パワハラ資料室
教会での生活は意外にハードだ。
特にメンタル面で。
私服職員は白神官の助手の仕事に来ている一般市民。
そして黒神官に対して私服職員はとにかく口が悪いの。
資料室の整理って聞いていたのに話が違うし……。
生まれて初めてのパワハラ絶賛受付中。
「おい! さっさとしろ!」
「申し訳ございません。見つかり次第お届けに参りますので、こちらに部署とお名前をお書きください」
「俺は今すぐ出せって言ってんだ! チビの癖に口答えするな!」
くぅ。
この整頓もされていない膨大な資料の山の中で、どうやったらすぐに3年前の予算案を見つけられるのよ。
あと、チビ関係ないから。
最初は独りで資料整理をしていたのに、資料を探しに来る人が多くて仕方なく手伝っていたら、今じゃすっかり資料室の管理人だよ。
しかも黒神官に人権などない。
「かしこまりました」
ずっと積み重ねているって事は、3年前だとこの辺か……。
もっと向こうかな。
最近の物は箱に入ってるけど、昔の物は何度も出し入れしているのかめちゃくちゃなのだ。
「まだかよ!」
まだだよ。
予算案。予算案。予算案。予算案。
予算案。予算案。予算案。予算案。
これかな?
とりあえずこの辺を持って走る。
「こちらでしょうか? ご確認ください」
「……」
暫く目で確認していたパワハラさんは2年前の予算案も要求し、イラっとしたがもう一度走る。
あそこが3年前だから、この辺が2年前かな……。
あ! あんなに高いところに!
梯子、梯子。
予算案。予算案。
あったー!
予算案は紙の上部の色が違うなら、先に言ってよー。
梯子を飛んで降りると一気に走る。
「こちらでしょうか? ご確認ください」
「お、おう」
ずさーっと前に出て、肩で息をしながら予算案を渡すと、パワハラさんは引き気味に出て行った。
フン、勝った。
ガチャ。
「先月の魔物被害の報告書」
「はい」
先月? これかな。
先月の資料が箱1つだけなのにその中から掘り出すのは思ったより時間がかかりそう。
しまった。時間の見積りが甘かったな。
「ちょっとー! 急いでんだけど!」
「はーい。おまちくださーい」
これも違う、これも違う……。
違う、違う、これじゃない。これでもない。
「おーい。まだかー? 時間かかるなら先に言えよー」
「すいませーん。もう少しかかりまーす」
「ちっ! これだから黒神官は! 後で持って来いよ」
「どちらの部署にお持ちすれば……」
ガチャン
……。
ドアしまったよね?
あー。どうしよう。
時間がかかると分かった時点で部署を聞いておけば良かった。
焦って思考停止してたよ。
ああああ、完全なクレーム案件だ。
いや、まずは報告書、報告書……。
「ここ2、3年分の 第一から第五聖騎士団の会計報告を、いい感じに宜しく」
「……。申し訳ございません。見つかり次第お届けに参りますので、こちらに部署とお名前をお書きください」
いい感じにってなに……。
会計報告のいい感じな物ってなんなの。
毎日毎日慣れない仕事に、ミスをしては怒られ、ミスをしなくても怒鳴られ。
走り回って足が棒。
教会用語はよく分からないし、急ぐから紙で手を切るし最悪だし。
ぴえん。
資料室が燃えたらいいのに。
魔物被害の報告書の人は、凄く怒ってたけど戻って来てくれて助かった。
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夕食を食べた後、門限までの自由時間。
おじいさまの家で楽しく過ごし、いつものように教会に戻……りたくない。
ずっとおじいさまの所で楽しく暮らしたい。
現実逃避したい。いや、逃げ出したい。走り去りたい。
同じ年の子はお庭で遊んでたり、教室に通ってたりして楽しそうなのに。
はぁー。
「どうした? ホームシックか? んん?」
帰りたくなくてため息を吐く私をハートさんが抱っこしたまま揺する。
ふふふ。ハートさんはいつも優しいな……。
街の人からハートさんは、娘を教会に預けている留守がちの冒険者と思われていて本当に申し訳ないけどありがたい。
「資料室に配属されたのですが、ミスばかりして怒られて。そもそも無人だったのですから、私は必要ないと思いませんか?」
ついハートさんに甘えて、八つ当たり気味に愚痴る。
「んー。今まではどうしてたんだ? 誰かに相談したのか?」
今まではみんな自分でやってた。
今はあんなにイライラしながらも我慢して任せてくれている。
そうだ、頭を使え、人脈と情報を武器に……だ。
「ハートさん! ありがとうございます! 少し光が見えました!」
「ははは。よく分からないけど、それは良かったよ」
ひとりでテンパってないで詳しい人に助言を貰おう。
まずは要望の多い、議事録棚、予算棚、会計報告棚を作ろう。
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