四十九話 【秋・恋の攻防編】不穏のはじまり①
ブレントは午後の授業を受けながらも、頭の中では放課後の事を考えていた。
あの時は深く考えずに了承したが、昼休みならまだしも放課後にパトリシアが誘ってくるなんてやはりなにかあるのかもしれない。
(本題は放課後にってところか)
パトリシアが刃向ってくるとは思えないが、あの思いつめたような目はただデートに誘ってきただけというわけではないだろう。
(まあ、いい。なにか言ってきても、ブレスレットを渡せば機嫌も直るはずだ)
そしてブレスレットを渡すなら街並みが綺麗に見える時計塔がいいだろうとか、そこで唇にキスをしたらアイツはまた怒るだろうかとか、色々考えているうちに鐘が鳴り授業が終わった。
「殿下、どうかされましたか?」
声を掛けられ顔を上げると父親が大臣であり将来のブレントの側近候補と言われている青年が不思議そうに首を傾げている。
「なんでもない」
「今日の放課後ですが」
ブレントが一度学院内で襲われた事件以降、彼は予定が合えば放課後など護衛のように行動を共にしてくれていたが今日は不要だと伝えた。
「今日は予定があるからな。付き添いはいらない」
「かしこまりました」
なにかあってもあの事件以来ブレントには常に城から派遣されている護衛が姿を隠し付いているので問題ない。
そうしてブレントは一人足早に教室を後にしたのだった。
待ち合わせ場所の噴水広場に着くとパトリシアの姿はなく閑散としていた。
温かい時期は昼休みや放課後もそれなりに人通りのある場所なのだが、秋も深まりはじめた今は噴水の水も止められ人気がない。
(まだ来てないか)
このオレを待たせるとはいい度胸だと言いたいところだが、パトリシアに待たされるのには慣れている。
最近はしなくなったが、自分に会うより書庫で本を読み漁ることを優先するような娘だ。
(まったく。アイツの優先順位はどうなってるんだ!)
もし自分が一番じゃなかったら……面白くない。
なにをしても一番にしかなったことのない自分が、一番じゃないなどありえないのだ。
カサカサ――
「パトリシア?」
背後からした物音にパトリシアが来たのかと振り向きかけた瞬間。
「ぐっ……」
「…………」
後ろから鈍器のような物で殴られ、ブレントはその場に膝を着くと意識を無くして倒れたのだった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「マリー、気持ちは嬉しいけれど早く行かないと。ブレント様をお待たせしてしまいそう」
「大丈夫、もう少しよ」
放課後にブレントとデートすることになったとマリーに報告すると、彼女はじゃあおめかししなくちゃと張り切って放課後メイク道具を用意してくれた。
「ほら、できた!」
満足そうに微笑みながらマリーが手鏡を渡してくれる。
「あ、ありがとう」
薄化粧にチークをのせ艶のでるリップを塗っただけなのに、いつもより大人っぽくなれた気がする。
「うんうん、パティは元から綺麗だけど、今日は特別美人さんよ。殿下もきっと見惚れちゃうわね」
「そんなこと……」
今までブレントが褒めてくれたことなんてない気がする。もし今日少しでも褒めて貰えたならいいなと思った。
「ほらほら、準備はバッチリできたんだもの。自信を持ってデート楽しんできてね」
「うん。マリー、本当にありがとう」
背中を押してくれた友人に改めてお礼を言うと、マリーは自分の事の様に嬉しそうに笑って見送ってくれた。
ブレントをあまり待たせてはいけないと、パトリシアは、はしたなく見えない程度に小走りをして約束の噴水広場へと向かった。
最近は肌寒いのであまり人気のない場所と認識していたのだが、近づくにつれ野次馬のような人だかりができている事に違和感を覚える。
人だかりを掻き分け近づくと、噴水広場の周りには教師の他、黒いローブを身に付けた人物の姿があった。あの格好、普段学院には在中していないはずのエクソシストだ。
嫌な予感がして不安になりながらもパトリシアはブレントの姿を探す。だが彼はここにはいないようだった。
まだ来ていないだけなら良いのだけど……
「あの、なにがあったのですか?」
近くにいた野次馬の生徒に声を掛けてみる。すると。
「ブレント殿下が襲われたらしくて……」
その言葉にパトリシアは血の気が引いた。
ブレントは後頭部を殴られ倒れている所を発見され医務室に運ばれたという。
襲った犯人はいまだ不明だが、ブレントの他、王宮から派遣されていた護衛が事切れた状態で見つかったらしい。
教会からエクソシストが派遣されていたのはそのためだ。死体の損傷具合からアンデットが出たと判断されたということなのだろう。
自分が誘ったせいだとパトリシアは思った。
それとも、もしかしてアニメでもこんな事件が起きていただろうか……分からない。思い出せない。
(ブレント様、どうか無事でいて)
目撃者の話によると、ブレントは意識をなくしていたらしい。重症でないことを祈りながら、パトリシアは医務室へと向かったのだった。




