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初めてのおつかい

「えっとー。この辺で高価な種が手に入るって、庭師のドーマンさんから聞いたけど……」


 高級なお店ばかりが立ち並んだ通りに、私のような安い服を着た子供は場違いすぎる。


 下働きっぽい店員さんでも高級な服を着ているし。


 とりあえず、手あたり次第に聞いてみよう。

 大きなお店の入り口の前で、覚悟を決めて……。


「おい」

「はい?」


 襟首(えりくび)を捕まえられ入店を阻止されてしまう。

 ……だよね。

 想定済みです。


「教会の者ですが、お使いに来ました」

「教会の?」


「はい。植物の種と、調合用機材を探しています」

「ふん。そう言えば、店の下見が出来ると言われたのか?」


 ははは、泥棒と間違われている。


「違います」

「いいから出て行け」


 あっという間に追い出されてしまった。


 まさか買い物をする前にこんな試練があるとは。


 まだ1件目だ。

 お隣の店にトライ。



「今度来たら、憲兵に突き出すからな!」


 しっしっと追い払うような仕草でまた追い出された。


 攻略がムズイ。

 地味にメンタルが(けず)られていく。


 次でダメなら一旦帰ろう。

 ここはお隣より少し小さなお店だけど、商品さえ手に入れば……。


「あの……」


 そーっと、顔を半分だけ入れてみる。

 お店の入り口にいた黒髪のお兄さんが、私を上から下まで確認した。


「今、他のお客様がいらっしゃるから、裏口でもいいかな?」

「はい。教会から来ました。買う物は決まっています」

「そっか。じゃあついておいで」


 そうだよね。

 高級な服を着たお客さんと平民が同じ店内にいるのは困るよね。

 私の配慮が足りなかったな。


 お店の裏に回って小さな扉を抜けると従業員さんの休憩室があった。


 私のような平民がお使いで訪れるにはこういった裏口を使うのか……。

 ふふ、表から入ったら確かにああなるよね。


「ここに座って。ちょっと待っててね」


 彼は愛想よく私をベンチへ案内し奥へ消えていく。


 なんて礼儀正しい人なんだ。

 削られたメンタルがみるみる復活。


 戻ってくるとお水の入ったコップを手に持たせてくれて、私の目線に合わせて(ひざ)を突いた。


「何を買いに来たのかな?」


 私は笑顔で「植物の種と、調合用機材一式です」とサインの入った申請書を手渡す。

 ちょっとドキドキ。


 その申請書に目を落とした店員さんは、慌てて奥へと走って行ってしまった。

 あはは。やっぱり爆発草がネックだよね。


 待っている間、他の店員さんに「お使い偉いね」と褒められたり「良い子だね」と撫でられたり。


 ふふふ。まるで初めてのお使いみたい。

 初めてのお使いだけど。


 手元のお水が無くなった頃、高級そうな服を着た銀髪の中年の男性を連れて店員さんが戻ってきた。


「これは誰に頼まれたのかな?」

「私が申請しました。自分で買うように言われて。教会の購入カードも持っています」


 なるほどなぁ。

 お使いを頼まれた人がテロリストだと疑われるから、ノーテさんは自分で行けと言ったのか。


「手元にない品もあるから、すべて揃ったら教会に届けに行くけど、それでいいかな?」

「問題ありません。支払いはこのカードで」


 カードを差し出すと、店員さんはそれを丁寧に受け取り奥へと向かう。


「私はボルドーと言います。お嬢さんのお名前は?」

「マリーです」

「もしかしてマリーは、S級冒険者の黒龍さんの所のお子さんかな?」

「はい」


 ボルドーさんはハートさんを知っているんだ。

 身元が保証されたら、今後も危険な種を売ってくれるかな。


「そうですか。今後も必要なものがあれば、この裏口からいつでも来てくださいね」

「はい。そうさせて頂けたら助かります」


 つまみ出されたお店には裏口からでも行き辛いし、顔見知りが出来たら今後も楽だし。

 正直、ありがたい。


 そしてカードと商品の引換証を受け取り教会に戻ろうとすると、ボルドーさんが送ってくれると言う。


 大通りを歩いていたら第一聖騎士団がこちらに向かって来た。


「やっぱりマリーか。こんな所で何をしている?」


「あ、団長さん! お使いが終わったので、ボルドーさんと一緒に教会に帰るところです」


「まさか一人で来たのか? まったくもう、この娘は」


 団長さんが(あき)れた声を出すと苦笑いをしながら副団長さんが馬を降り、私を抱き上げて団長さんの馬に乗せてくれる。


「ボルドー。あとは私が」

「聖騎士様達もお気をつけて」


 私はボルドーさんに手を振って、凄く高い位置から眺める町の風景に感動しながら教会に戻った。


 もちろんその後ノーテさんに『外出時は聖騎士に声をかけるように』とこっぴどく叱られ、それを知られたガインさんにもめちゃくちゃ怒られた。


 骨身にしみました、二度としません。


 私のような幼い子供が一人でフラフラしていると、すぐに誘拐され売られてしまうらしい。


 物騒な世の中だ。


読んでいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 教会としてはマリー絡みで面倒が起こるよりは誘拐されたほうがマシ、と
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