結婚は真剣に
私はめいと一緒に正式に婦婦の契りを結んだ。
突然私の前に現れた時は、正直不審者かもと疑ったけど、それは遠い昔。
今までも充分楽しかったけど、これからはもっと楽しい未来が待っている。
「ありがとね、めい」
「こちらこそです、お姉ちゃん」
そうして、私たちはお互いの気持ちを確かめ合うようなキスをし、夜の営みへと向かうのだった……
「――という物語を考えてみたんですけど、どうですか? あ、実際に本当になりますけどね」
「はいぃ? 意味がわからないんだけども?」
突然めいに起こされたかと思ったら、変な話をされた。
正直、なにを言いたいのかわからない。
その物語の感想を聞きたいのか、その物語を現実にしたいのか……
めいの本心が見抜けない。
「むぅぅ……お姉ちゃんなんか嫌いです」
「なぜそうなる!?」
ぷいっと顔を逸らして、ぷくーっと頬を膨らませる。
そんなめいを見て、ますます混乱してしまった。
だが、まずはめいの機嫌を直さないと。
「えーっと、なんだろう……いい物語だと思うよ?」
「……ほんとですか?」
めいの視線がこちらに向いている。
顔はそっぽを向いたままだが、さっきよりも顔の険しさが減っている。
これならなんとかなりそうだ。
「うんうん! めいは小説家の才能あると思うなー」
「えへへ、そこまで言われたら照れちゃいますよ」
「これはもう大学生のうちにプロデビューとかありえるかもねー!」
もう一押し、という状況になった。
私の脳みそは、めいを褒め称える言葉を探すために絶賛フル回転中だ。
こんなに頭を使ったことなんてない気がする。
それほどまで、めいのことを優先しているというか特別扱いしているというか。
まあとにかく、なんでもいいから機嫌を直してもらいたかった。
「実際にこういうことあったらしあわ――あ」
「ですよね!? ということで結婚しましょう、お姉ちゃん!」
しまった。つい口を滑らせてしまった。
もう取り返しがつかない。
いや、別に結婚したくないとかそういうわけではないのだけれども。
どうにも押し切られそうで、このままめいのペースに乗せられると来月とかにスピード結婚という可能性は十分にありえる。
というか、絶対そうなる!
家族とかにはどう説明すればいいのか。
友だちは呼べるのか。
そもそも女同士で結婚はできるのか。
心配事や不安が多すぎる。
……あれ、なんでそんなことを気にしているんだろう。
もっと根本的な問題は、めいと結婚したいかどうかなはず。
それに気づけなかったということは――
「お姉ちゃん……? わたしと結婚、したいですよね……?」
「ひゃうっ!?」
突然耳元で囁かれ、自分でもびっくりするほどの変な声が出た。
「結婚しましょう、お姉ちゃん……私が一生面倒見てあげますので……」
「んんっ……!」
「えへへ、お姉ちゃん大好きです……絶対幸せにします……」
「ふぁ……や、やめっ……!」
次から次へと、愛の言葉を耳元で囁いてくるめい。
顔は見えないが、楽しんでいることは間違いなかった。
めいはそういうやつだから。
「む……なかなかしぶといですね、お姉ちゃん」
「その言い方……なんかムカつくな……」
ぷっくりと不貞腐れるめいを見て、私はそのことに意識を向け、同じことをさせないようにしようと努力してみる。
「うぅ……お姉ちゃんはわたしのこと嫌いですか……?」
「は!? そんなことないけど!?」
「じゃあなんで頑なに結婚を拒むんです……?」
「そ、それは……今は時期じゃないというか、早いかな~って……」
「そんなこと言ってたらいつまで経っても結婚できませんよ?」
確かに、めいの言う通りだ。
だけど、なにかが違う。
私たちはどっちも一応結婚できる年齢ではある。
高校を出たら働いている人もいる中、私たちはどっちもまだ学生をやっている。
学生でも結婚できたっけ……?
いやいや、問題はそこではないだろう。
「お金とか時間とかさ、あと女同士の結婚って……色々問題ある気がするんだよね。まだまだそういうの受け入れてないところの方が多いし……」
「お姉ちゃん……」
めいは不安そうな顔つきになった。
私が懸念している問題をわかってくれただろうか。
「じゃあ、それを抜きにしたら、お姉ちゃんはわたしと結婚してもいいって思いますか?」
「そ、それは……」
これは、気軽に口にしていいものだろうか。
……いや、いつも気軽に「好き」とかもっと恥ずかしいことを言っているか。
それならば、ためらう必要はない。
少し恥ずかしいけれども。
「私は、めいのこと好きだよ。えっと、だからその、うん、結婚……したい……って、思ってる……よ……」
「……お姉ちゃん……っ!」
「うわぁ!?」
めいは突然私に抱きついてきた。
そのまま押し倒され、布団の上に寝かされる。
「もう我慢できないです……お姉ちゃんが可愛すぎるのが悪いんですからね……?」
「ま、まってよめい……」
そして、めいは私の上に覆いかぶさった。
これはまずい。このままじゃ完全に抱かれるコースだ。
もういっそ受け入れてしまった方が楽なのかもしれないが、このまま流されるのはよくないと私の理性が言っている。
でもまあ、こういう流れになるのも悪くないかな、なんて思い始めてしまっている自分もいたりして……
いや、違う! しっかりしろ私。
ここで流されちゃダメだ。
「うぅ……お姉ちゃん……好きです……」
「あぅ……ま、待ってめい……」
めいは私を押さえつけながら耳元で囁いてくる。
もうどうしようもない状況だった。
いや、まだなにか手があるはずだ。考えろ私。
私はめいの弱点を知っているはずなんだ。
それを使えばいいだけだろう。
よし、いけるぞ。これでこの流れも断ち切れるかもしれない……!
「めーい?」
「なんですか?」
「好きだよ」
「……っ!」
めいの身体が、ほんの一瞬硬直した。
やっぱりストレートに伝えるのが一番効いている。
私は素直に伝えられないから、つい茶化して言ってしまったりする。
だからこそ、大ダメージが入ったはずだ。
「う……あ……えっと、その……」
そんな風にたじろぐめいを見て、珍しく優越感に浸れたのだった。




