3-21 獣人族国での任務終了です
ヒヒーン!
馬がいななき、馬車が止まった。
アールがいる郊外の丘に到着したようだ。
しかし…
馬車の窓から見ると、あたり一面、獣人の野次馬でいっぱいだった!
ざっと見ただけで5百人はいるだろう。
よく、こんなに人里離れた山奥に集まったものだ。
みんな巨大な白いブラックドラゴン― それもまったく危険のないドラゴン― がいると聞いて、見物に来たのだろう。
そして、その噂のもとは警備をしていた獣人族の兵士たちで、彼らが交代で兵舎に帰った時にでも仲間の兵士に言ったのが広まったのだろう。
みんな遠く離れたところからアールが木を食っているのを珍しそうに見ている。
ワイワイ...
ガヤガヤ...
獣人族の兵士たちが野次馬がホワイトドラゴンの近くに行かないように見張っているが...
そんな心配は無用のようだ。誰も怖がって近寄らないのだから。
ただ、興味深いので集まって見ているだけだった。
「すごいな!あれを見ろよ!」
「白いブラックドラゴンだってよ!」
「ワシはブラックドラゴンは、獣人や人族や牛馬を襲って食べると思っておったが、なんと木や草を食べとるではないか!」
「牙もないな!俺たちがいても睨んだりしないしな!」
「見て、見て、お母さん、あのでっかいほわいとどらごん、木のはっぱを食べているわ!」
「あーん、あたしも見たーい!お父さん、かたぐるましてー!」
なんだか、すごいことになっている。
獣人騎士たちが獣人の野次馬をどかせて通り道を開け、馬車がアールに近づく。
さすがに馬たちも怖いのか、100メートルほどにまで近づくとそれ以上近寄りたがらない。
馬に乗ったジャバリュー将軍がレオの乗る馬車に近づいて来た。
「レオ殿、すまんが先に行ってあのホワイトドラゴンが無害だということを見せてもらえんかな?連れて来た職人たちが怖がって近づかないのだ」
「あ、全然問題ありませんよ」
レオはドアを開け、馬車から降りるとアールのそばに行った。
アールはレオを見るとよろこんででっかいシッポを左右にブルーン、ブル-ンとふる。
遠くで見ていたやじ馬たちから
オオオオオオ――――!
とおどろく声が聞こえる。
「見て、見て、あのほわいとどらごん、おしっぽふっているよ!お家で飼いたいな!」
「バカなことを言うのはおよし。一日にどれだけ草木を食べると思っているの?」
「そうだ、見てごらん。この一帯はもうほとんど草も木も残ってないじゃないか!」
「あーん。でもカワイ――イ!」
子どもは無邪気なので、とんでもないことをねだっている。
そんな騒ぎを背で聞きつつ、ホワイトドラゴンに近づいたレオ。
「アール、みんなが怖がっているから、ちょっとおとなしくして。それからテントを付けるからしゃがんで!」
「ギュイ!」
アールはすぐ静かになり、テントを付けやすいように腹を地面につける。
オオオオオオ――――!
とまた野次馬たちのおどろく声が聞こえる。
まるでサーカスで大きなゾウが芸をしているようだ。
「あ、お座りした―――!」
「ねえ、お父さん、同じような ほわいとどらごん、見つけて買ってー!」
「おお、よしよし。あとで軍のお偉いさんにたのんでみよう」
親バカとはよく言ったものだ。
「おとなしいから、だいじょうぶです!」
レオが犬族の職人たちを手招きすると、恐る恐るという感じで馬車を引っ張って近づいて来たが、50メートルから先は馬が尻込みしてどうしても動かなくなった。
しかたないので、レオたちも手伝って馬車から荷物を降ろし、アールのとことまで運ぶ。
おっかなびっくりとアールに近寄った犬族の職人たちは、ドラゴンがおとなしくしているので、そこはプロの職人、手早くテントをくくりつけ、シートや荷物を上げて固定したり縛ったりしはじめた。
アールはさらに大きくなったようだ。
ミユとフィラさんもランやモモに手を引っ張ってもらって、おっかなびっくりアールに乗り、シートベルトを装着してもらってから、エルフの酔い止め薬草液をのまされ、苦そうな顔をしている。
レオもアールに乗って、シートや荷物がしっかりと固定されているのを確認する。
すべてしっかり固定され、縛られている。さすがプロ職人たち、ちゃんとすることはしている。
確認が終わると、自分もシートに座りベルトを締める。
「よし、みんな準備はいいかい?」
「「「「はーい!」」」」
「では出発だ!」
アールが巨大な翼をブワーブワーっと羽ばたかせた。
土埃が枯れた草葉とともに大きく舞い上がる。
遠くのやじ馬たちのどよめきが聞こえる。
オオオオオオオオオ―――――――!
「飛んだー!」
「飛んだ!飛んだぞー!」
「あんなに大きいヤツが飛ぶなんて信じられん!」
「お父さん、買って!買ってー!」
「ああ、買ってやるとも、買ってやるとも!」
「あなた、出来ないことを約束しないでください!」
「はい...」
「バイバーイ!ほわいとどらごんさーん!」
「また来てねー!」
「元気でなー!」
みんな名残惜しそうにアールに別れを告げている。
ジャバリュー将軍がハンカチをふってミユに別れを告げている。
その豹顔には涙。
ミユも薄い斑点のある顔に涙を流している。
「パパ、さようなら!ミユはがんばって立派な勇者になります!」
だが、パパにはもうその声は届かない。
ジャバリュー将軍も何か叫んでいるが、ミユには聴こえない。
だが、100倍聴力のレオには聴こえた。
「ミューロィナーっ、レオ殿の心をうまく掴まえるんだぞーっ!」
“おいおい、豹顔将軍さん、わが娘に何を言っているんだよ?”
と思ったが、ミユには聴こえてないようなので安心する。
ミユがパパがそんなことを叫んでいると知ったら...
アールから飛び降りて豹顔将軍パパをまた責めるかも知れない。
だが、知らぬは仏... じゃない、豹娘だった。
アールが飛び立つときの凄まじい翼の音で聴こえてなかった。
ババーッ、ババーッと巨大な翼を力強く羽ばたかせ飛び続けるアール。
グングンと高高度を目指して上昇していく。
ゾオルの市街がたちまち眼下に小さくなっていく。
見るとミユが目をしっかり瞑ってホーン(グリップ)を一生懸命に握っている。
ランもモモもホワイトドラゴンでの飛行にはいく分、慣れてはいるが、やはり急上昇や急降下の時のGの変化と急角度の飛行はあまり気持ちよいものではないので、さすがにおしゃべりもせずに真剣な顔をしてホーンに掴まっている。
次の目的地は鬼人国の首都ガジーマだ。
どんな出逢いが、どんなサプライズが待っているだろうか。




