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クロスケの冒険

作者: 眞基子

『クロスケの冒険』


 大きな団子、中くらいの団子、小さな団子をくっつけたような山がありました。緑の森におおわれた山は、あんこが乗っかっているように見え、町の人たちは遠くに見えるこの山を団子山と呼んでいました。その森の中にある高い木の上で、カラスのお母さんは七つの卵を産みました。七つの卵から順番に子ガラスが顔を出しました。クロスケが最後に顔を出したとき、兄さんたちが口をあけて鳴いていました。ある日、兄さんたちがエサを取り合ってあばれたので、クロスケは木の下に落ちてしまいました。クロスケは鳴きながら小さな羽をバタバタ動かしたが飛べず、地面がだんだん近づいてきました。その時です、体がふわっと浮き上がったのは。大きなフクロウが飛んできて、背中でクロスケを受け止めてくれました。クロスケを乗せたまま飛び立つと、太い幹に開けられたフクロウの巣に連れていきました。大きな巣の中は空っぽでした。

 「ここなら大丈夫よ」

 フクロウは言いました。

 「助けてくれてありがとう。僕の名前はクロスケ」

 クロスケは小さな声で言いました。

 「クロスケ、私はホッポ。飛べるようになるまで、ゆっくりしていきなさいね」

 そう言うとホッポはどこかに飛んでいきました。暗くなってクロスケが少し不安になっていたとき、ホッポが野ネズミをくわえて帰ってきました。

 「ただいま。クロスケ、さあ、食べなさい」

 クロスケはいつもお母さんの口ばしからエサをもらっていたので、大きなネズミを見ておどろいてしまいました。クロスケが困っているのを見て、ホッポは口ばしで少しづつクロスケの口に入れてくれました。クロスケは大きくなって飛べるようになると、自分でエサを取るようになりました。

 ある日の夜、クロスケはホッポと一緒に高い木のてっぺんに並んでいました。

 「ねえ、ホッポ、遠くでキラキラ輝いているのはなに?」

 「あれは、町といって人間たちが住んでいるのよ。いいかいクロスケ、決して町に近づいてはいけないよ。一度行ったら町の魔力に取りつかれ、二度と山には戻れなくなるんだよ」

 しかし、クロスケはどうしてもキラキラ輝く町に行ってみたくなりました。ホッポが寝ている昼間、町に向って飛び立ちました。高い木から見ていたときは、すぐに着くだろうと思っていましたが、飛んでみると遠くて途中の木で羽を休めました。やっとたどり着いた町にはカラスがたくさんいました。中でも大きなカラスがクロスケの近くに飛んできました。

 「おい、お前は新顔だな。なんという名前だ。ここには縄張りがあるから勝手にエサを食べるなよ」

 「僕はクロスケ。団子山から来たんだよ」

 「よし、俺の言うとおりにすれば、おいしいものがたらふく食べられるぞ」

 ボスの仲間に入ったクロスケは、他のカラスと一緒にゴミ袋をつっついて回りました。ビニール袋は簡単に破れ、中にはクロスケが山では食べたこともないおいしいものが詰まっていました。クロスケは、町での生活が楽しくなって、山に帰る気がしなくなりました。ここでは必死に食べ物を捜さなくても、そこいらじゅうにあります。しかし、ゆっくり食べているわけにはいきません。すぐに人間たちが棒切れを振り回したり、石を投げてくるからです。クロスケはなんで人間たちが怒るのかわかりません。山では落ちている木の実を食べても怒るものはいません。山に住んでいる動物も鳥たちも、自然にそれぞれの場所を認め合って暮らしています。

 仲間のカラスが言った。

 「俺たちは人間から嫌われているのさ。同じ鳥でも鳩は平和のシンボルと言われているし、ウグイスなんていい声だと喜ばれるのさ。俺たちみたいにカアカアと鳴く声はうるさいと言われ、色だって真っ黒だと、縁起が悪いと言われるし」

 「もしも、僕たちの羽がきれいな色で、美しい声で鳴いたら人間に好かれるのかな?」

 仲間のカラスは、クロスケに首を振りながら言いました。

 「もしもなんてないんだよ。カラスはカラス。ウグイスはウグイスさ」

 クロスケは人間にびくびくしながら、町に住むことに疲れてきました。人間と仲良くできないことが少し寂しかったけれど、きっと山を人間たちに荒らされたら、山の住人たちは人間を嫌いになるだろう。クロスケは、大好きなお母さんやホッポたち仲間がいる山に帰ろうと思った。


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