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【コミカライズ3月12日~連載開始】3度目の人生は、忘れ去られていた王女様でした(旧:3度目の転生は、忘れ去られていた王女様でした)  作者:


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お肉

私の顔がどうのと笑い出したイシュラ王を睨んでいると、いつもの無表情がふわりと綻び、あろうことか、とても優しい声で月の光を一緒に見ようと誘ってきた。


(……え、誰、この人)


普段のイシュラ王は、こんなふうに笑わない。

こんな……優しくて、温かくて、私を見て心の底から嬉しそうにしているような。


「見ないのか?」


低く静かな声は、驚くほど温かい。

リオルガにそっと下され、イシュラ王が伸ばした手をじっと見つめた。


(何かの罠だろうか……)


警戒しながらじりじりと近付き、イシュラ王の顔とその手を交互に何度も見比べる。何だか胸の奥がざわざわして、落ち着かない。

私の今の気分は、猛獣の檻に入って行くようなものだ。


(本当に、どうしたのだろう)


ずっと顔を合わせていなかったのに急に現れ、子供のように笑い出し、月の光を一緒に見ようなんて、どうかしたとしか思えない。

伸ばされた手は動かず、急かすこともなく、私へと真っ直ぐに伸ばされたまま。


(……疲れているのかな?)


今日もきっと朝から晩まで働き詰めで、ここ最近は休憩すら取っていなかったに違いない。

人は疲れると奇行に走るというではないかと、そう心の中でひっそりと頷き、そっとその手に触れた。


瞬間――イシュラ王はごく自然な動作で私を抱き上げた。


月光がイシュラ王の肩越しに落ち、その光の中で見る横顔は、いつもより穏やかに見える。


「それで、何をしているんですか?」

「……散歩だ」


散歩?今この人、散歩と言っただろうか?

こんな夜更けに、統括宮にある執務室から王子宮まで散歩なんて、どこの誰が信じるのか。


「寂しくなったんですか?」

「……散歩だと言った筈だが」

「贔屓はしないって言っていたのに、私の部屋の内装を自分で手掛けたり、こうして会いに来たりするなんて……まったく」

「贔屓はしていない。王族として相応しい環境を整えるのは必要なことだ」

「それを、国王陛下が自ら手掛けたりはしないんですよ」

「……」

「綺麗ですね」


イシュラ王は私を抱いたまま銀の帯を見下ろすと、「そうだな」と呟いた。


「部屋はどうだ」

「とても快適ですよ。あの部屋は、国王陛下が使っていた部屋なんですよね?」


そう尋ねると、イシュラ王は僅かに逡巡して、高窓を見上げた。


「……いや、俺の前にあの部屋を使っていた人がいた」


その声はいつもと同じ淡々としたものなのに、どこか温度が違う気がして首を傾げれば、イシュラ王は何でもないとばかりに首を左右に振った。

それきりイシュラ王は何も言わず、二人で暫く月光を眺めていた。



「さて」


ゆるりと視線をこちらへ戻したイシュラ王が、口を開いた。


「そろそろ子供は寝る時間だ」

「へ……?」


唐突なそれに瞬きする私を気にもせず、イシュラ王はさっさと歩き出してしまう。


「えと、まだ見ていたいんですけど」

「もう寝ている時間だろう?」


そういえばと思った途端、眠気がじわじわと押し寄せてきた。イシュラ王の腕の温かさと、緩やかな揺れに包まれて、瞼がゆっくりと重くなっていく。


「あ、れ、そういえば、リオルガは?」

「その辺にいるだろう」

「その辺とは……?」


階段を上りながら軽く周囲を見回すも、その姿は見つからない。


「あれを、お前の侍従にする」

「……え、リオルガは、私の専属護衛騎士ですよね?」

「他に丁度良いのがいない。騎士と兼任させる」

「それは……」


本人は納得しているのだろうかと胡乱な目を向ければ、ピン!と額を指で弾かれた。


「痛っ!」

「あれが望んだことだ。どうせ、あれはお前から離れないのだからそれでいい」


そういうものなのだろうか?とうーんと唸りながら、背中をポンポンと叩かれつつ、イシュラ王に抱えられて階段を上がっていく。


(また、見られるかな)


わずかな期待を胸に、私はイシュラ王の背中を小さくバシバシと叩いておいた。



***



自室に戻ると眠気が一気に押し寄せてきた。

寝室に運ばれ、ぼすっとベッドに落とされ、毛布を顔まで引き上げられても、文句を言う気力すらない。

それでも、眠る前にどうしても話したくて、もごもごと口を開く。


「……今日……リオルガが……あの……」


必死に眠気と戦いながら口を動かすも、言葉は上手く形にならない。

イシュラ王は、そんな私を黙って見下ろしていた。


「……お昼が……お肉の……パンも……」


声が段々小さくなり、眠気に飲まれていく。


「おいし……お昼……あの、お肉……」


結局お肉のことしか言えなかった私は、無念……と完全に眠りに落ちた。

目を閉じる直前、そっと頭を撫でられた気がした。その手つきはいつも通り、とても優しいものだった。





イシュラは寝室を出ると、隣室の窓辺に腰掛けた。


「ジュリア」


王子宮殿の話をしたとき、彼女はとても楽しそうに笑っていた。


『いつか、私達の子供もそこで育つのね。その日が来るのが楽しみだわ』


そのときのジュリアの瞳は、まるで月光を映したように輝いていた。


「……随分と、時間はかかったが」


そう呟き、イシュラはそっと窓に額を寄せた。冷たい硝子にコツンと触れ、目を閉じそっと息を吐く。


「願いは叶えたぞ」


その言葉に合わせるように、口元が僅かに上がった。


本日3月12日より、コミックアーススターさまでコミカライズの連載が始まります。

ぜひ、楽しんでいただけたら嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
コミカライズ連載おめでとうございます!しっかり拝見してきました☆小説も読み直さないとって改めて思いました。 その記念の日のお話がとっても優しいリディアとイシュラ王とのお散歩エピソード(*ˊᵕˋ*)イシ…
もーちょっと(*T^T)親子が一緒に居られる時間が欲しいですね? (※王族( ̄^ ̄)色々面倒臭い!…せめて月夜ゎ時々、父娘デート出来るとイイね?イシュラ王♡)
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