マリーを見つけたリリー
「キリカ! あれフェルネットだよ! 制服着てる! 会いに行こうよ」
「よせよ。俺たちの事なんか覚えていないよ」
私が必死に手を振っても、フェルネットは気付かずに奥に入ってしまう。
キリカが私の腕を掴んで止めるからすぐに見えなくなっちゃった。
もう! 急がないと見失っちゃうのに!
早く行こうとキリカを見ると、すごく困った顔をしている。
「どうしたの? フェルネットの後を付けようよ。マリーに会えるかも知れないよ?」
「迷惑になるからあんまり騒ぐなよ。フェルネットさんだって仕事中なんだ」
キリカは大きなため息を吐いた。
もっと楽しめばいいのに。
教会のお御堂にはとても長い行列が出来ている。
この奥にマリーがいるんだって思ったら嬉しくなった。
「あっちでマリーに会えるのかな?」
「見るだけだって言ったろ?」
キリカは私の腕を放してくれない。
渡り廊下にも多くの人が行き交い、私達だけが立ち止まっている。
「邪魔になるからとりあえず歩こう」
私がそう言うとキリカも渋々歩き出し、一緒にお御堂に繋がる列に並んだ。
開け放たれた扉の端から、中を覗く子供達が見える。
「私もちょっと覗いて来くる!」
私はキリカの手を振り払い、勢いよく走り出した。
「おい! みんなと一緒にちゃんと並べ!」
もう、キリカってば、ずっと怒ってばっかり。
せっかくここまで来たのにさ。
ウキウキしながら子供達に混ざり、私も扉の端から中を覗いた。
え……。
祭壇前にはレースが幾重にも重なる細身のドレスを着た、美しい女性が座っている。
姿勢も仕草も表情も別世界にいるように優雅で素敵。
ハーフアップの髪はサラサラで艶があり、肌も白くて指先まで綺麗に手入れされていた。
「あれが? あれがマリーなの?」
「綺麗……」
いつの間にかキリカも一緒に覗いてる。
双子なのに全然違う。
本当にあれがマリーなの? まるで光の女神じゃない。
マリーの隣に、フェルネットと同じ制服を着ているハートを見つけた。
「キリカ! ハートだよ! ハート!!」
「よせって! これ以上、周りに迷惑かけんな!」
キリカに腕を引っ張られ、お御堂の外に出されてしまう。
「もう見たから十分だろ?」
「ハートなら命令すれば、マリーに会わせてくれるかも」
「ダメだ」
どんなに腕を揺すっても、キリカが私の腕を放してくれない。
私が『痛い』と叫んだら、キリカは気まずそうに『ごめん』と言って放してくれた。
「はぁー。リリー。約束したろ?」
「ハートは私の護衛だよ?」
キリカが呆れた顔で私を見る。
「頼むからこのまま俺と一緒に帰ってくれ。な?」
「……」
話にならないキリカを無視して扉へ向かった。
イラつく気持ちを抑えながら、行列をひとりで押しのけてお御堂の中に入る。
「ハート! ねー! ハートってば!」
すると入り口付近の白神官が慌てて私に駆け寄って来た。
「困ります。大きな声を出さないでください」
「だったらハートを呼んできて」
白神官は困った顔で私を見ると、奥の仲間の白神官達と話し始める。
灰色の制服を着た若い男が裏から出て来ると、白神官達がそこに集まった。
ハートと同じ制服だ。
私は手を振って、首を傾げてニッコリと笑う。
素敵な彼は話をしながらチラチラと私を見てる。
ふふふ。
私が笑えばこんなに簡単。
成り行きを見ているうちに、彼はハートに何かを言って立ち去った。
私はドキドキしながら祭壇にいるハートをじっと見る。
早くこっちに来ないかな。
その時ハートがマリーの肩にそっと触れた。
マリーが気付いて顔を上げる。
すると、ハートは愛おしそうにマリーを見つめて微笑んだ。
あまりにも衝撃的で、時間の流れがゆっくりになったような錯覚が起きる。
ハート……。
冷めた目でしか私を見なかったくせに。
笑いかけた事なんて無かったくせに。
感情なんて一度も見せなかったくせに。
マリーの姿に自分を重ねた。
私もハートにあんなふうに笑って欲しい。
私もハートに愛されたい。
ハートが欲しい。
いつの間にか私の周りに白神官がやって来て、お御堂の外に出されてしまう。
白神官は私が誰だか分かってない。
私は自分の護衛に会いに来ただけなのに。
何か無いかと建物の周りをウロウロしていると、やっと中に入れそうなドアを見つけた。
「あ、鍵が開いてる……」
そーっとドアを開けて中を覗くと廊下が見える。
「……。祭壇はどこだろう」
慎重に周りの様子を伺いながら一歩足を踏み出した途端、何かが腕に飛んで来た。
パン!
「痛っ!」
え? なにこれ? 水?
辺りを見回しても誰もいない。
パン、パン、パン。
「ちょっと! 痛いってば!」
さっきの若い護衛が姿を見せると無表情で小さな水を当ててくる。
避けているうちにいつの間にかドアの外に出されてた。
「何すんのよ! ハートは私の護衛なの! 聞いてくれたら分かるってば!」
護衛が何も言わずにドアを閉めると、ガチャリと鍵が掛かった音が聞こえた。
「は?」
なんなのあいつ。なにあの人を見下すような冷たい目。
しかも一言も喋らずに締め出すなんて、もの凄く失礼なんだけど。
あまりの仕打ちに唖然としていると、キリカが表から走って来る。
「はぁ、はぁ。もう。騒ぎを起こすなって言ったろ? 帰るぞ」
中腰になって苦しそうに息をするキリカが、右手を差し出して私を仰ぎ見た。
「触らないで!」
私は思わずキリカの手をパシンと叩いて振り払う。
キリカは驚いて目を見開くと、体を起こしてゆっくりと背を向けた。
「先に帰る」
ハートに見つめて貰うのは私なの。
マリーにハートを取られたくないの。
もう一度表に回って人込みに紛れ、今度は静かにお御堂に入る。
マリーがハートや白神官に守られて奥の部屋へと消えて行った。
そんなマリーの後姿が、悔しくて悔しくて堪らない。
私が光の加護を受けたのに!
私も守ってほしいのに!
私は水を当てられて赤くなった腕を見る。
悔しくて悲しくて涙が溢れた。
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