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十四話 王子たちとの顔合わせ④

 ついにお茶会が始まってしまった。リオノーラは徽章を持ち逃げ出したまま戻ってこない。


「ブレント殿下よ!」

「はぁ、お声を掛けていただけないかしら」

「でも、今日ってあれでしょ。聖女様との……」

「本当なのかしら。聖女の証を持っている子なんて……いないじゃない」

「だいたい聖女は死んだんじゃなかったの?」


 ひそひそとご令嬢たちが囁き合っている。

 知り合いもいないパトリシアは蚊帳の外だ。

 彼女たちの視線の先には、周りとオーラの違う少年が一人。

 きゃあきゃあと黄色い声を上げる少女たちに囲まれ、つまらなそうな顔をしている。


(あの人がブレント殿下……たぶん)

 噂通り人目を惹く華がある。金髪に碧眼の美少年だ。

(あ、目が合ったみたい)

 じっと見過ぎてしまっただろうか。


 けれど徽章を着けていない今、王子より身分の低い自分がしかも初対面で声を掛けるのもどうなんだろうと思い、静かに気付かなかったふりをして視線を逸らした。


 目の前には色とりどりのスイーツが並んでいる。立食のバイキング形式のようなので、リオノーラが徽章を持って帰ってくるまではスイーツに舌鼓を打っておこうとしていたのだが。


 受付にいた男性がそっとブレントの耳元で囁きながらこちらを見ている。

 二人の視線を感じガツガツとケーキを頬張るのを諦めた。お作法の先生にそんな姿を見られたらはしたないと言われそうなので。


 やがてブレントは真っ直ぐにこちらへやってくると。

「オマエが聖女、パトリシアか」

 やはり声を掛けられた。口いっぱいにケーキを頬張ってなくてよかったと思いながら振り返る。

「……ふーん」

 まるで見定めるようにつま先から頭の天辺まで見られた。


「そのドレス、誰のセンスだ?」

「え、ミ……お母様に選んでいただきました」

 パトリシアにとって自分の母はセルマだけだが、外ではミアをお母様とクラウドをお父様と呼ぶように言われている。


「何十年前に流行ったドレスだよ」

 遠巻きにこちらを見ている令嬢たちがクスクスと笑っている。


(このドレスって、そんなに変?)


「さっきから悪目立ちしてたぞ」

「そうなんですか?」

 だから目が合ったのか。

「てっきりオレに声を掛けられたいばかりに目立つ格好をしているのかと思ってたが」


 この王子、どうやら子供ながらによほどモテてきたのだろう。女性は皆自分の事を好きになるものだと本気で思っていそうな程、言動にも態度にも自信が満ち溢れている。


「すみません。流行に疎くて……これからはもう少しそういったことも配慮してドレスを選びます」

「ああ、そうしろ。オマエはいずれオレの隣に立つ女だ。センスの悪いのを連れて歩いてオレまで恥を掻くのはごめんだからな」


 なんだろうこの悪気なく偉そうな態度。自分の一つ上と聞いていたが、十三年しか生きていないくせに、よくこんなに踏ん反り返った態度でいられるなとパトリシアは感心した。


 だいたい王子はもう一人いるはずだが、ブレントは自分が王位を継ぐと迷いなく信じているようだ。恐らくずっとそう教育されてきたのだろう。


(でも、クラウド様からは二人の王子と顔合わせしてくるように言われているし)


「あのサディアス殿下は……」

「さぁ、そう言えば来てないな」

 ブレントは興味なさそうに答えた。


「そんなことどうでもいいだろ。王にならないアイツに挨拶なんて必要ない」


 十四歳の誕生日を迎えたら、王子たちは王位継承権の順位を決定するために力を示す決闘をすると聞いていたのだけれど。

 そこで勝った方がパトリシアの正式な婚約者になるのだと。


(ブレント殿下は、自分が王になるって揺るぎない自信があるみたい)


「…………」

「なんだよ」

 色々と思うところはあるけれど。今はそんなことより……


(なんでだろう。この人とは、初めて会った気がしない)


 お会いしたことは恐らくないはずだ。けれどどこか懐かしいような、それでいて居心地の悪いような……例えるなら昔苛められた相手にばったり会ってしまった、そんな恐怖にも似た感情で胸の奥が騒がしい。


「おい、いつまでオレの顔に見惚れてるつもりだ?」

「いいえ、全然」

「は?」

「え?」


 得体の知れない動揺からブレントの顔を凝視してしまっていたようだ。

 思わず全然見惚れてないですと本音が出てしまいパトリシアは慌てた。


「えっと、なぜか殿下のお顔を見ていると、懐かしさのようなものを感じて」

「ふん、陳腐な台詞だな。よく言われる。前世で結ばれた仲に違いないってな」

「そうですか」

 変な事を言ってしまったかと思ったが、よく言われているならよかった。


「うふふ、サディアス殿下ったら~」

 大きな笑い声が聞こえ振り返ってみると、知らない少年にエスコートされ会場にやってきたリオノーラを発見した。

 ちゃっかり自分の胸元に聖女の徽章をつけている。


「おい、なんであの徽章を向こうの女が着けてるんだ?」

 同じく会場に入って来た二人に視線を向けたブレントが眉を顰めた。

「……妹がどうしても貸してほしいというので、少し」


 有り得ないと言いたげにブレントが眉を顰めた。彼の反応は当然で居たたまれなくなるが、無理やり奪われたと言っても問題になりそうなので言わないでおく。


「えっと、返してもらいに行ってきますね」

 リオノーラが何度も名前を連呼しているので、恐らく一緒にいる少年がサディアス王子なのだろうと察し、ついでに挨拶をしようと思ったのだが。


「いや、待て」

 止められ、どうしてだろうとブレントの顔を見ると、口元に意地悪そうな笑みを浮かべている。


「アイツ、向こうの女が聖女だって勘違いしてるみたいだ」

 聖女の徽章を胸元に着けているのだ、そりゃそうでしょうねとパトリシアは思った。


「せいぜい勘違いさせてやればいい。ククッ、あとで事実を知ったアイツの顔が見ものだな」

「…………」

 自分たちも人の事は言えないが、王子たちの兄弟仲は良好とはいえないようだ。


「でも、父からはサディアス殿下にもご挨拶するよう言われているのですが」

「この会が終わる時に声を掛ければいいんだよ。いいから、それまで向こうに行ってるぞ」

「え、ちょっ!?」


 有無を言わせてもらえないうちにパトリシアはブレントに引っ張られ、庭を案内してやると連れ回されたのだった。

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