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3度目の転生は、忘れ去られていた王女様でした  作者:


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初対面


赤と白を基調とした上品で落ち着きのある部屋には、大きな丸型のテーブルが二つ。部屋の奥にある暖炉の側に置かれたテーブルに一人座る、私と全く同じ色彩を持つ男性。

一見しただけで人を惹き付ける外見と圧倒的な存在感は凄まじく、高い知能を持ち、交渉、交際といった方面にも優秀。更に剣術は国王常備軍に引けを取らないというのだから、遠く離れた決して関わらない位置から眺められるような立場であったなら、「凄い」と手を叩いて褒め称えていたところだ。

けれど現在、獲物に狙いを定めた捕食者のような目を向けてくる国王相手に、私は武器もなく立ち向かわなくてはならない立場にいる。


『イシュラ王はよく冷酷、無慈悲な方だと誤解されることがありますが、ただ思いやりがなく人間らしい感情に欠けている方なだけで、理不尽な方ではありませんからご安心ください』


リオルガが馬車でそう言っていたとき「そうなんだ」と軽く流していたが、思いやりがなく人間らしい感情がない時点でそれは大丈夫と言えないのでは?

瞬きせず無表情のままジッと私を見るイシュラ王。

睨まれているわけでもないのにゾッとするほど恐ろしく感じるのは何故なのか……。

さっきまでは怒らせたら一番危険なのはリオルガだと思っていたのに、この人外のような人を見て即座に考えを改めた。


コレ、キケン、ダメ!


自然に見えるようイシュラ王から視線を縦に外し、彼の左の席、王子達と並んで座っている女性へと目を向ける。


『正妃であるルイーダ王妃ですか?穏やかで心優しく、とても優秀な方で、貴族や民に慕われています』


力も資金も合わせ持つ侯爵家出身で、社交界の華と称された人。

真っ赤な長く美しい髪と海のように青い瞳。イシュラ王に劣らない美貌を持つ王妃は、私を見つめながら優しく微笑んでいる。

私が人生三度目でなく、何も知らないただの子供であれば、聖母のような王妃様に見惚れていたかもしれない。


――けれど。


『それは表向きのものです。以前、側室だった女性を後宮から追い出そうとし、家を潰したと、そういった噂があった方ですから』


王妃という席に座っている人がただの良い人なわけがなく、心優しい王妃様の侍女があのような態度を取るわけがないのだから。

きっとこの王妃様は自身の手を汚さず人を動かし、自身の思いのままに生きてきたのだろう。


(狐だ)


要注意人物だと心に刻み、狐様の隣の席をチラ見する。

そこには第一王子のクリスと第二王子のソレイルが。幼い頃から整った顔立ちの二人だが、リオルガが言っていたようにイシュラ王とは若干目の色が違っている。

前世では比べる対象であるイシュラ王を見たことがなかったので分からなかったけれど、クリスは青みの強い紫で、ソレイルは赤みが強い紫、しかも髪色は赤みが強い金髪。

そんな彼等は私の存在を事前に聞かされていなかったのか、それぞれが複雑そうな顔をして私とイシュラ王を見比べている。


(今のところ悪意はなさそうだけど)


そしてそんな王子達の隣の席には、王族が揃う晩餐に出席している場違いな少女。

茶色の髪と瞳といった国民の大半の色を持つ、全く華のないメリア・アッセン。

特別人の目を引くような美貌を持っているわけでもないのに、何故か庇護欲をそそるほど愛らしく見えるのだから、これが噂のヒロイン補正というものなのだろう。

素直で正直な子だと男性からは好感を持たれてはいたけれど、女性からは強かで自分勝手だと非難されていた。

男爵家という下級貴族でありながらこの場にわが物顔で座っているのをみれば、後者が正しかったに違いない。


「座れ。晩餐にする」


自称父親と対面したとき、彼が私に最初に発する言葉は何だろうとずっと考えていた。

諸手を上げて歓迎されるとは思っていなかったし、涙を流しながら謝罪するわけもないと、そう思っていた。でも常備軍を動かしてまで私を呼び寄せたのだから、それなりに何かこう、再会の言葉とかがあるのではないだろうかと……そう思っていたのに。


(私より晩餐が優先とは……)


これはどうなのだろうか?と、イシュラ王に促され私を席までエスコートするリオルガを見上げれば、私からの熱い視線に気付いたリオルガがふっと、それはもう美しく優しい笑みを浮かべながら「私が側にいますから」と囁く。


これが配慮だと、これが心優しく穏やかな聖母だと、自称父親と狐である王妃様にドヤ顔を披露したいところではあったが止めておく。隅に控えている侍従や侍女達の視線がとても痛いから。


さて私の席はどこの末席でしょうかとリオルガの後をついていけば、何故か恐ろしい人外の右隣の席へと案内され固まった。

左はイシュラ王、対面は王妃様。どう見ても好待遇なこの席に座れと?


「リオルガ……」

「こちらで間違いはありません」


ただ名前を呼んだだけで私の心境を読み取った有能な護衛騎士様は、左からの圧と、対面から発する禍々しいオーラは気付けないらしい。

大人しく害のない少女のふりをしようと決意し、仕方なく椅子に座った直後。


「似ているな」


そうボソッとイシュラ王が呟き、王妃の口元がピクリと動くのを目にした。

自分に似ていると言いたいのか、それとも私の母を思い出し思わず口にしたのか、そのどちらであったとしても、この場でそれを訊ねる勇気はない。


「リスティア様。私はずっと後ろにおりますので、ご安心を」


背後から聞こえてきたリオルガの言葉に知らず詰めていた息を吐き出せば、左から「おい」と低く冷たい声で抗議され、思わずビクッと肩を揺らしてしまった。


「怖がらせてはなりませんと、そう言われていませんでしたか?」

「怖がらせた覚えはない。それよりどうしてお前がそれの護衛騎士のように背後に立っているんだ?」

「リスティア様の臨時護衛騎士だからです。そう、陛下が仰っていましたよね?」

「……」

「ですから、此処に」

「……」


自身を睨みつける主君に対して一歩も引かないリオルガ。

彼は私の味方だと、此処に来る前に誓ってくれた言葉を思い出し口元を緩ませていると、またもや左隣から圧が。

そっと顔を向けると、イシュラ王が無表情のまま私を凝視していた。


「……」

「……」


互いに無言のまま暫く見つめ合っていると、対面から「陛下」と声が掛かった。


「陛下からそれほど見つめられては緊張してしまいますよ。これから晩餐なのですから、ほどほどに」

「……」

「それと、陛下からきちんと紹介していただけないと、私達は彼女にどう接してよいのか分かりませんわ」

「……」


正しいことを言っている王妃様だが、イシュラ王はそれをひたすら無視している。

顔も向けず、まるで声など聞こえていないのではないかと錯覚してしまうほど、何も反応しない。普段からこうなのかと困惑する私を余所に、王妃様はしれっと一人会話を続けている。

因みに視界の片隅に映る王子二人とメリアは、何事もないかのように談笑しているのだから意味が分からない。

何とも気まずい状況の中、先に痺れを切らせたのは王妃様だった。


「陛下は、また私を怒らせたいのですか?」


とても小さな声で呟かれた王妃様の声は、きっとイシュラ王と私にしか聞こえず、それがどういった意味を持つ言葉なのかはイシュラ王にしか分からない。

やっと私から視線を外したイシュラ王は、ぐるりと周囲を見回したあと私を指差し。


「これは俺の娘だ」


とだけ告げた。



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