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護衛の交代

 テッドさんは嬉しそうにガッツポーズをしているけれど、私はなんだか複雑だ。

 ハートさんがこのまま私の前から消えたりしないよね。


「マリー。サポートに入るからそんな顔をするな。な?」


 ハートさんが心配そうに私を見る。

 そうだ、ガインさんが決めた事だった。


「はい」


 私は力強く頷く。それを見たみんなの表情が和らいだ。

 私の反応を心配していたみたい。聖騎士さんまで……。恥ずかしい。


「大丈夫。僕もガインさんもいるから! ね、ガインさん!」


 フェルネットさんはそう言うと、ガインさんの肩に乱暴に手を回す。


「わはは。そうだ、そうだ。これを機会にヒヨコを卒業しろ」

「むぅ。ヒヨコじゃないですよ! ガインさんにはこの複雑な乙女心が分からないだけです!」


 ふざけてプンプンして見せると、みんなが安心したように一斉に笑った。


「もっと駄々をこねるかと思ったな」

「寂しいって泣き出すかと思ったのにね」


 それでもこの似た者親子は好き勝手に話している。


「ふん。もう大人ですからね。仕事の上で、人事に口出ししませんよ」


「な!」「生意気な!」


 ガインさんとフェルネットさんにブーブー言われて心外だ。

 良い事を言ったと思ったのに。


 うるさい親子は放置して、私はハートさんとテッドさんに会釈する。


「ハートさん、テッドさん。これからもよろしくお願いします」

「ああ。まかせとけ」「こちらこそ。よろしくね」


 すぐに散会し、それぞれ馬に向かって歩き出した。


「マリーはこっち」


 テッドさんに呼ばれて歩いて行くけれど、なんとなく違和感だ。

 思わず振り返りハートさんを見たら苦笑いをされる。


「師匠から馬の負担を減らす為、風魔法で浮くように言われたのですよ」

「浮く? へぇ。あの時シドさんはそんな事を……」


 テッドさんは私を馬に乗せると「早く早く」と無邪気な顔で楽しそう。

 私はあの時みたいに風魔法をテッドさんと共に身に(まと)い出力調整をした。


「こんな感じですかね」

「凄いな、違和感がない。これは楽だね」


 私は「でしょう?」と振り返って笑う。


「マリーは辛くないの?」

「あ、全然大丈夫です。むしろ馬車より楽です」


 魔力の心配をしてくれているみたいだけど、本当に少量の魔力しか使ってないから問題ない。

 ミリ単位の魔力操作なんて、小さな頃からの修業がなければ逆に無理だと思うけど。


「今後は何かあったら私に言ってね」

「はい」


 振り返ると後ろにハートさんが控えている。

 とても不思議な気分。パカパカとゆっくり野営ポイントを後にした。


「今日は山頂付近の野営ポイントを目指すぞ!」



 山の(いただき)付近の野営ポイントに、たまたまお酒を扱う商人さんがいた。

 それを見つけたみんなはもう大喜び。当然のように宴会の準備を始めてる。


 聖騎士さん達にもたまには息抜きが必要だよね。

 きっとこの辺りの魔獣さんはびっくりするだろうな。



「マリー」


 寝る前にぼんやり星を見ているとテッドさんがやって来た。

 昔、毛布を持ってやって来たガインさんと姿がダブる。


 あの時と違って野営ポイントの中は暖かいな。


「山では星が綺麗に見えるのですよ」

「本当だね。マリーは星が好きなの?」

「女の子はキラキラしたものが大好きなのですよ」


 そう言うとテッドさんは「キラキラしたものねぇ」と星を眺めていた。


「昔ガインさんと星を見たときは、柄にもなく将来の話をしたのですよ」

「ガインさんと?」


「はい。当時は聖女になるとは思いませんでしたけどね」

「へぇ。何になりたかったの?」


 魔法を使わず薬草を育てて暮らす事。

 当時はお母さんの呪縛と思っていたのに、今じゃ私の天職だ。


 私もすっかり変わったな。

 もう、お母さんの顔も思い出せないし。


 感情に任せて絶縁したけれど、どうしているのかな。

 私の事まだ怒っているのかな。それとも忘れてしまったかな……。


 私は無理に笑顔を作って感傷的な気分を振り払う。


「ふふふ。ガインさんに抱っこをされて寝てしまい、忘れてしまいました」


 私が笑って抱っこの仕草を真似したら、テッドさんが驚いた顔をする。


「ははは。ガインさんが子供をあやす姿が想像出来ないよ」

「結構、面倒見が良かったのですよ」



 翌朝、朝食を食べながら、テッドさんがガインさんに予定を聞いていた。

 ちょっと寝坊した私はスッと隣に座って、ふんふんと聞いているフリをする。


「山を降りたらいくつか小さな村がありますが、どこにも立ち寄らないのですか?」

「ああ、寄らない。すでに告知をしてるから、下手に立ち寄るとパニックになる」


 テッドさんは相変わらず細かくメモを取っていた。


「なるほど……と。では山を下りたら一気に目的の町まで行くのですね」

「そう遠くはないからな」

「はい」


「それよりマリー。お前は聖女に会いに来る人々に笑顔を振りまけ」


 ガインさんが話を変えて私を見た。

 寝坊はバレてないみたい。


「笑顔で癒すのですか?」

「聖女信仰の布教活動だと思ってくれたらいい」


「布教活動?」

「ああ。前にも説明したが、本来の巡礼の目的は金のない怪我人や病人を治す。これも重要な仕事だが、今回はお前の顔を売る事がメインだ」


「顔を売る事ですか」


 私が首を傾げていると「派遣時のトラブルも少なくなるだろ」と笑う。


 あー、そういう事ですか。

 でももう勝手が分かった私には『石でも槍でもどんと来い』なのだけど。


 教皇様はそんな事まで私の為に考えて……。大変な仕事だな。

 全部の国の聖女を采配をしているのかな。それとも支店長的な人が他所の国にはいるのかな。


「回れない所には、回復薬をこっそり配ればいいのに」

「あほ、何処かに配り始めたら、やがて全国に配る事になる」

「あ」


 確かに安く出回らせるのと、無料にするのとは違うよね。

 慈善事業で教会の組織が崩壊したら本末転倒だし。


 やっぱり聖女巡礼で特別感を出して治すのが、恩も売れるし一番効率的なのか。

 みんなで作ってくれたこの機会を、絶対に無駄には出来ないな。


 とにかく笑顔で頑張ろう。


読んでいただきありがとうございました。

ブックマーク、評価、いいね頂いた方、感謝です!

誤字報告、本当に本当にありがとうございます!!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 1.更新ありがとうございます。  毒親と絶縁した当事者の心境と苦悩が忠実に再現されている為、マリーさんを守ってあげたいと感じてしまうのは私だけだと思います。  毒親や兄弟差別の描写がリアル…
[一言] だんだんと教皇のジジイの思惑に乗せられてる感が否めないなぁw
[気になる点] 聖女の顔を売るって同時にリリーの顔もなんですよねえ。 どこかの誰かがリリーに聖女様ですかと問うとか、問答無用に拐われるシーンが思い浮かんで不安。
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