閑話 通称テッド
私の名前はテッドリーヴァン。
通称テッド。
現教皇の孫だ。
この事をマリーは知らない。
隠しているわけじゃないが、言ってもいない。
私はお爺様の伝手で、幼い頃からガインさんに剣の稽古をつけて貰っていた。
シドさんや、ハートさん、フェルネットさんにも色々お世話になっている。
ある日ガインさんから聖女警護の話を聞いて、私はそれに飛びついた。
適性検査で第四聖騎士(暗殺部隊)に配属されたが、守る側にも興味があった。
後で知ったがお爺様は『聖女の秘密を知る者を身内に限定したい』と言われていたらしい。
ははは。
まさか自分の孫も対象にされると思わず、お爺様には大変驚かれた。
まぁ、そのおかげで私に白羽の矢が立ったから、本当にラッキーだったよ。
でもなぜか、警護対象の聖女と一緒に依頼をこなす日々。
これじゃ、警護と言うより仲間だな。
「よう」
ガラの悪い冒険者がマリーの前に足を出した。
厄介だな、こいつらはA級だ。さて困ったぞ。
いつも私は冒険者ギルドに入る時、とても緊張をする。
A級レベルに束になって来られたら、私一人じゃ守り切れないからだ。
おかげで退路の確認が癖になっていた。
なのに聖女であるマリーはお構いなしだ。
はぁ。
周りの連中もニヤニヤしながらマリーを見ている。
ここは私が……と前に出ようとしたら、その足を、いきなりマリーが蹴り上げた。
え?
「いってぁなぁ!」
いきなりマリーを抱き上げる大男に後れを取る。
慌てた私の腕は、既に彼の仲間に抑えられていた。
流石A級、私の殺気に反応されたらしい。
びくともしない。どうするか……。
「もう! 今日はお仕事で来たんですってばぁ」
「相変わらず生意気だな! ほれ」
ガラの悪い大男がマリーを降ろし、黒い石を握らせる。
「え! 見つかったのですか? きゃー! ゴバスさん凄い!!」
へ?
マリーは大喜びでぴょんぴょん飛び跳ね、ゴバスと呼ばれた大男に飛びついた。
唖然として目を丸くしていると、いつの間にか腕の拘束も解かれている。
「ゴバスが手当たり次第に、それを探すよう指示してたんだぞ」
「そうそう。俺達みんなに。な?」
「うんうん」「そうそう」「ああ。探した」
冒険者達が各々頷いていた。
「うるせぇ、お前ら! 黙ってろって言ったろ!」
ゴバスは照れ隠しに怒鳴り散らす。
マリーは「ありがとう」とゴバスに微笑むと、みんなに向き直る。
「この石はですねぇ、稲妻で出来た石なのです。非常に珍しい魔力磁石なのですよ。これで各属性の魔力成分だけを抽出すると、色々なお薬が出来るのです!」
嬉しそうにマリーは冒険者達に、貰った石の説明をしていた。
学校でそんな石があると習った事があったな。確か落雷石……だったかな。
おそらくここにいる冒険者達の半分も、この話を理解してはいないだろう。
だが “マリーが喜んでいる” という事実だけが、この者達にとって重要らしい。
それぞれが俺の娘は賢いだろうと、マリーの事を自慢する。
いったい君には何人の父親がいるんだよ。
「皆さんの為にも、絶対に良いお薬を作って見せますからね!」
「「「「「おー!」」」」」
「任せたぞ!」「期待してるぞ」「ありがとな!」
冒険者達は拳を振り上げ、楽しそうに盛り上がる。
ゴバスも嬉しそうにニヤニヤしながら頭を掻いていた。
ここはマリーにとって、小さな頃から通っていた “親戚の家” みたいなものだと聞いていた。
だが、新参者が多い王都で気を抜く事は出来ない。
私が警戒を解かずにいると「ここであいつに手を出す奴はいねぇよ」と苦笑いをした冒険者に背中をポンと叩かれる。
「気を抜け若造」「安心しろ」「俺達が許さねぇよ」「心配すんな」
私の肩を冒険者達が、代わる代わるにポンポン叩く。
申し訳ないが、その強面の顔で言われても説得力がないんだよ。
私達はいつものように掲示板から依頼を探し、冒険者ギルドを後にした。
「今日は森にホワイトリヨンの毛皮の採集ですね。魔獣狩りって冒険者っぽくて楽しみです」とマリーは無邪気に笑う。
ホワイトリヨンは冬に出る、白くて手触りが良い毛皮を持った、とても愛らしい魔獣だ。
きっとマリーは一角ウサギの時のように飛び出して行くんだろうな。
つい思い出し、笑みが漏れてしまう。
それを見たマリーが「テッドさんもそう思いませんか?」だって。
ははは。
ここは「そうだね」と聖女様に同意しておく事にした。
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