閑話 育てる覚悟
旅の初日の夜、みんなでマリーの教育をしようと決めてからひと月。
まさかマリーがこんな爆弾を抱えていたとはな。
ずっと感じてた違和感はこれだったのか。
「おい、寝たか?」
「ええ、ぐっすり」
「昼間にみっちり鍛えてやったわ」
シドさんが悪い顔で笑う。
「まさか妹ちゃんが嬢ちゃんの加護を横取りしてたとはな……」
「光適性はマリーの方だったのか……」
本当なら両親の下で勉強し、学校に入学して友達と楽しく過ごし、将来は教会に仕える聖女になる……。
そんな輝かしい未来を妹に奪われたと思ったから、覚悟して家を出たのか。
おかしいと思ったんだよ。
たった5歳なのに、一度も親を恋しがらないのは退路がないからか。
加護なしだと思っていたんだし、そりゃあ無理にでも感情を殺して大人になるしかないよな。
マリーが「妹を憎む未来しか見えなくて、自分の為に家族と縁を切るしかなかった」と苦笑いをしていたが、あれがあいつの本音だろうな。
まるで加護を奪って回った悪魔の子のおとぎ話だ。
自分が奪われる立場だったら……と思うと怒りで苦しくなった。
「やっぱり適性がなければダメなんだな。緑の精霊にも言われたって言ってたし」
「ああ。でも精霊の加護じゃダメなのかもしれんが、女神の加護なら使えるのかもしれん」
「適性のない属性が使えるのか気になるね」
みんな思い思いに口を開く。
「ま、不幸中の幸いだが適性のある光魔法は使えそうだな。下手すれば全属性魔法も使えるようになるかもしれない。MPの量も桁違いだし、みんなでマリーを正しく育てないとだな。ははは。育て方を間違えて、悪魔にでもなったら責任重大だしな」
最後は冗談半分に笑いながらそう言うと、更にみんなが真顔になり、ぶつぶつ独り言を呟き始めた。
え? どう転んでも、少し抜けているあの子が悪魔になるとは考えられないだろ。
ははは。みんな心配性だな。
でも光の加護があるって事は、教会学校に入学し聖女になる道も開かれたのか。
教会がまともに扱ってくれたら、の話だが……。
あの子は「魔法を使わず薬草を育てると、決めていたのに」と笑っていたが、どちらに転んでも良いようにしてやらないと。
この日の話し合いで俺達は、責任を持ってマリーを育てる覚悟を決めた。
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