第2話
そこに、目の覚めるような美少女がいた。
一瞬ピントがボケるくらいの至近距離に思わず仰け反り、近くに積まれていたオレンジのカボチャをなぎ倒す。灯台下暗し、とでも言うべきか。気が動転したまま、視界いっぱいに広がる極彩色の世界にすっかり圧倒されていて、こんなにも透明できれいな女の子が真横にいることに今の今まで気が付かなかった。
青色の瞳が煌めく。その少女は、あまりにも華やかな出で立ちをしていた。
シンプルに白銀で統一された服が、ガチャガチャと賑やかな世界では洗練されて美しく見える。上品に光を透かす、海月のようにふんわり揺らめくドレス。細く艶やかな銀の髪。髪飾りとスカートにはレースやリボンが幾重にも飾られていて、あちこちに散りばめられたスパンコールが街の灯りを反射してキラキラ光っていた。真っ白なリボンと花のあしらわれたパンプスに、指輪やイヤリングにまで大きなダイヤモンドみたいな宝石がたくさんくっ付いている。
まだ幼い妹が夢中になっている、アニメや童話に出てくるお姫様みたいだった。あんまりにも浮世離れした格好だけど、ハロウィンナイトと呼ばれていたこのファンタジーな夜の風景にはとても自然に馴染んでいる。一般的でシンプルな詰襟を着ている自分の方がよっぽど浮いて見えるくらいだ。
その芸術品めいた美しさに思わず見惚れていると、少女は突然此方の手を掴み跳躍した。道ばたに立てられていたカカシの影に彼女は僕諸共、素早く身を滑らせた。思い切り地面に引き倒されて後頭部を強か打ち付けるのと、とんがり帽子をかぶったカカシの首がポォンと宙を舞ったのはほぼ同時だった。
「え……」
頭の素材に使われていたらしい、乾いた藁が千切れてそのまま辺りに飛び散る。景気良く吹っ飛んだ首はゴム毬のように弾んで石畳の上を転がった。
物陰から聞こえていた笑い声が一気に色めき立つ。ワッと怖いくらい甲高い歓声を上げながら、囃し立てるような手拍子や口笛が聞こえてくる。いっそ熱狂的とも言える様相で盛り上がっていく周囲とは裏腹に、自分の体温はどんどん下がっているように感じた。薄ら寒いような気がするのに、握り締めた手のひらや背中にいやな汗が滲んでいる。ぎしぎしと鈍い動きで顔を上げる。
同じくらいゆっくりと軋んだ音を立てて、自分達の元へ向かってくるものがあった。