家族になった日
「ただいまぁ」
「あ、おかえり。そこ気を付けて」
リビングのドアを開けたら、フェルネットさんが飾り付けの為に台に乗っていた。
お祝い?
首を傾げた私は、みるみる笑顔に変わる。
腕を組んだガインさんが、ドヤ顔で頷いた。
「父と呼べ」
「お義父さん!」
私は思わず飛びついた。
おじいさまも「良かったな。すぐに手続きが終わったぞ」と頭を撫でてくれる。
どうしよう。涙が溢れて止まらない。
やっと、やっと本物の家族になれた。
安堵と歓喜で気持ちがぐちゃぐちゃだ。
隣でハートさんがシドさんと、がっちり握手をしている。
飾り付けの花を持ったフェルネットさんは、台から降りて飛び跳ねていた。
「ふふふ」
泣きながら笑っちゃう。
「こんなに早くお前たちが二人が帰ってくるとは思わなくてな。夕飯の支度がまだなんだ」
おじいさまが笑いながら肩をすくめる。
「それなら飾り付けはこの辺にして、買い出しに行こうよ。な、テッド」
「はい!」
なぜかフェルネットさんが隠密部隊に入ってから、テッドさんが舎弟化した。
両極端のふたりは意外にも、気が合うみたい。
「よし、みんな! 好きな物を買ってこい! 久しぶりに持ち寄りで騒ぐぞ!」
ガインさんの声に、師匠は「酒だな、酒」とホクホク顔だ。
よく見ると、ハートさんの目が少し赤くなっている。
「おい娘。お前はこっちだ」
ガインさんに腕を引かれておじいさまと三人で、私は師匠たちと別れて買い物に出た。
「これからはお義父さんって呼びますね。お義父さん!」
「お、おう。娘か……。正式な娘か……。紙っぺら一枚の事だと思っていたけど、嬉しいものだな」
ガインさんの顔がへにょへにょになる。
「ガインはわしの息子になるんだな」
「あはは。おじいさま。そうですよね!」
そっか。おじいさまの息子になって、私とリリーの父になったんだ。
ハートさんの家族が師匠とフェルネットさん。
私の家族がおじいさまとガインさんとリリー。
この先も、ずっとみんなで一緒にいられる家族になれる。
そう思うと嬉しくて嬉しくて、自然と顔がにやけてしまう。
「寂しい老後を迎えるはずが、あの日マリーが来て、いつの間にかにこんなに賑やかな家族が出来て、わしは世界一の幸せ者だな。わはははは」
「俺も同じだ! わはははは」
おじいさまがガインさんの肩を叩くと二人は豪快に笑っていた。
どことなく、二人は似ている気がしないでもない。
商店街に出るとすぐに私の大好きな甘辛肉の香りが漂ってくる。
「お! 聖女様。夕食に串焼きはどうだい?」
私がギンっと振り返ると、ガインさんがにっこり頷いた。
「おやじ。焼いてある肉、全部くれ」
「いいねぇ、そうこなくっちゃ! ガインはいつも太っ腹だ!」
おじさんは嬉しそうに笑って、山になった串焼き肉を手早く包んでくれる。
あんなに沢山買って食べきれるのかな?
「リリーにも報告に行くぞ!」
ガインさんが串焼き肉を掲げて軽く振った。
やった! リリーもこのお肉が大好きだ。
「はい!」
おじいさまも一緒だし、家族全員でリリーに会える!
私は嬉しくなっておじいさまの手を取って、大きく振って歩いた。
「ふふふん。ふふふん」
幽閉棟に入るとガインさんは、初めて来たときのおじいさまのように「厳重だな」と小さく漏らしている。
「あれ? 忘れ物?」
部屋を覗くとリリーは机に向かって座っていた。古書の写本をしていたみたい。
背中を向けたまま、気配だけでそう言ったリリーが、首だけで振り返る。
「え?」
ガインさんを見たリリーが体ごとこちらに向けて、そのまま言葉を失った。
「父と呼べ」
照れくさそうにガインさんが笑う。
リリーの大きな目から涙が零れ落ちた。
「そうなの。私もさっき家に帰って聞いたところなの」
手で涙を拭いたリリーは、ゆっくり立ち上がってガインさんの前に歩いて来る。
「ありがとうございます」
短い言葉で感謝を伝えたリリーが、深く深く頭を下げた。
その言葉にどれだけの思いが籠っているのだろう。
その重みが分かるだけに、私は胸が熱くなった。
「まぁ、なんだ。そうかしこまるな。もう家族だろ?」
ガインさんはそんなリリーに戸惑って、少し焦った声を出す。
リリーはすぐに顔を上げると「ふふん」と笑い、そしていたずら顔で「お義父さん」と言った。
「おと、おと……」
またしてもガインさんがノックアウト寸前に。
「それ、いちいち面倒なんですけど。『お義父さん』」
「だよねぇ。『お義父さん』」
私たちから何度も「お義父さん」と呼ばれたガインさんは終始デレデレだった。
「ん? あれは……」
ふと熊の置物に目を留めたガインさんの顔が、更にふにゃふにゃになる。
あれはガインさんと二人で出かけた時に、私とお揃いでリリーにも買って貰った熊さんだ。
「ああ、あれね。意外に可愛いから、気に入ってるだけだし」
ツンとするリリーも半分にやけてる。
素直じゃないんだから。
ふふふ。毎日熊さんに話しかけているって、黒神官から聞いてるんだから。
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