くしてしまいたいわけですよ」
「それなにも残らないじゃん! どんだけ食べたいの!」
「どれだけでも食べちゃいたいですよ?」
「そんなこと聞いてるんじゃないんだよぉ!」
まったく……めいの頭の中には私とイチャイチャすることしかないのだろうか。
もっと色んなところを遊び回ったり、思い出を共有したいのに。
向こうの世界とは違うところがたくさんあるだろうし、めいにこっちの世界のことをもっと知ってほしいと思っている。
それなのにこいつは……
でも、好きだからこそそういうことをしたいという気持ちはわからなくもない。
わからなくはないが……そればかりするというのもいかがなものか。
「……わかってますよ、お姉ちゃんがわたしと違うことをやりたいってことくらい……」
「わかってたらそんなこと言わないよね?」
「うぅぅ……お姉ちゃんの気持ちも尊重したいけど、それ以上に欲求が抑えきれないといいますか!」
「声がおっきい!」
ここは食堂だぞ。人が来るかもしれないというのに。
……私だって、めいのことを尊重したい気持ちはもちろんある。
あるけど、そうすると私の身体が持たない。
私の身体はえっちなことに対する耐性があるわけではないから。
「お姉ちゃんなんか嫌いですっ! うわぁぁぁん!」
「全部話してから子どもっぽくなったよね……」
もしかして、これがめいの本性なのだろうか。
可愛いところもあるんだなーと思って、気づいたら頭を撫でていた。
「はっ! ご、ごめん……つい……」
「えへへー、本当に悪いと思ってるならちゅーくらいしてくださーい」
「今ここで!?」
人目につきやすい場所というのがわかっているのか?
めいならわかって言っている可能性の方が高い。
私を困惑させて楽しんでいるのと、本当にちゅーしてほしい思いが合わさって言っているのだろう。
「しょうがないなぁ……」
ここで断ったら、夜に暴走してしまうのが目に見える。
……やっても暴走しそうではあるが。
「……」
「えへ」
「これで満足した?」
顔が今まで見たことがないくらいとろんとしていて、私はなにかに目覚めそうだった。
もしかすると、今まではセーブしてきたのかもしれない。
まだ向こうのお姉さんのことが忘れられなかったから。
私は代わりだったから。
でも、今は違う。
きっと、これがめいの本心なのだろう。
私のことが好きだと、本気で表現してくれている。
「えへへ、お姉ちゃんのこと絶対離しません」
めいもなにかのスイッチが入ったのか、独占欲を見せてくれている。
私は、もうめいから逃れられないのかもしれない。
元から逃げるつもりなんてないけど。
めいの本気の愛情を知った気がした。
今までは情がわかないようにと、どこかで線引きしていたんだろう。
だけど今は、本気で私のことを想ってくれている。
それは、目を見ればわかる。
「お姉ちゃん? わたし、まだまだ足りません」
「う……は、はい……」
やっぱり私は、めいには逆らえない。
やっぱり私は、めいを離したくない。
……やっぱり私は、めいが好きだ。
「……お姉ちゃん?」
うつむいてしまった私を心配しているのか、オロオロし始めた。
「だ、大丈夫ですかお姉ちゃん。い、嫌ならやめますっ!」
こちらを心配そうに覗き込んでくるめいの顔は、さっきの独占欲丸出しの顔とは違って見えた。
今までも独占欲とか執着心とか見せてくれてたけど、さっきほどじゃなかった。
「……ふっ、あははっ。なにそれっ」
「お、お姉ちゃん?」
「私、めいのことまだまだ知らないんじゃん」
「ふぇ? な、なんだか怖いです……」
そんなつもりはなかったのだが、めいから見たら怖かったらしい。
笑顔が怖いなんてあるのだろうか。
二次元にそういうキャラクターはいそうだが、あいにく私はそういうキャラではない。
……話が逸れた。
とにかく、私はあることに気づいた。
めいのことをよく知らない。だからこそ、知っていきたい。
それが、どんなことだとしても。
知っていって、相手の趣味嗜好を理解したいと思うのは……愛、なのではないだろうか。
「私これから先ずっと、めいのこと知っていきたい。めいの好きなものも嫌いなものもやりたいことも、全部知っていきたい。だから――私は世界になんて負けない!」
「……! お、お姉ちゃん……っ!」
「絶対、向こうの世界に戻させない! だって私は……めいとずっと一緒にいたいから!」
それは紛れもない、自分のわがままだ。
別の世界の人はその世界に戻すのが正しいことだろう。
そんなことはわかっている。
それでも、私の心はめいと一緒にいることを望んでいる。
「……ありがとうございます。わたしも、わたしだって、向こうに戻りたくないですっ! ずっとお姉ちゃんと一緒にいたい!」
その時、運命の歯車とか世界の理みたいなものが壊れる音がした。
世界が、私たちの愛を祝福してくれているかのように。
「帰ろ、めい。私たちの家に」
「はい! あ、でもその前に……授業はいいんですか?」
「あっ!」
これからも私は、めいを頼りに生きていくのかもしれない。




