子供の処分
せっかく謝りに来たってのに、教会の門の前で白神官様に追い返されちゃった。
無表情で『約束のない面会は、受け付けていない』だってさ。
ぷっ。なんだよあの顔。可笑しくてゲラゲラ笑っちゃったよ。
後ろにガタイのいい聖騎士をあんなにゾロゾロ引き連れて来なきゃ隙を見て無理やり入ったのに。
あんなの反則だよ。
で、しかたなく教会の裏に回って謝ってたら煩いって聖騎士に掴まっちゃった。
牢屋に入れられたけど慣れたもんだ。フン。どうせ前みたいにすぐに釈放される。
ガシャン!
「おとなしくしていろ」
乱暴に牢の扉を閉めた聖騎士がものすごい目で睨んでた。
きっとあれは悪徳聖騎士だな。
賄賂がないと拷問されたりするのかもしれない。
「はぁー。せっかく謝りに来たのにさー。結局、聖女様は出て来なかったなー」
俺がため息交じりにそう呟くと、一緒に来たおじちゃん達三人が喧嘩を始める。
「だから町長から言われたろ! 事前の約束がないとダメなんだって!」
「はぁ? 『謝りに来た人を追い返す訳がない』ってお前が言ったんだろ!」
「だから! 教会がクズだったって事だろ!」
「うるせぇ!!」
ガン! ガン! ガン!
あちこちの牢屋から格子を叩く音がして、俺達は顔を見合わせ竦み上がった。
他にも人がいたのか……。
「おい、聖女様がなんだって?」
隣の牢から大人の男の声がする。
「遠くの町からわざわざ謝りに来たのに、追い返されたんだ」
「上級貴族ですら順番待ちなのに。割込める訳がないだろ。馬鹿だな」
割込みって……。
何言ってんだよ。
「面会じゃなくて謝罪だよ?」
「謝るような事をしたんだろ? だったら尚更だ」
男は呆れた声で吐き捨てるように言った。
急におじちゃんが立ち上がって格子を掴む。
「町に聖女を派遣しないと脅されたんだ! 仕方ないじゃないか!」
「謝りに来いと、言われたのか?」
「言われてないけど、町のみんなが……」
「何言ってんだ。自分達の都合だけで。ホントに馬鹿だな」
おじちゃんは悔しそうに隣に座った。
確かにそうだけど、馬鹿、馬鹿ってうるさいな。
それならどうすれば良かったんだよ。
コンコン。
向かいの牢の爺さんが軽く壁をノックしている。
「なぁ、何を謝りに来たんだ?」
俺達はこの爺さんや周りに聞こえるよう大きな声で、あの日の事を少し大げさに説明した。
なのに……。
「馬鹿どもが」
それなのに爺さんがため息交じりに首を振る。
また馬鹿って言った。
「3日で来たんだろ? 十分早いじゃないか」
みんな揃って同じことばっかり!
「でも、かあちゃんは朝までは生きていた!」
俺は拳で力いっぱいに格子を叩く。
「即死の連中の家族はそんな事言ってないだろ?」
「だって即死じゃ助からないじゃないか」
この爺さんはそんな事も分からないのか?
「同じことだ。あと1日早ければ、あと1時間早ければ、あと1分早ければ、とな」
「でも……」
爺さんは「話にならんな」と鼻で笑う。
「じゃあ、お前の手に治療薬があるとする。町に帰るとその薬が無くて死んだ患者がいた。患者が死んだのはお前のせいか?」
「は? そんなの知らなかったんだから俺のせいじゃないよ」
爺さんは大きくため息をついた。
何だよ。どういう事だよ。
「聖女様にとっても同じ事だろ? お前の親が死んだ事すら知らずに来たのに。どうして聖女様だけが、石を投げられて当然なんだ?」
同じ……。
周りのおじちゃん達が息を飲んだ。
どうしよう。
「聖女様はお前の町で何をした?」
何って……。
「朝まで怪我人を治療して、魔力が切れるまで道路とか直して、そのまま黙って帰った……」
声がだんだん小さくなっていく。
どうしよう。
『朝までとはすごいな! 流石、俺の聖女様だ!』
『お前のじゃねーぞー。俺達のだ!』
『『『わははは!』』』
隣の牢の男が声を上げると誰かが突っ込み、周りのみんなが楽しそうに笑っていた。
「聖女様の仕事はなんだ? なんて習った?」
聖女様が何の為に災害地に派遣されるのか……。
助けに来るわけじゃない。怪我人を治療する為……と。
「どうしよう」
手がどんどん冷たくなっていく。
『治療して回ったあげく『人殺し』と呼ばれた聖女様の気持ちを考えろ』
『知らない町で石を投げられて。さぞ怖かっただろうよ』
『その場で打ち首で当然だ。抑止力の為にもせいぜい覚悟するこった』
『『『わははは!』』』
俺はあの時の光景を思い出す。
あの護衛は聖女様に俺達を絶対に見せなかった。
あの護衛は分かっていたんだ。
俺達は、聖女様の視界に入る価値もないと。
聖女様の記憶に残す、価値すらないと。
「どうしよう……」
牢で騒ぐ人達の言葉が俺の頭の中でこだまする。
俺、なんて酷い事を言ったんだ……。
「出ろ。処分が決まった」
数日後、俺達は王都から永久追放になった挙句、戻った町からも追い出された。
なんて馬鹿な事をしたんだろう。悔やんでも悔やみきれない。
行く場所も帰る場所も無くした俺達は、魔獣に怯え、まともに眠る事さえ出来ずに何か月も彷徨った。
山を越えた辺境の小さな村に何でもするからと頼み込み、隠れ住む事が出来てホッと息を吐く。
奴隷のような生活だが森にいるよりはずっといい。
ステータスには “聖女暴行罪” と “王都永久追放” の履歴が残った。
石を投げなかった俺だけは成人したら消えるらしい。
今更だけど聖女様、本当にごめんなさい。
読んでいただきありがとうございました。
※ちょっと気持ちが重くなるので表現を変えて加筆しました。
ブックマーク、評価、いいね頂いた方、感謝してます!
誤字報告、いつも本当にありがとうございます!!





