平行世界
平行世界とは、ある世界から分岐し、それに並行して存在する別の世界を指す。
「異世界」、「魔界」、「四次元世界」などとは違い、平行世界は私たちの宇宙と同一の次元を持つ。
なんて言われてるけど私にはよくわからない。
別世界だろうがなんだろうが、その人に惚れたことに変わりはないから。
だからこそ、私はここにたどり着けたのかもしれない。
「……なんとなく、ここにいる気はしてたよ」
「お姉ちゃん……」
私の通っている大学の屋上的なところ。
そこによく知った……いや、正確にはなにも知らないのかもしれない人影がいた。
空は憎いほど青くて、なぜか今日はうらめしく思えた。
今日は授業があって来たのだが、この事件の鍵を握るであろう人物も来ているのではないかと思って、少し早めに家を出たのだ。
「多分、お姉ちゃんは……見てきたんですよね」
「まだ頭が混乱してなにが起こってるのかわかってないけどね」
「そうですよね……」
めいは残念そうにうつむく。
もしかして、真相に気づいてほしかったのだろうか。
残念ながら、私にそんな頭の良さはない。
でも、どこかめいもこの事件をよく知らないと感じるのは気のせいだろうか。
私は察しもよくないのだけども。
「お姉ちゃんはわたしがこのことを引き起こしたと思ってると思うんですけど……わたしもどうしてこうなったのかわかりません」
「……え!?」
察しがいいのと事件の犯人じゃないのとで、二重に驚いた。
頭は働いているはずなのに、思考が止まってしまったように感じる。
もう、なにがなんだか。
「あー、でも、わたしがこのことに関係しているのは事実です。まあ、どっちかというとわたしも被害者というか……」
ますますわけがわからなくなってきた。
もう少しハッキリ答えてほしい。
いや、被害者だというのが本当ならば、詳しいことをちゃんと言葉にするのは難しいのかもしれないが。
「うーん……ちゃんと説明しましょうか。わたしも巻き込まれただけなので、上手く言えるかはわかりませんが……」
「それでもいいからちゃんと説明してほしいな。もう頭がフラフラで……」
「あらら、もうパンク寸前の様子ですね……やっぱり、うちのお姉ちゃんとは違う……」
「やっぱり」の後の言葉は、声が小さすぎて私には聞き取れなかった。
でも、めいのことだからきっと全部話してくれるだろう。
めいのことを、私は信用しているから。
「ここで一旦少し休憩しましょうか。今のお姉ちゃんに説明してもさらに混乱させて頭パンクさせてもあれですし……」
「そ、そうしよう。そうするのがいい。うん。そこの食堂入ろ」
私はめいの提案に全力でノッた。
めいは私の勢いに少し引き気味な様子だったが、休憩したくてしたくてたまらなかったのだ。
だからめいがそんな提案をしてくれて、正直救われた気持ちだった。
すぐにでも真相を聞きたい気持ちもあるけど、今の話だけですでにおなかいっぱいなのだ。
私はめいを少し強引に押して近くの食堂へ入った。
この食堂は窓辺から街の様子を見下ろせるということで、学生に人気である。
でも朝早い時間帯だからか、利用している人は少ないようだ。
「ふぅ……おいしい……」
「まあ、案の定今営業時間外で自販機のお茶飲んでるだけなんですけどね」
「むぅ……そんなことわざわざ言わないで」
ここから見える景色を独占しているだけでもかなりいいものが得られている……ような気がする。
私はそれだけで満足だ。
普段は人の集まる食堂には基本的に寄り付かないから。
一息ついて、しばらく一緒に景色を眺めたあと。
めいは意を決したように言った。
「お姉ちゃん、平行世界……パラレルワールドって知ってますか?」
「え? あー、聞いたことはあるかな。確か、現実とは違う世界だけど現実世界に似たような世界? だったはず……」
「まあ、簡単に言うとそうかもしれないですね。簡単に言っても難しく聞こえるのがこの言葉の特徴ではありますが……」
そう言うと、自販機で買ったお茶を一気に飲み干す。
めちゃくちゃ喉が渇いていた……ようには見えない。
もしかすると、相当の覚悟を持って真実を話そうとしているのかもしれない。
だから私もペットボトルからお茶が吹き出さない程度に、ぎゅっと手を強く握った。
「――わたしは、その世界の人間なんです」
「……え?」
「うーんと、まあ、わたしからすればお姉ちゃんが平行世界の人間ってことになるんですけど」
「……うん?」
「えと、だから、その、わたしはこの世界の人間ではないというか……」
……めちゃくちゃスケールのでかい話に、私は目を見開いたまま固まることしかできなかった。




