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六十六話 【冬・聖夜祭編】一時の休息

 騒然とした前代未聞の聖夜祭は、カレンが連行されブレントがふらふらと会場を出て行った後も続いていたが、パトリシアたちはその後すぐに会場を後にした。




「今日は協力してくれて本当にありがとう」


 差し伸べてくれたサディアスの手を取り馬車を降りる。


 彼はカレンへの取調べのため、今から城に戻らなければならないらしいが、その前にパトリシアをマクレイン家まで送り届けてくれた。


「わたし、ちゃんとお役に立てた?」


 結局サディアスにされたお願いは、自分のパートナーとして聖夜祭に出て欲しいということだけだったので、彼の作戦が上手くいったのかはよく分からない。


「もちろん。今のところ上々の出来かな」


 ブレントからの婚約破棄はサディアスとしても予想外の出来事だったそうだが、カレンを連行した手際の良さからみるに、狙いは彼女だったのだろう。


「彼女はなにかと君を陥れようとしていたからね。これで彼女の企みは阻止できた」


 まさかカレンの刻印が偽物だったなんて驚いた。アニメでは正真正銘本物だったはずだけど。


「カレンさんは、どうなるの?」

「暫くは城の地下で取り調べかな」

「そう……」

 彼女の処罰がどうなるかは、まだ分からないと言う。


「ブレント様の件は……」

 王位継承権が取り消されたのにも驚いたけれど、それも裏で手を回していた彼の作戦に入っているのだろう。


「詳しい話は後日ゆっくりしよう」

 今日はもう行かなくちゃと言われ、パトリシアは素直に頷く。


「ごめんね、色々。君にも無関係な事じゃないのに話せなくて」

「いいの、わたしこそ忙しいのに引き止めちゃってごめんなさい」


「…………」

「サディアス様?」


「帰る前に少しだけ……抱きしめてもいい?」

「えっ!?」

 いきなりこのタイミングで? と、驚いたパトリシアが頷く前に、サディアスは遠慮なくぎゅ~っとパトリシアを抱きしめてきた。


「……まだ許可してないです」

「嫌なら突き飛ばして。君なら簡単にできるだろ?」

「…………」

 そんな風に言われると、嫌だと思っていない自分の気持ちを自覚してしまい困る。


「……アイツはバカだ。君を、自ら手放すなんて」

「なんで嬉しそうなの?」

 顔を確認しなくても、その声音から喜びの感情が滲み伝わってくる。


「ごめん……不謹慎だって分かってるけど。これで、君の婚約者の座が空いたと思うと」

 嬉しい誤算だったと呟き、サディアスはしたたかな笑みを浮かべていた。


「確かに、不謹慎な発言ですね」

「ごめんね」

 言葉とは裏腹に、さっきから全然申し訳なさそうじゃない。


 人の婚約破棄を喜ぶなんて……そう思いつつ、パトリシアも婚約破棄されたというのに悲しみよりも解放感のようなものを覚えてしまっているから何も言えなかった。


 そんなパトリシアを暫く抱きしめ、サディアスは名残惜しそうに離れる。


「じゃあ、行くね。君の家にも護衛を付けておくけど、くれぐれも気を付けて」

「大丈夫。だって、もうカレンさんは捕まったんだし」


 自分の命を狙っていたのは彼女だったのだとパトリシアは思っていた。

 けれどサディアスは、少し晴れない顔をしている。


「正直に言うと、まだ油断できない」

「え?」

「物的証拠だけで言えば、カレン嬢が黒幕だけど……彼女一人でここまでの事を仕組めたのか、疑問も多い」


「まだ、サディアス様が捕まえたい人物は他にもいるってこと?」

 それは答えられないと言うように、サディアスは曖昧な笑みを浮かべた。


「……カレン嬢を捕まえただけじゃ、またトカゲの尻尾切りかもしれない。でも、今度こそ終わらせる」


 覚悟の滲む彼の表情から、その相手がどれだけ厄介な人物なのかということを察し、パトリシアも得体の知れない恐怖を感じた。


「順調にいけば、その人物も今夜のうちに捕らえられる。けど……」


「大丈夫よ、きっと」

 もし襲われたなら返り討ちにしてサディアスに差し出してあげると言ったら「お願いだから、危険な真似はしないように」と釘を刺された。


「サディアス様って心配性」

「君の危なっかしい言動のせいだよ」

 安心させたかったのに、もっと心配させてしまったようだ。


「ねえ、パトリシア。絶対に勝ってみせるから、全てが解決したら……」


 何かを言い掛けたサディアスは、けれど途中でそれを止めてしまった。


「なあに?」

「いや……全てが解決してから言うよ。その方が、やる気も出るからね」


 彼が言い掛けた言葉の続きが気になったけれど、その約束が彼の力になるならと、パトリシアはなにも聞かずに頷いた。


「ありがとう。おやすみ、パトリシア」

「っ!」


 サディアスは、パトリシアの額にキスをすると今度こそ城へ戻っていったのだった。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「どういうことだ、いったいこれは……」

 ブレントは薄暗い城の廊下をふらふらとした足取りで歩いていた。


 あの後すぐに父である国王陛下へ確認を取りに行くと、王位継承権の取り消しは事実だと一言告げられ追い返された。


 理由は後日説明すると。こんな対応をされ納得できるはずがない。


 まさか、サディアスに王位継承権一位を与えるつもりなんじゃないか。そう思うと腸が煮えくり返る。


「あんな無能、一国の王となる器じゃないだろ!!」


 今までなにをやっても自分に敵わなかったのがその証拠だ。魔法を使えない無能な上に、忌み嫌われるオッドアイを持ち生まれた王室の鼻つまみ者。それがサディアスだったはずなのに。


 本人だって今までは、身の程をわきまえた振る舞いをしていた。


 だが突然髪を切り素顔を晒し雰囲気を変え、パトリシアをパートナーに聖夜祭に出るなど、これは自分に対する宣戦布告なのかもしれない。


「調子にのりやがって!! パトリシアは、オレのだっ」


 パトリシアもパトリシアだと怒りが湧いてくる。いくら聖夜祭に誘わなかったからといって、サディアスと参加するなど当て付けに決まっている。


 そんなことしなければ側室にしてやったものを……


「ぐっ……」


 ブレントは頭痛に耐えられなくなり、その後倒れている所を従者に発見され自室に運ばれたのだった。

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