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絶対絶望パレード!〜ただしコンティニューは無制限です〜  作者:
二章『ゴーストナイトINハロウィンナイト』
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第4話

 そして錆びた甲冑目掛けて勢いよくぶん投げると、当たった瞬間氷の盾は勢いよく弾けてミストのように周囲を覆う。一瞬で視界が白く濁って何も見えなくなって、首根っこを引っ掴まれる。訳の分からないまま引き摺られるようにして霧の中を走り出した。西部劇の市中引き回しもかくや。自分を引っ張る少女の細腕は恐ろしいパワーを、しなやかな脚はとんでもない加速を生み出していた。

 それほど筋肉はなくとも、自分は平均的な体重をしている筈なのに。引っ張られた襟首ひとつで体ごと持ってかれて、思い切り襟が詰まって息も出来ない。此方の意識が飛びかけている事を気に留める余裕もない。少女は酷く、切羽詰まっているような様子だった。


「ごめんなさい」


 冷たい霧の中を駆け抜ける。

 高く澄んだ声は震えていて、嗚咽が混じっても尚、透明で美しかった。カロンカランと涼やかに揺れるハンドベルの音色を思わせる。苦しそうに息を弾ませながら、けれど、決して脚を止めることはなく。あまりにも一生懸命になって、少女はその、幼い謝罪の言葉を繰り返す。


「本当にごめんなさい……!」


 薄氷がひび割れるような音がしていた。

 軋む音の間隔が少しずつ短くなって、次第に周りを包む霧も薄くなる。触れないくらいの雪はいつの間にか霰や雹ほどの大きさの氷粒になって眼前を流れていった。

 バキンッと一際大きく硬質な音が響いて、少女の体が傾く。急に止まったものだから走っていた勢いを殺しきれず、首根っこを掴まれていた僕は彼女諸共、転がるように地面を滑った。なんだかカーリングやボーリングの球にでもなった気分だ。幸いにも転がっていった先に障害物はなく、視界がぐるんぐるん回っている事以外は特に大きな問題や怪我もなかった。

 ふらつきながらも自分はなんとか身を起こす事が出来たが、隣に伏せたままの少女が起き上がる気配はない。勢いよく転がった拍子にどこか悪い所でも打ってしまったのだろうか。恐る恐る、薄靄の中に横たわる少女に目を凝らす。


 その左腿から先がごっそりと消えていた。


 ひゅぅと息の詰まる滑稽な音が自分の喉元から聞こえてきて、きつく僕の襟首を掴んでいた彼女の右腕も、ついに限界がきたかのようにボロリと捥げた。

 それは椿の花が落ちる様によく似ていた。

 あまりに美しく、元の形を残したまま少女の腕は体から剥がれ落ち、もうすっかり息絶えたように動く気配はない。よく見れば少し離れた所に白いパンプスを履いた脚が転がっていた。先程転んだのはきっとあの脚のせいだ。走っている途中で捥げて、転んだ弾みで腕まで取れた。


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