彷徨う追っ手達
「ここにも立ち寄った形跡がありませんでした」
「下がっていい」
「はっ!」
くそっ。どうなっているんだ、もうすぐ冬になるのにどの町や村にもいない?
出発した村から順番に小さな村や町に寄って聞き込みをしているが、一切手がかりが見つからない。
教皇様直々の命なのに。
足取りが掴めないということは、既に殺されているのだろうか……。
いや、誘拐の線も考えられる。
しかしS級の冒険者がそう簡単にやられるか?
気持ちだけが焦るな。
次の町の冒険者ギルドでS級冒険者の素性を詳しく聞いてみるか。
「あの、聖騎士様。何かあったのでしょうか?」
いつの間にかみすぼらしい老人が馬の近くに来ていた。
目で「誰だ?」と部下に合図すると「この村の村長です」と咳込みながら小さな声で囁く。
なるほど。
「いや、人を探しているだけだ。余計な詮索はするな」
おどおどした仕草の村長はペコペコと頭を下げて住民の群れに戻っていった。
「行くぞ」
「はっ」
我々は次の町に向かって先を急ぐ。
「団長、次の町で今日は宿泊しましょうよ」
「そうだな。誰か先に行って宿を確保しておいてくれ」
「はっ!」
あっという間に走り去って行く背中が……。
副団長のお前が行くことないのに……。
まぁいいか。
「小さな子供連れで町に寄らず、旅をすることなんて可能なのか?」
「子供は我慢が利かないものですからね。すぐに体調も崩しますし。野宿だけで過ごすなんて慣れた男でもきついですよ」
そうだよな。
うちの6歳の娘はふかふかのベッドとぬいぐるみがなければ寝られないし、母親の姿が見えなくなれば泣き出すし、親もいない魔物が出る森での野宿だけの長旅なんて無理だろう。
既に追い越してしまったのか?
もしかしたら子供が家に帰りたがって戻っている最中なのかもしれないな。
一度引き返すか?
冒険者達が子供をどこかに預けて親を迎えに行っている可能性もあるのか。
まずは子供じゃなく冒険者の方を探した方がいいのか。
そこまで考えたところで次の町が見えてきた。
外壁門の前で副団長が大きく手を振っている。
あいついつも楽しそうだよな。
「団長ー!! 手がかりがありましたー!」
「お! 何!! 行くぞ!」
期待で焦る気持ちを抑えながら、外壁門まで馬を走らせた。
「門番、先ほどの話を団長に伝えろ」
「はっ。5歳くらいの女の子を連れたS級冒険者の一行が少し前に訪れました」
「どんな様子だったか? 子供はベージュの髪に青緑の目か?」
「そこまで詳細には覚えていませんが、とても美しい顔立ちで、お父さんそっくりのお嬢さんでした。大変、仲も良さそうでした」
「お父さんそっくり?」
「ええ、そっくり」
ん? 人違いなのか?
とりあえず今日は一泊して、明日冒険者ギルドに聞き込みに行くか。
私達はあまり目立たぬよう、外壁門の門番に馬を預けて町の中に入った。
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「だから、知らねーって」
「いや、S級冒険者の黒龍がこの町に来たことは、門番に確認できているんだ」
「来たことは来たけど、素材を売ったらすぐに出て行ったし、聖騎士様が知りたい様な事は何も知らねーよ」
ギルド長にS級冒険者の足取りを聞いてみたが、何も知らないようだ。
「団長! 彼らの宿泊先が分かりました!」
部下の一人が別の手がかりを見つけてきたようだ。
もうここでの収穫はなさそうだな。
「邪魔したな」
出て行こうと踵を返すとギルド長から「見つけてどうすんだ」と私の背中に殺気を向けられた。
「連れていた娘を保護するだけだ。冒険者の方には用はない」
それだけ伝えて冒険者ギルドを後にした。
あんな殺気を出せるとは……。
冒険者を少し舐めすぎていたようだな。
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「ギルド長、ガインの予感が当たりましたね」
「ああ。こっちに追っ手が訪ねてくるかもしれないってな」
「どうしますか?」
「信用できる支部のギルド長に事情を話して、フェルネットに情報を集めてやれ。とにかくギルドの威信にかけてもこの依頼を無事に成功させるぞ」
「すぐに手配します」
まったく、何がどうなってんだ。
しかもあの聖騎士、S級冒険者レベルの腕だ。
やりあったらあいつらでも数で負ける。
あのクラスの聖騎士があれだけの数で動くなんてあの娘、何者なんだ……。
こっちは親からの正式な依頼で動いてるのに、なんでコソコソしなきゃならないんだよ。
金は全額支払われているしキャンセルも入っていない。
たとえ教会が相手でも、S級案件で下手打てるかっての。
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