3-17 ゼリアンスロゥプ大王の決断
新しく仲間になった豹娘のミユを加えて4人は、ジャバリュー将軍の用意した馬車に乗って獣人族軍総司令部へと向かった。ジャバリュー将軍は馬で先に帰って行った。
四頭立ての馬車で、屋根付き、窓付き、ドア付きの王族送迎用のやつだ。
馬車の中でさっそく女子トークがはじまる。
「でさ、ミユって今いくつ?」とラン。
「私15です。」
「じゃあ、私より一コ下ね?」モモが言う。
「私は18歳よ」とラン。
「でも、もうすぐ16になります。」
「さっきね...」
ランがレオに聞こえないように声を低くして言う。
レオは御者のよこに座り、高いところから周りの景色を見ている。
が、ランもモモもレオが100倍聴力をもっているということをすっかり忘れていた。
「私たちの前でハダカになったでしょう?」
「はい...」
「ハダカになるって恥ずかしくなかった?」
「あ、そうそう。私もそれ聞きたかったんだ」とモモも興味を示す。
「いえ、任務のためなら、たとえハダカになることでも厭いません。」
「へえー...」とモモ。
「でもさー... お父さんはいいとして、レオがいたでしょう?」と切り込むラン。
「それは、正直言って、レオ様の前ではハズかしかったです。私も女の子ですし。それに父は、私が8歳になってからは、おフロもいっしょに入らないし、私の部屋にも許可なしでは入りません。」
「でさ、レオって結構カッコイイでしょう?」ラン、アタックの手を緩めない。
「はい。かなりカッコイイです。今日、はじめて見たとき、なんか胸の奥がキュンってなりました。」
「えーっ!」思わずモモが声をあげる。
「シー...!」ランが指を口の前にたてて静かにするように言う。
「ごめん... ミユちゃんもそう思う?」
「まだ若いのに、みなさんに慕われて、ランさんのお父さんやモモさんのお母さんや総司令官のガンおじいさんにも認められたほどの方でしょう? グッと魅力を感じない方がおかしいですよ?」
「そうかぁ...やはりね...」とラン。
「ランさんもレオ様をお好きなんでしょう?」
今度はミユが単刀直入に聞く。この娘も負けていない。
「私は最初の試合で負けたときからね...」
「でも、レオが好きなのは私たちだけじゃないわ。彼にぞっこんホレているエルフ少女ちゃんもいるのよね...」とモモ。
「イザベルさんも好意をもっているみたいだし...」
そんな女子トークを知らん顔して100倍聴力で聞きながら、レオは思った。
“また美女が一人、PTに入った!これもすべてエタナール様のおかげだな...”
“どういたしまして...”
という声がどこからか聞こえたような気がした。
- ∞ -
作戦本部には、ゼリアンスロゥプ大王以下、獣人族将軍たちと幾人かの戦士たちがいた。
戦士たちはたぶん、獣人族軍の部隊長か何かなのだろう。
さすがに作戦本部には、大王はあのお気に入りの若い獣人族妃たちを連れて来てなかった。
作戦本部では昼食をはさんで、レオたちが提示した元エルフ国と聖域奪還作戦について長時間にわたる会議が続いている。もちろん昼食は大王の好意で人族用の料理がたくさん運び込まれた。
「であるから、今諸君にお見せしている、この持ち運び式移動用魔法陣-『ドコデモゲート』とエルフの魔法陣術師は呼んでいるようだが- の片方をこのゾオルのコロシアムに設置する。
もう片方をイーストランジアの元エルフ国の聖域のある場所に設置することで、魔法陣を介して兵力の瞬時移動が可能となる。
その移動の時期は、『Xデープラス30日後』であり、同日を期してわが獣人族軍は鬼人族軍、ミッッデンランジアの人族軍、トロール族軍と同時に、魔軍占領下のイーストランジア中央部に侵攻し、可及的速やかに魔軍を粉砕し、イーストランジア中央部をエルフたちに取りもどす作戦を行うことになる。
また、このドコデモゲートを作動させるためには、エルフの魔術者が十数名必要になるため、エルフの里とゾオルを直接つなぐ特別ドコデモゲートも合わせて設置することになる。
以上、お分かりいただけたか?質問、疑問などがあれば言ってくれたまえ。」
ジャバリュー将軍がみんなを見渡して言う。
「それで、獣人族軍はどれほどの軍を派遣するのかね?」
聞いたのは、人虎将軍ガドゥンガン。
「最終的な兵力は、大王さまが決定される」
「モゴモゴ... ワガ軍は100万の兵を送りこむ。モゴ...」
大王の発言に騒然となる将軍たち。
誰もそんな大軍を送りこむなどと予想もしてなかったのだ。
「静かに!」
ジャバリュー将軍が声を発するとたちまち静かになった。
「ゼリアンスロゥプ大王が、100万の兵力を派遣すると決めたことに異存を申し立てることは許されん!」
ギラリと鋭い金目でみんなを見渡す。
「ジャバリュー将軍の言うとおりだ。エルフ国の救済に100万の軍を派遣するということは、ほかの種族に対して獣人族軍は、魔軍との戦いに本気であることを示すことになる!」
犬将軍モロシアン・マスティフも唸り声を出しながら、ほかの将軍たちを睨みつける。
「ミッッデンランジアの戦いが膠着状態に陥ってから数十年になる。このままでは獣人国だけでなく、ミィテラの世界の全種族の国が疲弊し、これ以上長い戦いを続けることができなくなるのは自明の理だ」
マスティフ将軍は続ける。
「イーストランジアの元エルフ国を魔王の手から奪還することは、通常であれば不可能といっていい。しかし、今回、勇者たちのコロシアムにおける戦いぶりを見たであろう?」
マスティフ将軍の熱弁は続く。
「あれは勇者殿たちの力のごく一部と聞いている。今日、我らの前にいる勇者たちのほかに、トロール族と大陸人族の代表のもとへ向かっている勇者たちもおり、その者たちの戦闘力も想像を絶するものだと聞いておる。したがって、今回のイーストランジア侵攻作戦は乾坤一擲の戦い、これによってイーストランジアの魔軍を完膚なきまでに叩きのめし、大反攻のキッカケとするのだ。それが大王様の決定された兵力100万の真の狙いなのだ!」
「オオオオオオ――――!」
居並ぶ将軍たちや戦士たちが一斉にうなずき、感嘆の声をあげる。
「さすがは大王様だ!」
「おれは大王様に深い考えがあられると思ってたぜ!」
「あたしは派遣軍に選ばれなかったら、志願してでもいくよ!」
もとより、大王にそんな遠謀深慮の考えなどあるはずはない。
ただ、ランに気に入ってもらうためだけの兵力100万だった。しかし、それを狂犬将軍の異名をもつマスティフが知らずにうまく言ったので、さも大王にそのような深い考えがあったのだとみんなに思わせたのだ。
ジャバリュー将軍は心の中で苦笑いしながらも、
「よし、それではのちほど、どの将軍の部隊を派遣するかについて決め...」
と話を終わりかけたとき、
「パオオオオオ―――――ン!」
耳をつんざくような音がなり響いた。
「ワシはその計画には反対だ!」
荒々しく長い鼻をふり回し、怒っているのは象族将軍のディアドコイ。
「キサマ、大王様が決定されたことを...」
マスティフ狂犬将軍が食ってかかろうとするのを片手で制して、
「なにがディアドコイ将軍は気に入らなかったのですか?」
ジャバリュー将軍は落ち着いた声で訊いた。
「そのドコデモゲートとかいうモノだ!」
と壁にかけられた移動用魔法陣を指して声を荒げる象族将軍。
「これのなにが気に食わないのですか?」
「そ、その大きさを見るがよい!ワシの象族部隊はそのトビラを通過できんではないか?!」
たしかに、3メートル以上の背があり、横にも大きい象族人たちは、このサイズの魔法陣では通るのはムリだ。
無理して通ろうとすれば、ドコデモゲートが破れてしまう!?
「.........」
さすがの知恵将軍ジャバリューもしばし無言になった。
「ディアドコイ将軍、それはまったく問題ありませんよ!」
助け船をだしたのはレオだった。
「なに、お前がこの魔法陣のトビラをその力で大きくすると言うのか?」
「いえ、それはムリです。そんなことをしたら魔法陣が壊れてしまいますよ」
「では、どうすると言うのだ?!」
「なにもしません。」
「お前はワシをバカにしとるのかぁ?」象族将軍の声に怒気がこもる。
「いえ、 ディアドコイ将軍にはXデープラス30日の間、配下の象族部隊を徹底的に訓練し、これからオレがいうミッッデンランジアの重要な戦闘地域に、あとでオレが連絡する日に出陣し、秘密裏に進軍しておいてもらいます。夜のうちに行軍し、昼間はうまくかくれていればブラックドラゴンにも見つからないでしょう。」
「それで?」
「そしてその時期が来たら、精鋭の象族部隊が前線まで来ていると知らない魔軍を急襲して粉砕するのです!」
「なに、ワシの精鋭象族部隊が魔軍を粉砕すると?」
「これはディアドコイ将軍にしかできない秘密作戦で、その効果は魔軍を震えあがらせることでしょう!」
「魔軍を震えあがらせる... それは気に入った!」
象族将軍は細いしっぽをブンブン回しはじめた。機嫌がよくなった証拠だ。
それを見て豹顔将軍もホッとする。




