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六十八話 【冬・聖夜祭編】闇を祓う光の翼①

 パトリシアが指示した応接室へ行くと、執事長が指揮を執り使用人たちも避難できたようだった。


 多少の怪我人はいたが、みな命に別状はなさそうで肩を撫でおろす。

 だが、怪我人を治癒して回りながら、ふと一人足りないことに気付く。


「パトリシアお嬢様、ざっと確認しましたが今日屋敷にいた使用人は全員集まっております……しかし」

 執事長も渋い顔をしている。


「クラウド様が、いない……」

「あの人なら、きっと書斎にっ。今夜はまだ寝室に戻って来ていなかったの」

 震える声でミアが告げる。


「わたしが見てきます。結界を張っておくので、皆さんはこの部屋から絶対にでないようにしてください」


「そんな、一人じゃ危ない。ボクも行く」

 リアムはそう言ってくれたけど、パトリシアは首を横に振った。


「リアム様は、リオノーラとミア様の傍に付いていてあげてください。わたしは大丈夫です」

「……分かった。でも、無理はしないと約束して」


 リアムは心配そうな顔をしていたが、魔法の使えぬ自分が行っても足手まといになるかもしれないと察したのか、頷いてくれた。


「……お嬢様」

「どうしたの?」


「使用人たちが目撃した話によると、アンデットを操っているのは、どうやら銀髪にオッドアイの青年のようです……どうかお気を付け下さい」


「ええ、ありがとう」


 パトリシアは、動揺を悟られないよう頷いて部屋を出た。

 けれど先程のリオノーラの証言といいひっかかる。






 途中二体のアンデットに遭遇し浄化魔法で退治しつつクラウドの書斎まで辿り着いた。


 中から物音が聞こえてくる。激しく何かがぶつかり合う音や、ガラスが割れる音。


「クラウド様!!」


 どんな状況か分からなかったけれど、パトリシアは声を出して部屋へ飛び込んだ。


「っ!」

 室内は家具がひっくり返り書類が舞ってぐちゃぐちゃしている。それから薄闇色の霧が部屋に充満していて重苦しい。


 その部屋の奥でクラウドと誰かが対峙していた。

 クラウドは所々怪我を負っているが、無事のようだ。とりあえずほっとしかけたパトリシアだったが、クラウドが対峙している相手の顔をみた瞬間に息を飲む。


「サディアス、様?」


 漆黒のローブを纏った男の顔は、サディアスそのものだった。


「やあ、パトリシア。御機嫌よう」

 こちらを向いて浮かべた笑みが胡散臭い。


 パトリシアは警戒しながらもクラウドの元まで行き、そっと傷に手を翳す。


「ここはわたしが」

 今なら廊下にアンデットもいないはずだ。結界が張ってある応接室まで向うように、クラウドの怪我を治癒しながら耳元で囁く。


「お前はどうするつもりだ」

「わたしが彼の相手をします」

「勝算は? お前に彼を倒せるのか?」


 クラウドが言っているのは、力の問題以上に彼を敵とみなし戦えるのかということだろう。


 サディアスは不敵な笑みを浮かべたまま、一定の距離を保ちこちらを眺めている。

 その余裕に満ちた表情から、底が知れないなにかを感じる。でも……


「勝てるかは、分かりません……けど、戦えます。助けが来るまでの時間稼ぎは出来ます。わたくし一人なら」

 自分一人ならなんとかできる。けれどクラウドを庇いながら戦う余裕はたぶんない。

 だからここは自分に任せてほしい。そんなパトリシアの思いを、クラウドもくみ取ってくれたようだった。


「……分かった。だが、約束しなさい。必ず無事で、私たち家族のもとへ戻ってくると」

「っ……もちろんです」

 パトリシアは念のためクラウドに一時的なアンデット払いの魔法を掛け、部屋の外へ送り出す。


 その間ずっとサディアスがなにかしないか警戒していたが、彼はあっさりとクラウドを見逃した。


「やっと会えたね、パトリシア」

「…………」

「ずっと探していたのに」


 ゆったりと近づいてきたサディアスに、顔の輪郭を指先でなぞられる。

 不快感と共にぞわぞわと肌が粟立つ。


「屋敷の中のアンデットを操っているのはあなたなの?」

「……ククッ、ああ、そうだよ」


「なんでこんなことを?」

「仕方ないじゃないか。パトリシアがなかなか死んでくれないから……直々に殺しに来たまでだ」


「っ!?」


 袖に隠されていたナイフで首を斬りつけられそうになったが、すんでの所で後退して避ける。


「おっと、残念。すばしっこいな」


 部屋に充満する闇色の霧が色濃くなって、サディアスの姿もぼやけて消えた。


(いったいどこにっ)


 消えた気配を追おうとしたが、気付いた時には既にうしろからナイフを突きつけられていた。


 だがパトリシアは恐れることなく、肘鉄を喰らわせてサディアスから距離を取る。


「カハッ……随分お転婆なようだ」

 すぐに彼はまた闇に紛れて姿を消した。


 このままじゃ埒が明かない。それにこの闇の霧に包まれていると、徐々に思考が鈍ってくる感覚がした。


「ねえ、パトリシア。俺の味方になってくれるなら、君だけは助けてあげるよ」


 気が付けばまたサディアスが背後に忍び寄ってくる。

 長い腕で絡み付くように後ろから抱きしめられた。


「……あなた、誰?」

「え……」

「サディアス殿下はこんなことしない。絶対に!!」


 パトリシアの身体が閃光した瞬間、男が飛び退いた。


 パトリシアが放った光が部屋に充満していた霧を祓ってゆく。


「わしの幻覚魔法を無効にするとは。貴様の事を少々侮っていたわ」


 光と霧が消え視界がクリアになった部屋でパトリシアが対峙していたのは、サディアスではなく……会った事のない、年配の男性だった。

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