強化合宿-マリー
辺境の村を出たのは夏の終わりの残暑が残る季節。
今じゃ紅葉も落ちて本格的な冬がそこまで来ている。
山の麓まで着くと、ガインさんが少し戻った東の森で強化合宿を行うと宣言した。
「「「強化合宿!?」」」
「そうだ。シドさんとも話したんだがマリーの魔法訓練、ハートの護衛訓練、フェルネットの戦闘訓練を冬が終わるまでやる」
「嬢ちゃんは私が付きっきりでみるからな。お前さん達二人はガインの下で訓練だ」
師匠とマンツーマンは厳しい……。
意外にガインさんは私に甘いのに。
「ここならそう遠くない場所に町や村がある。万が一の時にはギルドを頼れ」
パパ(ガインさん)とママ(師匠)にそう言われ、子供達は頷くしか選択肢はなかった。
買って貰ったあったかコートを脱ぎ、やる気アピールをする。
「寒くないか? 体調が悪くなったり熱が出たら早めにいうんだぞ」
「はい。春が来るまでって事は、3か月くらいここで野営ですか?」
「そうだな。嬢ちゃんには、先に土魔法を覚えて貰うとするか」
師匠の目がキラリと光った気がするけど、見なかった事にしよう。
しばらくして師匠が土魔法を優先した訳が分かった。
「ほれ、ほれ、土を平らにして。平らな足場は大事だぞ」
「はっ!」
「壁が出来たら個室が出来る。ほれ、みんなが期待してるんだ。嬢ちゃんなら出来る」
「はっ!」
むぅ。
どう考えても建設要員じゃないか。
でも、フェルネットさんから空調結界を習い、寒さに震えなくなった今でも確かに壁は欲しいな。
3か月ここに留まるならプライバシーは絶対。
平らな地面と壁は女の意地で覚えた。
個室が出来ると今度は生活の質を高めたくなるよね。
うん、分かる。
ガインさん達が個室の壁を叩きながら、あれやこれや言い出した。
「広めの風呂とかって最高だよな」
「よし、嬢ちゃんお湯を作ってみるか」
でも絶対に訓練関係ないよね。
給湯器扱いだよね。
今まで通り師匠が水入れて、ガインさんが温めればいいじゃん。
……とは言えないな。魔力温存して欲しいし。
くぅ。こうなったら意地だ。
「2属性の魔法を混ぜるのですか。やったこと無いですけど頑張ってみます」
「空調結界魔法と同じだよ。マリーはもう出来てるよ」
なんと!
いつの間にかそんな高度なことをさせられていた。
フェルネットさんおそるべし。
意外にお湯を作るのは難しくて全然無理。
でも、土魔法で個室とお風呂とベッドやキッチン、テーブルや椅子が出来てかなり快適。
やっぱり壁最高!
緑魔法で野菜やイモを収穫するのは簡単だった。
洗濯も水魔法で出来るし風魔法で乾燥も。
「お湯ムズイ……」
左右で別々に魔法を使うのと、魔法を混ぜるのじゃ難易度が違うなぁ。
風と火を混ぜて温風なら空調結界みたいに……。
「おおおお。師匠!」
かざした手から温風がふわーっと出て来た。
「ほう、属性が違う魔法を混ぜて、そうやって使う事が出来るのか」
「え?」
「結界は魔法陣を2つ重ね合わせればなんとかなるが、魔法はそうじゃないからな。流石だ嬢ちゃん。まさか出来るとは……こりゃ驚いたな」
師匠……!
感心してる場合じゃないですって。
終わりの見えない修行とか怖いですって。
「そういえばフェルネットさんて、多属性の結界を張れるんですか?」
「出来るわけないよ。出来たらいいなって思って言ってみたら、マリーが出来ただけだし」
「な!」
そうだよね。
フェルネットさんて結構そういう適当人種だよね。
フェルネットさんが出来るなら、今まで凍えるような寒さの中で火を焚いて暖を取ったりしてなかったよね。
出来て当然みたいな感じで言われたから忘れてたわ。
それでもお湯は難しかった。
何故なんだろう。
水の中で火が消えちゃうイメージがあるから?
暫くはお風呂に水を入れてから温める作業を、修行の為ガインさんの代わりにやる事にしたけどムズイ。
「めずらしいな。マリーにも苦手なことがあるんだな」
「今までが出来過ぎなんだ。少しは苦労してくれないと困るわい。はっはっはっ」
ガインさんは簡単にやってるのに……。
そうか。前世の常識が邪魔をしているんだ。
あああ、そう言う事なのかー。
「絶対に出来るようになって見せます!」
私が力こぶを見せると師匠が頭をポンポンして「そんなに頑張らなくったっていいんだ」と優しく笑う。
でも少しでもみんなの役に立ちたいんだもん。
読んでいただきありがとうございます。
ブックマーク、評価、いいね頂いた方感謝です!
誤字報告、ありがとうございます!!