ダンスレッスン
「マリー、目線に気を付けて!」
「指の先まで意識して!」
「足元ふらついてきたわよ!」
……。
ダンスレッスンの初日なのに、ちょっと厳しすぎない?
教会にあったお古のヒール靴に慣れなくて、重心に違和感。
教会にあった練習用のドレスも全く慣れない。
すぐに転びそうになってしまう。
普段からヒールを履いて、体幹を鍛えなくては……。
「ほら、目線!」
ははは。
前世で中学生だった私は、正真正銘の初ヒールなんだってば。
お手柔らかに願いますよ、先生。
「ふぅ。ありがとうございました」
「今までは、どちらの先生に習っていたのかしら?」
先生……と言うか、膝立ちのガインさん達と5歳の時に、毎日ふざけて踊っていただけで……。
『お姫様、ほらほら下見るな、背筋伸ばせ、指先のばせ……』って。
笑いながらいっぱい野次を飛ばされて。ふふふ。
私もシンデレラになりきって、調子に乗っちゃって。楽しかったなぁ。
これはどう説明したらいいのだろう。
「……子供の頃、知り合いのお兄さんに少し習った事が……」
「少し?」
ははは。細かい事は気にしないで。
「……。とても基礎が出来ていて、大変、驚きましたわ」
「ありがとうございます」
「後は……。そうね。慣れる為にも普段から、ヒールを履いて生活するといいわよ。ではごきげんよう」
「ごきげんよう」
先生がドレスの裾を持って腰だけ軽く落としたので、同じようにすると機嫌よく帰っていった。
神官とは挨拶の仕方が違うのか……。
習慣で、間違えないように気を付けなければ。
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ノーテさんから渡されたレッスン用ドレスから黒神官服に着替え、借り物のヒールを履いたまま、食堂へと向かういつもの廊下がなんだか違った景色に見える。
少し背が高くなっただけなのに。
それにしても、慣れないヒールで膝を伸ばし、目線や姿勢を意識して歩くのは思っていたより大変だ。
明日絶対、筋肉痛だわ。
自分用のヒール靴を、購入するよう指示されたけど、大丈夫かな。
「あれ? マリー少し背が伸びた?」
最近資料室に来るようになった財務補佐見習いのレイニーさんに、後ろから声をかけられた。
「そうなのです! 3センチくらい」
「3センチ?」
ビュッフェスタイルの食堂で、レイニーさんと一緒に列に並ぶ。
「ダンスレッスンの為に、ヒールに慣れないといけなくて」
そう言って足を見せると、レイニーさんが『あー』と頷く。
「ダンスレッスンか。黒神官て希望者は無償で受けられるんだよね。マリーはそういうの興味ないと思ってた」
「今後の為にも習っておいて損はないと、身内から……。でも、案外、楽しいですよ」
レイニーさんはうんうん頷き「確かに損はないねー」と納得顔。
「そうだ、レイニーさんも一緒にどうですか?」
一緒なら楽しいかと誘ってみたら、顔をプルプル振って「無理無理、レッスン料高すぎ」と拒絶されてしまう。
そっか、残念。
「でも、ヒールを履くと大人っぽくなるよね。あと、もう少ーし背が伸びたら立派なレディじゃない。ふふふ」
「薄暗い資料室に籠って過ごすのに、レディとかあんまり関係ないのですけどね。ははは」
「お互いそうだったねー。ははは」
おかずを取りながらふたりで自虐して笑う。
レイニーさんは美人だから大丈夫だって。
「あ、そういえばさ、最近、回復薬の量産化についての話題が多いけど、資料室もそんな感じ?」
「あはは。そういえば多いですね。あはは」
やばい。
そっちに繋がるように資料を配りまくってたけど、派手にやり過ぎた。
気を付けなくては。
トレーを置いて席に着くと、思わず「ふぅ」とため息が出る。
「やっぱりヒール辛い?」
「座ったら実感しましたね。今ふくらはぎが、すごく喜んでいます」
「浮腫むから、夜はマッサージをしないとだよー」
それから美容談義に花が咲き、周りの女性神官や私服女子にも色々アドバイスを貰った。
みんな意識高いなー。
「マリーはさ、素材がいいんだから磨かなきゃだめよ」
「そうよ。将来はものすごい美人さんになるわよー」
もう、お姉さま達ったら。お上手なんだから!
うふふ。色々勉強させてもらいますよ。
あれから資料室には、いい香りのするマッサージオイルやら、髪がしっとりするシャンプー、泡立ちの良い石鹸などの差し入れが……。
お姉さま達の情報網は凄いなぁ。
ちょっと大人の仲間入りしたみたいで嬉しいな。
読んでいただきありがとうございました。
※オリジナルの世界観で書いております。
細かい表現は気にせず、お話を楽しんでいただけると幸いです。
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