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六十四話 【冬・聖夜祭編】断罪の時①

「しらばっくれるな。全てカレンから聞かせてもらった!!」


 高らかに言うブレントの台詞を聞いて、パトリシアは「アニメで観た通りのシーンだ」とまるで他人事のように思えた。


「わたし、パトリシア様にたくさん嫌がらせをされました……廊下でいきなり突き飛ばされたり、人気のない場所に呼びだされて罵倒されたり、教科書やカバンを隠されてボロボロにされた事もっ」


 カレンは大きな瞳一杯に涙をためそう訴えてくる。


 アニメでは事実を公表され慌てふためくパトリシアだったが、自分はなにもしていない。


 だからはっきりと「それは嘘です」と答えた。

 そんなパトリシアの態度にブレントは、顔を赤くして怒る。


「カレンが嘘を吐いていると言うのか!」

「ひどい……あんまりです、パトリシア様。素直に謝ってくれさえすれば、わたしだって大事にしたくなかったのに……」

 カレンは涙ながらに肩を震わせた。


「話にならないな。パトリシア、オマエの言い訳はもう聞かない! オレは聖女カレンを新たな婚約者にするとをここに宣言する!」


 ホールはいつの間にかしーんと静まり返り、ブレントの良く通る声が響き渡った。


「カレン、オマエのように心の清らかな女性にオレは今まで会ったことがない。オマエこそ王妃に相応しい。どうか、オレと結婚してほしい」


「ブレント……嬉しい!」


 ブレントが跪き手を差し伸べると、カレンは涙を拭いうっとりとその手を取る。


 ホール中の生徒たちが祝福し拍手が鳴りやまなくなる……と二人は思っていたようだが、予想に反し会場は静まり返ったままだった。そこへ。


「ちょっとあなた、先程からなにをおっしゃっているの!?」


 パートナーの制止を振り切ってずんずんと一人の令嬢が野次馬の輪から飛び出して来た。

 それはコバルトブルーのドレスに身を包んだリオノーラだった。


「パティがっ、わたくしの姉がそんな陰湿な虐めをするわけないですわ!!」

「リ、リオちゃん、落ち着いて~」


 パートナーのリュカに羽交い絞めにされ、なんとか押さえられているが、今にもカレンに掴みかかりそうな勢いだ。


「そんなっ、これは事実です……パトリシア様は庶民育ちのわたしじゃ、ブレントとは不釣り合いだって、育ちが悪いって何度もっ」


 カレンはリオノーラに怯えるように肩を竦める。

 確かにアニメのパトリシアは、そのようにカレンを罵っていたけれど。


「生まれで差別するなど、人としてあるまじき行為。さすが偽物の聖女だな!!」

 こういった騒ぎでは毎回カレンに加勢してくるいつもの男子生徒が非難の声をあげだした。


 ざわざわと、会場にいる生徒たちも困惑した様子でパトリシアを見てくる。


 すると。


「パティはそんな子じゃありません!!」


 パトリシアが何か言う前に、また野次馬の輪から一人令嬢が飛び出してきた。

 美しいレースをあしらったオレンジのドレスに身を包んだマリーだ。


「彼女は、聖女候補になる前、私と同じ教会で孤児として育ったの。そこには色んな事情の子たちが集まっていたけれど、パティはどんな生まれの子でも絶対見下したりしなかった。教会で事件が起きた時には、私たちを見捨てず守ってくれた!! 彼女はそういう子なのっ、これ以上パティを侮辱するなら私が許さない!!」


 身体を震わせそう訴えるマリーの肩に、バレットがそっと手を添える。


「僕も父から聞いたことがある。マクレイン侯爵は孤児院に毎年多額の寄付をしているようだが、それは娘であるパトリシア嬢の、身寄りのない子供たちの居場所が失われないようにという願いに応えて援助しているのだとおっしゃっていたそうだ。そんな彼女が、庶民育ちというだけで差別をするとは思えない」


 会場にいた他の生徒たちも、徐々に声を上げ始めた。


「パトリシア嬢が誰かに高圧的な態度を取っているところなんて見たことがないしなぁ」


「私も彼女がそんな人間だとは思えないわ」


 わたくしは悪くない。アニメのパトリシアはそう叫び続け、けれど自分の味方は誰もいないことを知り絶望していた。


 ずっとずっとそんな結末に怯えていたのに。


 目の前で起きた出来事に、パトリシアは涙を堪えた。


 自分の無実を信じてくれている人がいる。声を上げ味方でいてくれる人がこんなにいる。

 孤独の中で処刑されたアニメのパトリシアと自分は違うんだと、胸を張って今なら思えた。


「みんな……ありがとう」

 ついに堪えきれなくなった涙が一筋頬を伝う。


「なんで……なんで、なんで、なんでっ。意地悪な妹役だったはずのリオノーラが、なんで姉を庇うの? 孤児院で育った? そんな設定なかったはずっ」

 カレンは俯いてなにかブツブツと呟いたかと思えば、瞳を潤ませブレントに訴える。


「みんな、ひどい!! わたしが嘘を吐いてるみたいに言ってくるけど、ブレントだけは信じてくれるよね?」


「当然だ!! 聖女に危害を加えるなど許されない。王太子として命ずる、ただちにパトリシアを捕えっ」


「ブレント……そこまでだ」


 ますます暴走するブレントを制し、パトリシアを守るように前に出たのは、ずっと黙って流れを見守っていたサディアスだった。

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