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三話 無力な少女時代③

「う……ん?」


 意識が戻って最初に視界に入ってきたのはゴツゴツとした岩肌。

 手足の拘束などは特にされていない。


(あの後、なにがあったの?)


「お、嬢ちゃんが起きた! お頭のところに連れて行くぞ!」

「えっ、わぁ!?」

 状況が把握できないままノッポな山賊に担がれた。あの強面なお頭の元へ連れて行かれるようだ。


「おーかーしーらー!」

「うっせぇ、騒がしいぞ」

 洞窟の奥にある大きな岩の上で胡坐をかいて酒瓶を持っていたアノ男の前に下ろされる。

「嬢ちゃんが目覚めましたぜ」

「そうか」

 頷きながら頭の男が「はけろ」と視線を向けると子分たちがその場を離れる。


「気分はどうだ。丸一日寝てたんだぞ、お前さん」

「気分……良くはないです」

「だろうな」

 ゴツゴツとした手で顎を掴まれ上を向かされる。


「白妙の肌に艶やかな黒髪、柘榴色の瞳か……ふっ、綺麗な顔したガキだな。少女趣味な輩に高値で売れそうだ」

 間近で目が合う。強面の男は三十代前半といった所か。

「……全然怖がらないのな、お前」

「わたしをどこかに売り飛ばすの?」


「いいや、まだ決めてない。面白いガキだと思ってな。とりあえず興味本位で連れ帰った」

「面白い?」

「……なんで笑ってた?」

「え?」

「お前、あの村の子供だろ。目の前で村人を殺した男になんでありがとうなんて言った」


「それは……」

 パトリシアは少し言葉を詰まらせた。

 目の前で血まみれになった村長を見て自分は


(ざまあみろって思ったから……)


 自分は傍から見たら血も涙もない人間になってしまったのかもしれない。

 一瞬そんな思いから躊躇が生まれたけれど、山賊に取り繕う意味もないかと思った。


「どうした、答えられないか」

「……皆、消えちゃえばいいって思ったの。けど、わたしには力がなくて、なにも出来なかった」

「ほう……村に火を放ったのはお前さんなのか?」


「違う。村長」

「村長が……なんか知らんが、俺らは随分と訳ありの村を襲っちまったわけか」

 パトリシアが黙って頷くと、男はがははと大きな口を開けて笑い出した。


「じゃあ、お前さんにとって俺様は救世主ってやつだな」

「救世主? どちらかというとおじさん、魔王様みたいだったけど」

「おじさっ……いや、ガキから見たらおっさんか」

 男は少しだけ不服そうにブツブツと独り言を呟いている。


 パトリシアはそんな男を見上げながら、次の言葉を待っていた。

 自分がこれからどうなるのかは、この男にかかっている。


「で、お前さんはこれからどうするんだ?」

「え?」

 だが逆に問われきょとんとした。


「俺様たちはあの村の住人たちを皆殺しにしたわけじゃねぇ。金目の物を盗む事が目的だっただけだからな。それじゃ手ぬるいってんならあとは自分の力で壊せ」

「…………」


 目を閉じると昨日の光景が浮かぶ。泣き叫び絶望する村人たちの姿も……

 あれ以上追い打ちをかけてやろうとは思わなかった。


「……ねえ、おじさん」

「おじさんじゃねー」

「じゃあ、魔王様?」

「ちげーよ! 俺様の名はヘクターだ」

「分かった、ヘクター」

「呼び捨てかよ……」


「わたしに教えて」

「俺様に学なんざ求められても」

「わたし強くなりたい」

「ほう……戦い方が知りたいって事か。俺様に指南しろと」

 パトリシアは力強く頷いた。


「いいぜ」

「本当!?」

「だが……見返りはなんだ?」

 浮上しかけた気持ちがすぐに沈んでゆく。


「どーせ、一文無しだろ。身体で払うってーのはなしだぞ、俺様はガキに手を出す趣味はない」

「…………」

 渡せるもの。渡せるもの。

 なぜか自分は高値で売れるらしいけれど、戦闘力を手に入れたいのは、もう二度と自分を狙う輩の思い通りにならないためだ。この身は差し出せない。ならば。


 パトリシアはずっと懐に入っていた小袋を取り出した。

 あの夜、父に渡されたモノだ。

 中には銀貨数枚となにかの紋章が彫られた金の徽章が入っていた。


 クレスロット王国のマクレイン侯爵を頼る様にと父は言っていた。

 恐らくこれは必要な分の路銀なのだろう。でも。


(なんでか分からないけど……侯爵様の元へ行ってはいけない気がする)


 本能的ななにかが警鐘を鳴らすのだ。王国に行ってはいけない、係わってはいけないと。


「どうした? 一文無しのガキを面倒みる気はねぇぞ。差し出せるもんがねーなら」

「これ、あげる」

「……これはっ」

「どう? それじゃ足りない?」

「…………」


「あと、わたし治癒魔法が使えるの」

「なんだって?」

「だから、あなたたちが怪我をしたら役に立てることがあるかも。それじゃ、ダメ?」


 小袋の中を確認したヘクターは深いため息を吐いた。

「これは、どこで拾ってきた」

「拾ったんじゃない。お父さんが……最後にわたしにくれたモノ」


「だいたい話は読めた。はぁ……面倒事はごめんなんだが」

「わぁっ」

 金の徽章を投げてよこされパトリシアはなんとかそれをキャッチした。

 返品されてしまった。やはりお荷物はいらないという事なのか。


「ダメ、ですか?」

「いや……いいぜ」

「っ!! ありがとう、おじさん!!」

「おじさんって呼ぶなっつーの! まあいい……その徽章はお前さんが持っておけ」

 なんの思い入れもない金のバッチ。こんなものいらないけれど。


「そいつはお前さんが持ってた方がいい」

「分かった。これからよろしくお願いします、ヘクター」

「呼び捨て……もういい。好きに呼べ」


 こうしてパトリシアは山賊のお頭に拾われたのだった。

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