結婚の準備
「なにこれ? 凄く美味しいんだけど」
リリーは満足げに、私が作ったシチューをスプーンで綺麗に食べている。
「うふふー、でしょう? ……じゃなくて、話聞いてた?」
「聞いてるってば。ガインは家族と縁切って来たんでしょ?」
全然聞いてないし。
「そうだけどちょっと違う。『書類上は』だけど、これからも家族なの」
「私は父さんたちしか知らないから、ぜーんぜん、想像がつかなーい」
無理もない。
あの家は放置系なのに厳しいという、矛盾した特殊な環境だったしなぁ。
ガインさんの家には信頼とか心のつながりとか、そういう根っこみたいな何かがあった。
「手続きが終わったらガインさんが来てくれるって。お義父さんって呼んであげたら?」
「ふふー。ガインがお義父さんかぁ。ま、見た目は父さんに適わないけどね。でもガインの事は結構好きかも」
憎まれ口を叩くリリーの口元は、嬉しさを隠しきれずに笑みが浮かんでいた。
まったく、素直じゃないんだから。
「それと、師匠がハートさんとフェルネットさんの保護者になったの」
「はぁ!? 何それ? 流行ってんの?」
リリーは目を丸くして驚いている。
私も驚いたけど。
「私たちの縁切りがきっかけになったっていうか。結婚するってなると、けじめが必要っていう感じなのかな。フェルネットさんだけはノリっぽいけど、もしかしたら長年の願いだったのかも知れないし」
「ふーん。そういえばキリカも、けじめが大事だってよく言ってたっけ。そういうのってキリカしか気にしないのかと思ってた」
キリカの家は先祖代々の大家族だったし、長男だからしっかりしてたんだな。
父さんみたいな一代目の移住組じゃないし。
「ねぇ、リリー。ガインさんは結婚するつもりがないのかな?」
「付き合いの長いマリーが分からないのに、私に分かるわけ無いじゃない。あ、でもドラゴンを倒して帰ってきたら、彼女が別の人と結婚してたって聞いた事がある」
なにそれ?
「なんでリリーが知ってるのよ」
「なんでって。しつこく聞いたから」
微妙に想像できるけど。
「知らなかった。でも、これから先、別の人との結婚とかさ」
「私はキリカ以外の人は一生考えられないと思ってるから、ガインの気持ちは少し分かるけどな」
そういうものなのかな……。
「リリーはもう恋をしないの?」
「え? 恋してるよ。これから先も、ずっとキリカにね」
そう言って笑う彼女の顔に迷いは無く、とても美しかった。
強くなったな。
リリーと別れて幽閉棟から出ると、ハートさんは私を見つけて嬉しそうに微笑んだ。
「マリー。白神官がきて『帰りに会議室に寄って欲しい』と言われた。時間あるか?」
「はい、大丈夫です。何の話でしょうね」
ハートさんも首をひねっている。
「さっきリリーから『ドラゴンを倒して帰ってきたら、彼女が別の人と結婚してた』って聞いたのですが……」
ハートさんがギョッとした顔で私の両肩をがっちり掴んだ。
「俺じゃないぞ。それはガインさんだ」
慌てるハートさんが珍しくて、吹き出してしまう。
「ふふふ。つい、頭から離れなくて急にごめんなさい。そうです。ガインさんの話です」
ハートさんが「ひどいな」と照れくさそうにしていた。
「マリーに出会う少し前かな? 俺たちを連れて、出来るだけ遠くに修行の旅に出るって言いだしたんだ。そしてマリーと出会った」
「初めて会った時に『こちらの事情で長旅になる』って言ってたのって……」
今頃になって、あの時の話が繋がった。
やけに時間をかけるな、とは思っていたけど、あれってガインさんの傷心旅行だったの?
「確かハートさんとフェルネットさんも強化合宿をしてましたよね」
「ああ。あの当時はフェルネットと一緒に修行中だったし」
ハートさんは当時を思い出して笑っている。
私はあの頃、みんなと離れたくないと毎日願ってたなぁ。
ふふふ。もうじき願いが叶いそう。
「あ、聖女様。お待ちしておりました」
会議室の前に到着すると、待っていた白神官がドアを大きく開けてくれた。
「これはいったい……」
部屋の中は書類やら資料が乱雑にバラまかれいて、カオスなんだけど。
「あ、聖女様! これをご覧ください。お御堂を白いお花でふんだんに飾って……」
「それに加えて、その日は王都の民に、聖女カラーの白いリボンを付けてですね……」
「いやいや、こちらを見てください。聖女様のお好きな、ピンクのお花をアクセントカラーに散りばめて……」
白神官たちは、それぞれの結婚式の案を書いた紙を次々と私の前に積み上げていった。
「「「お好きな物を選んでください!」」」
ははは。
迫力に押されて何も言えない。
ハートさんを見ると、そっちにも書類の山が出来ている。
「ありがとうございます。検討して後日お返事をさせていただきます」
私がそう言うと、ハートさんは二人分の書類を回収して席を立った。
これ以上ここにいたら多分大変な事になる。
「あ、あの……。警備の方は聖女警護隊の方でお願いしたいのですが……」
「申し訳ない。私たちは当事者と身内なので、その日の警護は聖騎士に依頼するつもりです」
ハートさんがきっぱりと断ると白神官は「ああ」と納得顔だ。
そうだ、警備の手配もあったんだ。
私がお御堂で、神様と女神様に結婚の報告をしたいなんて言ったから……。
「マリー。俺たちの式だ。遠慮はいらない。家族に相談してみんなで決めよう」
ハートさんが優しく微笑んで、力強くそう言った。
私が不安になると、いつもこうやって安心させてくれる。
そのおかげで癒されて、安心して、そしていくらでも強くなれた。
私もハートさんにとって、そうなれたらいいな。
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