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初魔獣討伐

 今日は野鳥の羽の採集依頼を受けたので、山までの舗装された綺麗な道をテッドさんとふたりで歩く。


「……。シルバーウルフってA級魔獣なのですね……」


 掲示板にシルバーウルフの討伐依頼を見つけ、ちょっとショックだった。


 ガインさん達はあっという間に群れを殲滅していたのに、あれがA級なんだもん。

 C級か、それ以下くらいだと思っていたのに。


「そうだね。牙が武器に使われるから高く売れるんだよ」

「もし襲われたら私は剣で倒せるのでしょうか?」


 私の実力はどのくらいなのか不安だな。

 レベルは高いし魔法が強いのは分かっている。

 でも、実戦で使えるのか分からないし、練習とは違うし怖いし……。


「うーん。マリーが戦っている所を知らないからなぁ。今度一緒に稽古をしてみる?」

「そうですね。でも、できれば実戦のお手伝いをお願いしたいです」


 テッドさんの戦い方も見た方がいいのかな?

 ガインさんにいきなり組めって言われてお互いの事を何も知らないし。


「いいよ。実戦経験が無いと不安だよね」

「はい」


 ま、ガインさん達が帰って来た後でもいいかな。


 うーーん。それにしても野鳥の羽って……。

 闇雲(やみくも)に山の中を歩き回っても、枯れ葉しかない。


「依頼書にある野鳥は何を食べるのですか?」

「キールの実かなぁ。熟した物を好んで食べているみたいだよ」


 あー、あの酸っぱい赤い実かー。うんうん。

 あれは熱冷ましにもなるんだよね。


「じゃあ高台の、日の当たる場所に羽が落ちてるかも知れませんね」

「マリーがいると楽だな」

「ふふ。それはお互い様」


 息を切らせて高台まで登ると、さすがに汗でびっしょりだ。

 テッドさんが氷を入れたお水を渡してくれる。


「冷たくておいしいです」

「そうだね。今日は暑いねー」


 真っ赤なキールの実をたくさん付けた低木の周りに、抜けたばかりの羽が落ちていた。


「やった! 綺麗ですね。虹色に光ってます!」

「見たことない?」


 テッドさんが羽を一本取って、太陽の光にきらきらと反射をさせる。


「ジルズ鳥なんて、名前も聞いた事が無かったです」

「そっかー。集団で渡る時は日に照らされて、とても美しいんだ」


「へぇ。それはとても綺麗でしょうねー」

「秋には見られるかも。今度ガインさんに聞いてみると良いよ」


 ふふふ。確かにガインさんなら詳しそう。

 意外にロマンチストだし。ぷ。あ、笑っちゃ失礼。


 依頼は5本だけど20本以上落ちていたので、全て回収する事にした。

 こんな羽、何に使うのかと思ったら装飾用なんだって。

 依頼したのは服飾関係の人かな?


 帰りに水辺に寄って、あの薬草を採集して戻った。

 資金稼ぎもそうだけど、あの薬草を使う人が困らないようにね。


 そして記念すべき初魔獣は、あの茶色のふわふわの一角ウサギ……の子供。


「ていっ」


 眉間に一発で伸びてくれた。

 可愛いから罪悪感。ごめんね、ごめんね。

 小さくて可愛くても人を襲う狂暴な子なの。慣れなくては。


「今日もお疲れ様でした」

「今日は大収穫だったね」


 ふたりで満足げにギルドを出ると、道の向こうからおじいさまが歩いて来る。

 私は嬉しくなって駆け寄り、おもいっきり飛びついた。


「おじいさまー! 初魔獣討伐で一角うさぎを倒しました!」

「おっと。マリー。それはおめでとう。それで、依頼は終わったのか?」

「はい」


「よくやった」と嬉しそうにおじいさまはぎゅーっとしてくれた。

 うふふん。初魔獣が嬉しくてつい甘えてしまう。


「テッドもありがとうな」

「こちらこそ」


 おじいさまは師匠と待ち合わせをしていて、今日は飲んでくるから遅くなるって。


 残念そうな顔をしていると、テッドさんが私の前に来て「外でご飯でも食べて行く?」だって。

 ふふふ。兄がいたらこんな感じなのかな。


「記念ですから、ぜひ、ご馳走させてください!」


 テッドさんは私達がよく行く “大衆食堂” に行ってみたいと言ったけど……大丈夫なのかな?


 店に入りカウンターに向かって指を2本立てながら、近くのお客さんの料理を指差(ゆびさ)して、大きな声で『これ』と注文をする。

 親父さんが親指を立てて頷いてくれた。


 やっぱりテッドさんはこういう場所が初めてのようで、とてもびっくりしている。


「ははは。かっこわるいな」

「私もずっとハートさんの膝の上に抱っこされて、あれやこれやと勝手に注文して貰っていたのですよ」


 昔の懐かしい話をすると「膝の上に抱っこ?」とテッドさんが驚く。


「あはは。5歳の時ですよ。椅子に座ってもテーブルの上に顔が出ませんからね」

「ああ、そう言う事。ふはは。子供の面倒を見るハートさんが、全く想像できないけど」


 外から見るとそうなのかな?

 実際はめちゃくちゃ面倒見が良かったのに。


 運ばれてきた料理がテーブルを埋め尽くし、親父さんにお金を手渡すと「ちっさかったマリーが、こんな男前とデートとはなぁ」と、一品おまけしてくれた。


 ちょっと!


「デートじゃないですよ。初魔獣討伐記念です!」


 胸張ってそう言うと「色気がねぇな」と笑われた。

 個人情報がザルなこのお店で変な噂になったら、今後どれだけ揶揄(からか)われるか。

 恐ろしい。


「じゃあ、初魔獣討伐記念のおまけだ! おめでとう!」


 話を聞いていた周りのテーブルからも「初魔獣討伐記念か!」「おめでとう」と声をかけて貰った。


 えへへへ。照れるなぁ。


「ありがとうございます!!」



 そして案の定、お貴族様のように上品に食べるテッドさん。

 人目に付かない奥の席でよかった。

 私もテッドさんに合わせて、同じように食事をする。


 この場合、ガインさんに教えられたみたいに、私がテッドさんに言った方がいいのかな?

 出過ぎた真似かな?


 いや、一応は伝えておこう。


「テッドさん。周りを見て、同じように食べる事も修行ですよ。って、ガインさんからの受け売りですが……」


 私は照れ隠しに肩をすぼめる。

 テッドさんは周りを見て、少し嫌な顔をした。


 分かるよ。

 食べ方が汚くて、あれに合わせるの嫌だよね。


「マリーも出来るの?」

「頑張れば」と背を丸くしてお皿に口をつける。


 一瞬、目を丸くしたテッドさんも、背を丸めてお皿に口をつけた。


 に、似合わない……。というか、ぷぷっ。不自然過ぎる。


「似合いませんね」

「ふふ。それはコッチのセリフだよ」


 ふたりして笑った後、結局普通に食べる事にした。

 今度からはテイクアウトにしようだって。ふふ。


読んでいただきありがとうございました。

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誤字報告、本当に本当にありがとうございます!!

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