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四十話 【夏・学院祭編】悪役令嬢いじめられる?②

 だがしかし、その日の夕方に事件は一変する。


 放課後に図書室で過ごしたパトリシアは、下校しようと馬車乗り場に向うため、いつも通る図書室からの最短ルートである校舎裏に出たのだが。


「アンタか、マクレイン家の聖女様ってぇのは」

 誰だか知らないが厳ついなりをした男五人に囲まれた。どうやら待ち伏せされていたようだ。


「あなたたち、誰ですか?」

「へっへっへ、答える義理はねぇ。ただ、アンタを捕まえれば、高く売れるって聞いてなぁ」


 人攫いだ。この学院の警備はかなり厳重なもののはずだが、警備を掻い潜ってきたのだろうか。

 ならば油断はできない。


「残念だったなぁ。助けを呼んでも誰も来ないぜ。人払いは完璧だ」

「そうですか。それはよかった」

「はぁ?」


 令嬢らしく怖がって悲鳴をあげることもしないパトリシアに、なんだこいつと男たちが戸惑いを浮かべる。


 だが人払いしてくれたなら、パトリシアとしては好都合なのだ。


(思う存分力を使って戦えるもの!)


「グハッ!?」


 静かに頭の中で詠唱を唱え、魔法陣を足元に出現させたパトリシアはそのまま風圧で五人の大男を吹き飛ばす。


 うち一人は壁に身体を叩き付けられ意識を失ったようだ。残り四人。


(う~ん、もっと吹き飛ぶかと思ったけど、加減が難しい)


「な、なんだ、今の!?」

「風魔法が使えるなんて聞いてないぞ!」


 敵が戸惑っているうちに、風の力を纏わせた拳を近くにいた大男の腹に打ち込んだ。


「ガハッ!?」


 今度は思ったよりも遠くまで吹き飛んでいった。こちらも加減が出来るようになるまで人に使うのは危険そうだ。残り三人。


「ひぃ、おい、どうするよ!?」

「ここまで来たんだ! 今さら怯んでんじゃねぇ!!」


 リーダー格と思われる男に指示され、怖気づきかけていた男二人が飛びかかってくる。


 ふわっと風魔法を纏って高く飛び上がるとそのまま、回し蹴りを男二名の頭に喰らわせたら男たちは呻きその場に倒れた。残り一名。


 だが着地した瞬間。


「っ!?」

「ガハハッ、まさか風魔法を使えるとは思わず油断していたが、それはおまえも同じだったようだな」


 着地した地面が盛り上がり、そのまま地面に両足首を掴まれてしまった。


(土魔法!!)


「大人しく眠ってな!!」


 棍棒で頭を殴られそうになったパトリシアは、風の壁を作り身を守ろうと考えた。


 だが、シールドを発動する前に突如男が白目をむいて崩れ落ちる。そのままピクリとも動かない。意識を失ったようだ。敵は全滅した。


 けれど、最後の一人は自分の力ではなく。


「サディアス殿下……」

「お怪我は?」

「大丈夫です」

 男が意識を失ったことで魔法は無効化されたようで、足元も自由になった。


「ここに倒れている男たちは?」

「分かりません。突然攫われそうになったので」

「倒したのは貴女ですか?」


 やばい、そう思ったが、状況的に勝手に倒れていたとも言えない。


「はい……」

「この人数を一人で?」

 こちらを窺うようなサディアスの反応を見るに、恐らく魔法を使って男たちを吹き飛ばしている所は見られていないようだが。


「護身術の心得があるんです……でも、その事は口外しないでいただけますか?」

「なぜ?」

「マクレイン家の養子になる前に色々あって身に付けた術なので、あまり知られたくないのです」


 訳ありの雰囲気を醸し出してみたら、どうやって倒したのかそれ以上追及されることはなかったのでほっとした。


「この人たち、どうしましょう」

「王太子の婚約者に手を出したのです。王室の調査員の方に引き渡すことになるでしょう」

「そうですか」


 だが所詮はトカゲのしっぽ切り。見るからに雇われの悪党に見える彼らをいくら絞り上げたところで、黒幕には辿り着かないだろうとサディアスは言う。


「捜査員にも聞かれると思いますが、なにか犯人に心当たりはありますか?」

「う~ん……特にありません」

「小さな事でもいいです。最近他にも不審なことがあったりなど」


「不審なこと……関係があるかは分からないですが、最近少し嫌がらせを受けていて」

「嫌がらせ?」


 嫌がらせの犯人は、例の令嬢二人かと思っていたが違うのだろうか。


 さすがに嫌がらせで人攫いまで雇ったとは思えない。ならばそれはそれ、これはこれで別の人物が犯人の可能性もあるが。


 パトリシアはサディアスに聞かれるがまま、最近受けてきた嫌がらせを話してみた。すると。


「それは……少しの嫌がらせで済ませられるレベルじゃないだろ」

 サディアスの声音がいつもと変わり、空気が急にピリついた気がした。


「なんか怒って、ます?」

「怒ってる……というより、呆れてます。貴女の自覚の無さに」

 サディアスの呆れ声に、なんとも言えない気持ちになる。


「だいたいそんな危険な目に遭っているのに、なぜ誰にも相談してないの?」

「そ、相談するほどの事でもないかと思って……」


 サディアスがなにか吹っ切ったように素の口調を晒してきたので、思わずパトリシアも素に戻る。


「相談するほどの事だろ。命狙われてるし!」

「えぇ……大げさよ。自分でどうにか対処出来るレベルだったし」

「大げさじゃない!」

「それに怪我をしても自分で治せるから大丈夫」

「そうだとしてもっ、はぁ……なんでも一人で抱え込もうとしないで」


「え……」

 そんな事を言われても、なんて返していいか分からなかった。


 なにが起きても自分一人で対処するしかない。今までそんな風に生きてきたのだ。


「俺は、君に辛い思いをしてほしくないから。そういう無鉄砲で危なっかしいことされると……ほっとけなくなる」


(なんで、そんなこと言うの?)


 サディアスの言葉に心が震えた。なぜか分からないけれど、泣きそうになった。その一言で……


 でも理性がそれを拒み泣けない。


(だって、そんなこと言われても自分の身を守るのは自分しかいないから……)


「他人を信じるのが怖い?」

「っ……」


 サディアスと話すのは少し苦手だ。

 それは彼の心のうちが見えないからというのもあるけれど、それ以上に自分の心の内だけ見透かされているような気持ちになるからかもしれない。


「なら信用しなくてもいい。でも俺は、どんな時でも勝手に君の味方でいるよ。それだけは、覚えておいて」

「なんで……わたしなんかを」

「さあ、なぜだろうね」


 その時どこからか王家の隠密部隊が現れ、倒れている悪党を回収してゆく。


 それをぼんやり眺めているうちに、サディアスは隊員とどこかへ行ってしまった。


 パトリシアも少し話を聞きたいと言われ連れて行かれたが、その日はその後サディアスと再び会う事もなく、なんだかずっと上の空のまま一日が終わった。

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