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ママが失職したので、8歳の私は冒険者になりました

作者: 優湊
掲載日:2025/12/21

──現代に“冒険者ギルド”があったなら。


荒れ果てたゴミ山を片づけた少年がいる。

老いた農家の畑を立て直した若者がいる。

報酬も名声も求めず、人を支え続けた母親がいる。


彼らは英雄ではない。

だが、その行いには確かな価値があった。


冒険者ギルドは、

そうした行為をクエストという形に整え、

冒険者へと託す組織だ。


農業、漁業、介護、保全、復旧。

日常に埋もれた無数の仕事が、

冒険者たちの選択によって結び直されていく。


これは、

2040年の街で生きる冒険者たちの物語。

剣も魔法もない世界で、

それでも確かに「冒険」が息づいている時代の日常である。

挿絵(By みてみん)2040年。

介護施設〈ひかりの庭〉に、企業製ヒューマノイド〈CARES-5〉が導入された日——

(さくら)は、自分の職場が“少しずつ自分を必要としなくなる未来”を理解した。


「契約職の方は、来月までに終了となります」


その告知を聞いた瞬間、桜の胸にぽっかり穴があく。


帰宅すると、玄関からゆいが飛びついてきた。


「ママ、今日はね! 冒険者のカード持ってきた子がいてね——」


子どもでも冒険者になれる時代。

冒険者の最低登録年齢は6歳。学校では冒険者クラブが人気なのだ。


家に帰って娘の寝顔を見るたび、桜は思う。

(この子の未来のために働けるなら、それでよかったのに…)


しかしスマホに映るニュースの見出しが、彼女の視線を引きつけた。


——《冒険者、地域課題の“新しい担い手”として急増》

——《介護・福祉・教育・孤立防止に冒険者が活躍》


冒険者。

戦わず、社会課題をクエストとして解決する市民セクター。


(私にも、できるのかな……)


娘の寝息を聞きながら、桜はそっと胸に手を当てた。


―――


ゆいは8歳。

学校帰りに冒険者ギルドのカードを持つ友達が増えた。


「ねぇ、ゆいは冒険者にならないの?」

「え、ママが危ないって言うから……」


でも、心の奥にはずっと憧れがあった。

困ってる人を助けたり、町のイベントを手伝ったり、

ゴミ拾いクエストでポイントを貯めてアイテム交換したり。


そんな時、ママが失職することを知った。


「お仕事やめちゃうの……?」


桜は言いにくそうに答える。


「うん。でもね、新しい挑戦を考えてるよ」


「挑戦?」


「……冒険者、かな」


ゆいの目がきらっと光る。


「ママも!? じゃあ、ゆいも一緒にやる!!

だってゆい、もう8歳だもん! 冒険者になれるもん!」


母は驚くが、ゆいは本気だ。


冒険者ギルドの規則では、

6~12歳は“ジュニア・アドベンチャー”として登録でき、保護者同行が必須。


ゆいは胸を張って言った。


「ゆいは、ママと一緒に冒険するの!」


ママはしばらく黙ってから、優しく笑った。


「……じゃあ、今度一緒に説明会に行ってみようか」


その夜、ゆいは嬉しくて眠れなかった。


―――


冒険者ギルド〈HORIZON TOKYO〉。

登録説明会には大人も子どももいた。


スタッフは言う。


「ジュニア冒険者は、保護者の同伴があれば簡単な社会クエストに参加できます。

道案内、清掃活動、地域イベントの配布物……。

冒険者は自己責任が原則ですので、親御さんは十分に注意してください」


桜は頷きつつも、自分が本当にやれるのか不安だった。

だが初クエストは、桜の得意分野が活かされた。


〈独居高齢者の生活状況ヒアリング〉

地域コミュニティ連携型の“孤立防止ミッション”だ。


アパートの一室で、おばあさんは言った。

「紙の手続きが難しくてねぇ……」


桜は介護経験で丁寧に説明した。

隣ではゆいが「おばあちゃん、腰だいじょうぶ?」と椅子を差し出す。


帰り際、おばあさんは手を握り言った。


「親子で来てくれるなんてねぇ……あんたたち、いい冒険者になるよ」


桜は胸が温かくなるのを感じた。


(ロボットには、こんな会話はできない)


自分の“価値”がまだ世界に残っていると初めて思えた。


―――


冒険者になってから、ゆいの世界は変わった。


学校の作文にはこう書いた。

『ゆいは冒険者です。ママと一緒に人を助けています』


クラスの子たちは驚く。


「ゆいちゃん、すごい!」

「どんなクエストするの?」


ゆいは誇らしげに言った。


「困ってる人のところに行くんだよ!

ロボットにはできないことをするんだよ!」


しかしある日、ゆいは小さな“失敗”をした。

公園の清掃クエストで、ゆいが拾ったゴミ袋が破れ、

ゴミが散乱してしまったのだ。


「ごめんなさい……」


泣きそうになったゆいの手を、桜が握る。


「大丈夫。冒険者は“完璧”より“続けること”が大事なんだよ」


ギルドのスタッフも言う。


「失敗したら、次は気をつければいい。それだけで一人前です」


ゆいは思う。


(ママと一緒だから、がんばれるんだ)


その日、ゆいは初めて“冒険者としての悔しさ”と“成長”を味わった。


―――


市内で大型クエストが始まった。

〈子ども食堂の立ち上げ支援〉


桜はスタッフとして参加し、

ゆいもジュニア冒険者として正式に同行した。


エプロン姿のゆいは、皿を運びながら笑う。


「ママ、これ楽しい!

人が“ありがとう”って言うの、うれしいね!」


桜もまた、この活動に生きがいを感じていた。


クエストが終わると、ギルドの担当者が声をかけてくる。


「桜さん、今回の働きを評価し、

“コミュニティ支援チーム”の正式メンバーをお願いしたいと思っています」


ゆいも胸を張る。


「ゆいももっとがんばる! 次のクエストにも行きたい!」


桜は笑いながら答えた。


「もちろん。

でも、ママがちゃんとついてる時だけね」


夕暮れの帰り道、手をつないで歩く二人。

ゆいは言う。


「ママの冒険って、ゆいの冒険だよね」

「うん。そして、ゆいの未来は……ママの未来でもあるよ」


その日、母娘は確かに“冒険者”だった。

小さな力でも、二人でなら世界を少しだけ変えられる。

 

そんな確信が、夕空の下でゆっくりと形になっていった。

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