表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/81

十六話 前世の記憶①

 サロンの日から数日が過ぎた。

 パトリシアは聖堂で祈りを捧げ、淑女としての教育を受け、夜にはこっそり素振りをし武術の腕が鈍らないように訓練したり、変わらない毎日を送っていたのだけれど。


「おかしいわ! もうサロンの日から一週間も過ぎたのにっ!!」

 リオノーラは日が経つごとに機嫌が悪くなったり、泣きだしたり、かと思えばサロンの日のことやサディアスとの出会いを語りだし上機嫌になったり……情緒不安定過ぎて、大丈夫かなとパトリシアも密かに心配する有様だった。


 今もだが、毎日サディアスからのデートの誘いが来るのではないかと、城からの手紙や使いの者が来ないか玄関を見張っている。


(まあ……気持ちは分からなくもないけど)


 自分も、もはや黒歴史となっているがマシューに恋をした時は、いつも彼が会いに来てくれる夜が待ち遠しかったし、彼が大人の女性と話しているのを見ると不貞腐れたものだ。

 恋をすると誰だって好きな人の言動一つで浮き沈みが激しくなるものだろう。


 少しだけ成長した今思い返してみると、認めるのは少し癪だがマシューよりヘクターの方がいくらかいい男だったかもしれないと思ったりもするが。

(いや……でも、ヘクターってデリカシーがないし、結構な女好きだったし、やっぱりないな)


 きっと今もどこかで元気に山賊をしていることだろう。褒められた生き方ではないけれど、パトリシアにとっては恩人だからこっそり幸せであることを祈っている。




「セバス、その手紙は、どこから来たもの!」

 昼過ぎ。聖堂へ行く時間なので準備をして自室から出ると、廊下で今日の分の手紙を仕分けて配る執事の後ろを追い掛けるリオノーラを見かけた。

 この屋敷に届く手紙のほとんどはクラウド宛のものなのだが。


「本日はリオノーラお嬢様の分も」

「本当ね!! ……なんだ、お兄様から」

 なんてあからさまな落胆具合だろう。あんなに慕っていた兄からの手紙なのに。

 留学中のリアムが知ったら悲しみそうだ。


「パトリシアお嬢様にも届いております」

 こちらに気付いた執事が笑顔で手紙を手渡してくれた。

「ありがとう」

 執事はパトリシアに手紙を渡すと、残りの分を届けにクラウドの書斎へ入っていく。


 だが、リアムからの手紙を受け取ったパトリシアは首を傾げた。なぜか自分だけ二通手紙を渡されたから。


「ちょっと、なんであなた二通も受け取ってるの!」

 目ざとくそれに気づいたリオノーラが乱暴にそれをむしり取り、ワナワナと身体を震わせる。なんだか嫌な予感がした。


「――んで……なんで、あなた宛にサディアス様から手紙が来てるの!!」

 そんなこと言われてもと困惑しながらもパトリシアは、憤慨するリオノーラを宥めようと試みるが。


「どんな手を使って抜け駆けしたのよ! サディアス様はわたくしの運命の方なんだから!!」


 肩を掴まれ揺さぶられる。本気を出せば投げ飛ばせるだろうが、侯爵家のご令嬢に手荒な真似をしたら後で立場が悪くなるのは自分の方だと分かっているのでできない。


「お、落ち着いてください、リオノーラ様」

「うるさい、うるさい!!」

 距離を取ろうと後退したが、リオノーラが離してくれず二人は揉みあう形になった。


「おやめください、お嬢様方、そちらは……っ!」

 騒ぎを聞きつけた執事が書斎から飛び出して来たが、その時にはもう遅かった。


「っ!」


 ドンとリオノーラに突き飛ばされ、その先に足場がないことを知ってパトリシアは青ざめた。

 ゴロゴロとそのまま階段を転げ落ち、強く頭を打ちつけ動けない。


「誰か、誰か、来てくれ!!」

 執事が大声で助けを呼んでいる。


「そんな、わたくし……こんな事、するつもりじゃ……」

 さすがのリオノーラも、わざと階段で突き飛ばすつもりはなかったのだろう。声を震わせ泣きじゃくっているのが分かる。


 けれど意識が朦朧とする中、パトリシアは治癒魔法で頭の傷を塞ぎながら混乱していた。


(なに……? 一体、これは……?)


 体験したことのない記憶が映像として甦ってくるような、妙な感覚がした。


 頭の中で再生される映像の中で、今より大人になったブレントが、サディアスが、冷たい眼差しでこちらを見ている。

 彼らの後ろには瞳を潤ませた少女の姿。

 そして彼女の左手の甲には……


(聖女の、刻印……!)


 完全に視界が真っ暗となり意識を手放す直前にパトリシアは全てを思い出し絶望した。


(ああ、そっか……)


 どんなに祈りを捧げても、努力しても、自分が聖女になる日など訪れはしないのだ。なぜなら。


(わたしは、いずれ偽物と呼ばれ断罪される……悪役令嬢パトリシアに、転生していた、のね……)


 この世界は前世で見た事があるアニメの世界にそっくりだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ