セクハラしてない!
清々しいほどの朝。
珍しくぐっすり眠れたのか、私の目はバッチリ冴えている。
まあ、当然、うみもめいもいないわけで――
「おう、うい。起きたか。ったく、昨日は大変だったんだぞー?」
……目の前に、ご立腹な様子のうみが立っていた。
これは……幻覚かなにかか?
声も聴こえるし寝そべったまま脚を触ってみるが、ちゃんと感触がある。
「ちょっ、どこ触ってんの! 変態! スケベ!」
「え……ただふくらはぎ触っただけなんだけど……どこにもスケベな要素はないというか……」
というか、うみはこれくらいのことで騒ぐようなやつではなかったはずだ。
感覚のある不思議な夢を見ているのだろうか。
うみにここまで蔑まれるのは……なんというか、少し新鮮でそそられるものがあったから、この機会にぜひ触っておこう。
……私はなにを考えているんだ。
それこそ変態でスケベじゃないか。やめておこう。
「えーっと……とりあえず色々聞きたいことがあるんだけど……質問してもいい?」
「……なに? またあたしの胸触りたいって? 悪いけどそれはお断りだよ」
「質問って言ったよね!? あとなにそれ! 誰がうみみたいなぺったんこの胸触りたがるの!?」
「ぺったんこなのはういも同じでしょうが!」
いけないいけない。つい貧乳同士の醜い争いを繰り広げてしまった。
まったく、うみが変なこと言うから。
私がうみの胸を触りたがったことなんて一度もないのに。
本当にどうしたんだろう。
「……で、話戻していい?」
「今日のういなんかまともじゃん。昨日のはなんだったの?」
「あーもー! 話が進まない!」
私はうみに聞きたいことが山ほどある。
それなのに話を遮るなんて、質問されたくないように感じてしまう。
私に対するうみの態度もいつもと違う気もするし、昨日からわからないことだらけで頭がパンクしそうだ。
「あのさ、うみってうみだよね。私の妹だよね?」
「え、なに急に当たり前のこと訊いてきて……やっぱまともじゃなかったわ」
「毒舌はいいから!」
でも、『当たり前』ということは、私の認識は合っているらしい。
うみに気づかれないように、ほっと安堵する。
うみはやっぱり私の妹だった。
「ん、そういえばめいは? めいにも色々訊きたいことが……」
「めいさんなら少し前に出かけたよ? 用事があるとかなんとか」
私は直感的に、めいが逃げたのだと思った。
なぜかはわからないけど、この事件にはめいが絡んでいる気がした。
めいは未だに謎が多いからそう思ったのかもしれない。
めいはずっと、大事なことを隠してきているような……
「でも……すぐ帰ってくるよね……」
むやみに探し回っても無駄に体力を消耗するだけだと学んだ私は、今日も探し回る元気や余裕はなかった。
とりあえず、うみに訊けることは訊いておきたい。
「それよりさ、昨日はほんと大変だったんだよー。ういが別人みたいになっちゃって」
「……それ、どういうこと……?」
「うーん……なんていうか、エロ方面でやばかった」
「ぶふぉっ!」
お茶を飲んだわけじゃないのに、危うくなにかの液体を吹き出しそうだった。
うみからその単語が出てきたのももちろん、めいとの関係性とか色々バレてしまったのだろうかと驚かずにはいられなかった。
もしかして、さっき脚を触った時の反応がちょっと乙女チックだったのは……そういうことなのかもしれない。
いや、エロ方面でやばいなんて私とは到底縁のないものだ。
……それもそれでやばいのか?
「今日はいつも通りみたいだし……記憶もないみたいだし……少しだけ説明すると、起きてからあたしのこと見たら突然『可愛い子猫ちゃんだね。私のネコちゃんになってみないかい?』とか言ってきたり」
「は?」
「あー、あとは色んなとこ触られてセクハラされて、しまいには『ちょっとおしいな』とか……失礼でしょ」
「なにそれ」
呆れるしかなかった。
全然私のキャラではない。
うみも私と同じで悪い夢を見ていたのではないだろうか。
もういったいなにがどうなっているやら。
「あとはね……あ、そうそう、めいさんのこと見たらすごく気まずそうにしてたよ」
「え?」
「いつも仲良さそうにしてるからちょっと気になってさ~」
それは私も気になる。
というか、この感じだとまるで――私だけ別の世界に飛ばされたみたいじゃないか。
それで別人か別人格が私の代わりにこの世界にやってきた……みたいな。
そんな突拍子もないことを考えてしまうほど、この事件は不可解だらけだ。
私の仮説が当たっているんじゃないかと思うほどに。
当たっていたとしてそれがなんだという話だが。
私は元の世界に戻ってきているみたいだし、たった一日だから別の世界の未練もない。
なんの問題もない。
……本当に、当たっていたらの話だが。
「とにかく、めいの帰りを待つしかないかな……」
「めいさんね……あたしも不思議な人だなーとは思ってたから、なにか知ってるかもね」
珍しくうみも同意してくれて、二人で仲良くめいの帰りを待った。




