山越え前の最後の休養
「待望の春が来た。明日から厳しい山越えになる。その前に最後の休養だ」
マリーと旅を始めてからすでに半年ほど経つ。
確かに修行をメインに旅をしてきたが、最近はマリーの魔法がなければ野営が出来ないというほど成長してくれた。
「おいマリー。あっちに風呂作れ」
「いま食事用のテーブルと椅子を師匠に頼まれてるので、ちょっと待っててください」
「おーいマリー。結界忘れてるぞー」
「はーい」
マリーは魔物を一切寄せ付けない、恐ろしいほど強化された結界魔法を展開した。
交代で見張りをすることも無く、朝までぐっすり寝られるのは本当に助かる。
土魔法で個室や家具や風呂を作り、水と火魔法を合わせてお湯を張る。
水魔法で洗濯をして、火と風魔法を合わせて一気に乾燥させてしまう。
あいつは料理が出来ないから、男どもは魔物や野菜や果物を採取し捌いて料理する。
はっきり言って宿屋に泊まらなくても快適な旅だ。
「じゃあ先にお風呂入ってきますので、お料理の方はよろしくお願いしますねー」
マリーは本当に手がかからない。
我儘を言って困らせたり、言う事を聞かずに手を焼くことなど一度もない。
いつも俺達の役に立とうと一生懸命なんだ。
あんないじらしい姿を見たら、何でもしてやりたくなるに決まってるだろう。
これからあいつは風呂から出たら夕飯を食べ、フェルネットにいろいろな結界魔法を教わる。
朝起きたらハートから剣術や体術などを教わり、移動中は荷馬車の上で歴史や地理、読み書きなどを手が空いている者から教わっている。
シドさん直伝の魔法は、かなり繊細に扱う事が出来るようになり今じゃこれだ。
これだけ手応えのある生徒じゃ、教えている俺達が楽しくて仕方がない。
もともとの頭が良いらしく読み書きはすぐ覚え、計算なんて最初から俺達より出来る。
あいつが熱を出した時に、薬草の調合をしてやったらとても興味を示すので、バカ高い調合の本を苦労して手に入れて、みんなでプレゼントしてやったら大喜びされたな。
今じゃ夢中で読んでるし、薬草の知識もだいぶ増えて、ちょっとした調合や、薬草採集の手伝いも出来る。
「嬢ちゃんは最近果物ばかりよく食べるから、体調が心配だな」
「マリーは意外に肉好きだし、塩味に飽きたのかも。フルーツソースを試しに作ろうかな」
「そういえば、この間、新しい魔法陣が作れるようになったんだけどさ……」
料理しながら子供の話をする父親達が、俺も含めて妙に笑えて来た。
「そろそろあいつの好きなチーズ味のスープが出来上がるぞ」
「じゃ、並べるか」
最近はマリーが作った木のフォークやスプーンやナイフで、マナーの勉強もさせている。
あいつが将来聖女になる事を選択したら、そういうのも必要になってくるだろう。
フェルネットは上級貴族の息子だから、貴族の知識や礼儀作法は全部任せている。
ははは、懐かしいな。昔ハートに上級貴族の護衛をさせる為、厳しくやらせたな。
とうとう山越えか……。
ふと見ると風呂から出たマリーが背伸びして、小さな体で配膳の手伝いをしていた。
あーあー、危なっかしいったらありゃしない。
仕方がない、俺も手伝ってやるか。
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